- 関西におけるSDGsの取り組み
2015年9月「国連持続可能な開発サミット」おいて採択された「持続可能な開発目標:SDGs」が定められた後、関西でも産官学民の関係者が、目標の達成に向けて個々に取り組んでいましたが、SDGsにおける関係者の理解と協働は限定的であり、関西の持つSDGs達成に資する高いポテンシャルを生かせていませんでした。このため、関西の産官学民の多様なアクターによる高質で豊富な経験・知見を相互に結びつけることで、新たな技術的、社会的イノベーションを起こすことを企図する「関西SDGsプラットフォーム(KSP)」が2017年12月に設立されました。このような産官学民の多様なアクターによる地域型プラットフォームの」設立は関西発、かつ日本初の取り組みです。KSPの構想段階では、筆者は、JICA関西センターの次長でしたが、当時、宍戸健一所長(現JICA上級審議役)と朝まで議論して、関西の関係者の豊富な経験と技術力をネットワークで結び、関西におけるSDGsの認知向上と協働を促進するプラットフォーム形成の基本コンセプトを組み立てました。その後、日ごろからお付き合いのある産官学民の関係者に設立趣旨について説明に回ったところ、「是非やってみなはれ。」、「一緒にやりましょう」、「ここにも説明に行くと良い」と関西らしい賛同と応援をいただいたことが、KSP設立への大きな弾みとなりました。
- 関西SDGsプラットフォーム(KSP)の現在
KSPの会員数は、設立当初、設立時150団体に満たなかったですが、現在(2020年5月末)では、995団体(NGO等市民団体:169、大学、教育・研究機関:52、自治体・政府機関等:88、企業・金融機関等:686)と飛躍的に増えており、関西における進取の気風と関心の高さが伺えます。KSPにおいて具体的活動を行う5つの分科会も立ち上げられるなど、KSPとしてこれまでに関わったイベント等は計175件と関西におけるSDGs達成に向けた取り組みが加速されています。KSPの個々の活動については、誌面の制約上、ホームページ(https://kansai-sdgs-platform.jp)に譲り、本稿ではKSPの大学に関連する新たな活動への期待について紹介したいと思います。
- コロナ禍におけるSDGsの取り組みの重要性
今般のコロナ禍において、世界ではかつてない大きな被害を生じています。新型コロナ・ウイルスは、人々の健康や生命の被害だけでなく、社会や経済活動に甚大な被害を与えるとともに人々の不安をかき立て、様々な国・地域において社会を分断しています。
日本では、5月25日に緊急事態宣言は解除されましたが、今なお多くの人々は苦しみ、欧米につぎ、アフリカや中南米地域では、被害が拡大傾向にある。グローバル化が進んだ現代の世界において、新型コロナウイルスの対策は、的確な情報共有とワクチン開発を含む効果的な医療技術の開発が必要であることに加え、自国だけでなく、他国とも協力してウイルスの蔓延を押さえ込むなど国際協力の必要性が指摘されています。
今後、新型コロナウイルスとの共存が必要とされる時代において、新しい生活(new normal)を送るためには、技術革新と社会変革、人々の共感や協働がより重要な要素になってきますが、「いのち輝く未来社会」を築くためにも、SDGsの理念が今後さらに重要となり、KSPとその活動を担う大学を中心としたアカデミアの役割はひときわ大きくなっていくものと考えられます。
- SDGsとアカデミアの社会的役割
SDGsの各目標達成に向けた活動が行なわれるにあたっては、教育、研究、社会貢献活動の各面において、多様なアクターの活動を先導し、時には後押しするなど、大学を中心としたアカデミアの果たすべき役割は非常に大きいと言えます。
このため、KSPでは、大学等アカデミアが中心となり、高等教育や研究、大学の社会貢献活動について具体的な取り組みを行う大学分科会(仮称)の設置が検討されており、現在、関心を持つ関係者との議論を開始しています。
また、2025年には、大阪関西万博の開催が予定されています。主要テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、別名「SDGs万博」とも称されているとおり、開催にあたっては人類が構築すべき未来社会像とは何か、そのような社会を造るために必要な方策やアクションが何であり、SDGsの目標達成に向けていかに取り組むのかについて示すことが求められています。
KSPの大学分科会(仮称)では、上述の「いのち輝く未来社会」のあり方、必要な方策やアクションについて、大阪関西万博までの5年間の毎年、関西、日本、そして世界の産官学民の様々なアクターが徹底的に議論し、その結果を取りまとめて行こうとする構想があります。この議論の過程において、大学を中心とするアカデミアがファシリテーションの役割を担い、議論を促進することにより、同万博の成果にも資することも期待されます。