マンスリー・トピックス

日本におけるグリーンコンシューマー活動の沿革と到達点 — 後編 企業のエシカル通信簿の取り組み

環境市民代表理事/消費から持続可能な社会を創る市民ネットワーク(SSRC)共同代表 
杦本育生

2022年1月
「企業のエシカル通信簿」へ

この消費から持続可能な社会を創る市民ネットワーク(SSRC)で継続的に取り組んでいる主な活動が「企業のエシカル通信簿」調査評価プロジェクトです。毎年度10社ほどの企業の社会的活動を、「持続可能な社会づくり」、「環境」「社会・社会貢献」「人権」、「アニマルウエルフェア」「平和・非暴力」の7分野での活動を市民・NPO目線で調査し、レイティング(段階)評価をして結果を公開しています。

対象企業をどのように選択するか

「企業のエシカル通信簿」の作成をSSRCで検討した時、最初に大きな議論になったのが対象企業をどのように絞るかでした。できることなら、東証に上場している企業全てを対象としたい、そのほうが日本社会に大きなインパクトを及ぼせるというのがSSRCに加わったNGO の共通した意識です。しかしボランティア中心の限られたマンパワーでは、それは難しい。まずはBtoCの企業や流通小売業の企業に絞ろう。中でも消費者が日常的に買い物をしている商品のメーカーから始めようということになり、衣食住に関わる企業からということに決めました。

第1回(2016年度)の対象としたのが、食品加工業、アパレルメーカーでした。そして具体的にどの企業を対象とするかの検討を始めました。これは社会的影響力やその製品を日本中どこでも買える(選べる)メーカーという視点で、業界ごとに売上高上位10社ずつとしました。この結論には、「これでは大メーカーだけになってしまう」「中小メーカーでエシカルに熱心な企業を対象にするべき」だという意見があり、メンバーの多くも肯きましたが、それはこの「企業のエシカル通信簿」が社会に広まってからにしようということになりました。食品加工業からは明治HD、日本ハム、味の素、山崎製パン、マルハニチロ、アパレルからは、ファーストリテイリング、しまむら、ワールド、オンワードHD、青山商事を対象としました。

第2回(2017年度)の対象は生活に密着し消費者の購入機会が多い化粧品事業者から売上高の多い5社、最も身近な買い物場所であるコンビニエンスストア事業者から4社、そして昨今の消費生活に欠かせない宅配便事業者から3社を対象としました。第3回の1998年度は全ての人が家庭等で使用する家電製品のメーカー5社と、多くの人が利用する外食チェーン5社を対象とし調査しました。そして2019年度(第4回)は、多くの消費者が毎日のように利用し、プラごみ問題等で対応が注目されるカフェチェーン大手5社と飲料メーカー大手5社を対象にしました。

このように毎年度対象業種を変えていき、5年ほどで衣食住に関わるBtoCメーカーと流通小売事業者を一巡できたら、最初の対象業種にもどっていこうと考えていました。もちろん「毎年度対象業種、対象企業が変わったのでは経年変化がわからない」「中小企業でももっとエシカルに取り組んでいる企業の評価も知りたい」という批判が寄せられていることは承知しており、これに対しては2021年度から下記の「自主調査」で対応することとしました。

「企業のエシカル通信簿」調査の特徴と調査方法

「企業のエシカル通信簿」の大きな特徴は、調査項目が、SSRCに集うNGO・市民団体が企業・日本社会に求める認識、活動であることです(調査票はSSRCのウェブサイトページで公開中)。この点が、メディア事業者や企業系の研究機関の同様の調査とは異なります。これらのようにCSR全般を調査評価するものとは異なり、NGOが注目する点に絞った、すなわち現在ないし今後世界がセンシティブになると思われる点にフォーカスした調査評価になっていると私たちは自負しています。

調査のプロセスは以下のとおりです。まずSSRCのメンバーが、公開されている情報をもとに、調査票の各評価項目にチェックをいれます。そのチェック済みの調査票を対象各企業に送付して、対象各企業に調査結果の確認と修正意見を求めます。対象企業から修正を含んだ調査結果が戻ってきた後、企業の修正が妥当だと判断したときは調査結果を修正します。それが妥当ではないと考えたときは、企業に修正点のエビデンスを求めるといった形で、SSRCと企業間で互いに合意できるまでコミュニケーションをくりかえします。アンケート形式ではなくこのような方法での調査なので、調査結果の妥当性には自信を持っています。

各設問と回答選択肢には、NGOが重要性を判断して重みづけした配点があり、分野ごとに集計した点数がだせるようにしています。そして点数を100点満点で換算して10点ごとに10段階でレイティングしています。

このようなNPOが企業の社会的側面の事態を調査評価する取組は世界各地で行われており、消費者や企業からの信頼も高いものです。前編で紹介したアメリカの『より良い世界のための買い物(SHOPPING FOR A BETTER WORLD)』は毎年のように情報を更新しウエブサイトで評価結果が公開されており、日本の我々でも利用ができます。

