マンスリー・トピックス

世界そして日本における
グリーンコンシューマー活動のはじまり

NPO法人環境市民 代表理事
杦本育生

2021年12月
グリーンコンシューマー運動

「グリーンコンシューマー」とは、グリーンつまり環境にいいシンボルカラーである緑と、コンシューマーつまり消費者を合わせた造語です。直訳すれば「緑の消費者」ですが、木(グリーン)をたくさん消費する人と間違われたため、意訳して「環境を大切に買い物をする人」としています。例えば、ごみが多いしモノがもったいないという問題に対しての対処療法的方法は、リサイクルです。一方、根源的治癒の方法は、グリーンコンシューマーによる、ごみそのものを家庭に持ち込まない買い物をすることです。買い物を変えることで、生活に使うものを変え、ライフスタイルも環境を大切にしたものに変えていく、それがグリーンコンシューマーです。それは社会経済システムを変えることにもつながります

現在、グリーンコンシューマー運動と言われているのは、1988年にイギリスで発刊された『グリーンコンシューマーガイド(THE GREEN CONSUMER GUIDE)』が、その先鞭をつけました。この本が特徴的だったのは、目的が主として地球規模の環境問題への対応であったことです。地球温暖化、酸性雨、オゾン層破壊、海洋汚染、森林破壊などの地球規模の環境問題がクローズアップされてきた頃に出版されました。この本は、日常の消費行動と地球規模の環境問題が深く結びついていることを具体的に紹介しました。そして環境負荷の少ない商品やサービスを選ぶこととその方法、環境活動に取り組んでいる店や企業の紹介、スーパーマーケットチェーンの評価などを載せて、グリーンコンシューマーとして買い物することが、地球環境問題へ取り組むことになるという提案をしました。

1989年にはアメリカにおいて『より良い世界のための買い物(SHOPPING FOR A BETTER WORLD)』が出版されました。この書は環境問題への対応、社会への貢献、女性やマイノリティの雇用、軍需産業への荷担、情報公開などの基準でメーカーを採点し、それを商品ごとにわかりやすく表にしたものです。毎年改訂され94年には累計100万部に達しています。このガイドブックを出版した「経済優先度協会(CEP)」は、もともと投資先の情報提供を行っている団体で、日本でも始まっている社会的責任投資(SRI= =Socially Responsible Investment)に取り組む中でこのような本の企画に至ったといいます。

2つのガイドブックにより先鞭がつけられ、90年代、地球規模の環境問題が認識されることと平行して、その解決のための有効な行動として、欧州で、アジアで、アメリカでグリーンコンシューマー活動がNGOを中心に広がっていきました。そしてこの2つのガイドブックは日本の消費者運動、環境運動をしているNGOにも大きな衝撃を与えました。

地域版買い物ガイドという発想 ~英米のようなガイドブックをつくれなかったわけ~

このようなガイドブックを日本でもつくりたいと考えるグループも多くありました。しかし実際につくるには大きな障害がありました。

それは情報です。1990年当時、商品の環境面の情報、企業の環境問題をはじめとする社会的行動面での情報が、日本では入手が非常に困難でした。今でこそ日本においても大手企業の大半が「環境報告書」や「サステナビリティ報告書」を作成し公表するようになりましたが、90年当時は皆無でした。当時、日本には情報公開法もなく、企業や行政機関は情報公開や積極的な情報開示が社会的に必要とされているという認識も不十分でした。イギリス、アメリカのガイドブックを作成したグループには、出版されるまでに企業の社会活動や環境対応の情報を取得する長年の活動がありました。法的にも株主や地域住民に対して、日本よりは多くの様々な企業活動情報が提供されていました。

日本においては消費者活動、環境活動とも欧米諸国ほど組織化されておらず、独自の調査研究、情報取得能力も不足していたこともありました。このような理由で実際にガイドブックを作成することは困難でした。グリーンコンシューマー活動は情報活動です。環境によい商品を選びましょうと呼びかけても、消費者はそのコンセプトに賛成であっても、どんな商品を選ぶのか、どこにいけばその商品が手に入るのか、商品だけでなく企業として環境への取り組みを真剣に実施しているのはどこかといった情報があって始めて行動に移すことができます。その情報の媒体としてガイドブックは重要です。

日本におけるグリーンコンシューマーガイドのはじまり

とはいえ情報を集めガイドをつくることは容易ではありません。そこで実現性を考えるうちに、スーパー等小売店についての地域版ガイドをつくることがひらめきました。私が事務局長を務めていた「ごみ問題市民会議」で91年に発行したのが京都版の『買い物ガイドこの店が環境にいい』です。これが日本で初めて作成、販売されたグリーンコンシューマーガイドです。そして93年には調査内容をより充実させ、全面改訂したガイドブック『かいものガイド93 この店が環境にいい』を作成しました。京都についで川崎市で独自に買い物ガイドが作成されました。すでに現在までに100以上の地域で発行されていると推測されます。99年には、3度目の京都版のガイドを環境市民が作成しました。

次に、全国版ガイドの発行を試みました。グリーンコンシューマー研究会(バルディーズ研究会)、中部リサイクル運動市民の会、西日本リサイクル運動市民の会に呼びかけ、環境市民を含む4団体で企画を具体化し、実際の店舗調査や本社調査にはこの4団体に加えて各地の環境団体、消費者団体が参加しました。そして94年12月に講談社から『地球にやさしい買い物ガイド』として出版しました。また、97年に発足したグリーンコンシューマー全国ネットワークでは、99年10月に新しい調査に基づく全国版の新ガイド『グリーンコンシューマーになる買い物ガイド』を小学館から発刊しました。

この流通小売業を対象とした買い物ガイドの作成普及は、日本におけるグリーンコンシューマー活動を全国に広げるという成果を上げることができました。しかし、印刷物では情報が陳腐化するという課題と、環境以外の社会的課題に対する評価の必要性、そして評価対象企業を流通小売業だけでなくメーカーに広げる必要性が明らかになってきました。そこで活動を次の段階に進めることになります。そのことについては稿を改めてお伝えしたいと思います。

(以下は、ここで紹介させていただいた冊子・書籍の表紙です。左から、『買い物ガイドこの店が環境にいい』(1991)、『かいものガイド93 この店が環境にいい』(1993)、『地球にやさしい買い物ガイド』(1994)『グリーンコンシューマーになる買い物ガイド』(1999)です)