「エシカル通信簿」の結果発表会での意見

第1回と第2回の調査結果は、サイトで発表するとともに東京で発表会を行ないました。この発表会には、調査対象企業を始めとして多様多種のセクターから会場一杯になる人々が参加してくださり、このような調査に対する関心の高さがうかがえました。私たちの調査項目やその評価に厳しい意見が出るものと覚悟して臨みましたが、会場での参加者の意見や質問は総じて好意的なものでした。

「日本でもこの種のNGOの取り組みが始まらないかと期待して待っていたが、やっとそのよう活動が始まり、企業や研究機関がこれにどのように反応するのか注目している」という意見が専門家からありました。他に評価対象企業からは「他のCSR関連の調査とは違う項目があり、消費者からどう見られているのかがわかり、多くの気づきがありました。調査に答えることで、今後は企業として武器になるのではないか。企業内の各担当部署に問い合わせることで、問合せ先の部署とも活発なディスカッションができた。消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワークとのコミュニケーションも意義深かった」、「分野ごとに専門家がついているので、公平的・専門的で安心できた」、「自社のことながら、これまであまり意識していなかったことにも触れていたので、深く理解し直すことができた」、「取り組むべき課題が明確になった」、「非常に深いところまでよく掘り起こし、詳しく調べてくれていて、嬉しかった」、等々の意見が相次ぎ、「この企業のエシカル通信簿」の活動に自信をいだくことができました。

また、マスメディア各社も発表会を取材してくださり、中でも毎日新聞と東京新聞は半頁大の大きさでエシカル通信簿の記事を掲載してくれました。

「エシカル通信簿」自主調査

エシカル通信簿は毎年度対象企業を広げていますが、日本の中小企業までを対象とするには従来のSSRCの体制ではかなりの無理がありました。そこで考えついたのが、関心のある企業に調査票と採点方式を公開し自主調査してもらうという方式です。現在数地区で試験実施中で、その結果をもとにした本格実施を2025年度にも行う予定です。ご関心のある企業、専門家の方はぜひご連絡ください。

消費者はエシカル消費に関心があるか?

消費者がエシカル消費に関心があるかどうかは、このエシカル消費の活動の最も重要な点です。この件に関して京都府からの依頼があり、環境市民でアンケート調査を不特定の京都府民を対象にして行ないました。「エシカル消費の考え方、行動は社会にとって必要だと思いますか。」という設問に対しては『大いに必要だと思う』が9%、『必要だと思う』が54.7%に対して「必要ではないと思う」が3.3%、「あまり必要ではないと思う」が10.9%と、肯定的な考えが大半であり、「エシカル商品等を知れば商品選択は変わると思いますか」という設問に対しても7.2%が「大いに変わる可能性がある」35.6%が「変わる可能性がある」と回答したのに対して『全く変わらない」が9.0%、「余り変わらない」が15.9%と、エシカル消費の情報次第で商品選択が変わる可能性に肯定的な回答でした。

この考えが実際の行動に移るには「エシカル商品等」の情報について知ることがキーになることは言うまでもありませんが、消費者が実際にどのような情報を求めているかも同アンケート調査で尋ねました。複数回答可で尋ねたところ、「どのようなエシカル商品等があるのか」が第1位で54.5%、「どこでエシカル商品等が販売されているのか」が第2位で46%でした。消費者はどこでどんな商品を選べばエシカル消費ができるのかを知りたいと思っているのです。

「ぐりちょ」の作成

そこでSSRCでは、このような消費者のニーズに応えるエシカル商品選ぶためのサイト作成し提供することとしました。その名称は「ぐりちょ(グリーンで倫理的な商品チョイス)」です(ぐりちょ – Green & Ethical Choices (guricho.net))。ウエブサイトですが、スマホでアプリのように使えるようにサイトの構成を工夫しました。ぐりちょには商品の種類(初期段階としてポテトチップス チョコレート コーヒー豆 紅茶 緑茶 卵 豆腐 醤油 食パン ハンバーガー アウター スニーカー シャンプー タオル トイレットペーパーの15品目を掲載)ごとにエシカル(環境、人権面から考慮すべき)基準を設定しています。そしてこの基準に合致する商品を写真付きでメーカー名・商品名を紹介し、さらにその商品を店頭においている店舗を地図付きで紹介しています。このようなサイトですので、基準に合致する商品、販売している店舗の情報を投稿できる双方向サイトにもしています。投稿された情報はSSRCで確認したうえでサイトに掲載しています。
なお、ぐりちょは基準の表現をより分かりやすくするために、現在修正中です。

写真 ぐりちょのサイト

*本マンスリー・トピックスは、2021年12月のマンスリー・トピックス「世界そして日本におけるグリーンコンシューマー活動のはじまり」の後編にあたります。