マンスリー・トピックス

アフリカ・ガーナにおける高等教育の先生
~工業高校を例に~

社会ソリューションイニシアティブ特任助教
宮﨑貴芳

2022年11月

皆さま、こんにちは。大阪大学SSI特任助教をしている宮﨑と申します。
私は2014年10月から2017年3月まで青年海外協力隊員としてガーナで生活し、現地の工業高校で太陽光発電に関する技術指導を行っておりました。
今回はそこでお聞きした高等教育の先生方の文化や考え方についてお伝えしたいと思います。

派遣の経緯

協力隊に参加する前まで、私は太陽光発電パネル製造の研究技術者でした。日々性能の向上に取り組む中で、2011年3月に東日本大震災が発生、そして日本国内で太陽光発電の普及が急速に進み始めたころではありましたが、「太陽光発電は最終的に太陽の光が強い地域が主要な市場になる」と感じていました。また、アフリカ・ガーナでは再生可能エネルギーの導入を進めているものの専門の人材も少なく、また教育機関においてはその人材育成が急務となっていました。そんな折、青年海外協力隊、そして偶然にも赤道直下であるガーナでの太陽光発電の教育に関する要望を見つけ「ぜひ参加したい」と志願・合格し、電子工学のスペシャリストとして青年海外協力隊に参加しました。

写真1.現地工業高校の先生方と(左端が筆者)

現地での指導

赴任した工業高校の電子科では、太陽電池コースを立ち上げたいという校長先生の意見を元に、まず現地の先生方への順序として、太陽光発電技術の基礎、応用について指導を行い、理解した内容を先生方自身で生徒に教える、という流れを考え、説明しました。
その際、電子科の先生全員が非常に興味を示し、「ぜひ学びたい!平日授業後に先生向けの講義をしてくれないか」との声があがり、指導をスタートしました。

写真2.授業後の講義(現地の先生撮影)

スタートしてしばらくすると、授業後での実施のせいか、先生方の欠席が目立つようになり、初め9人だった参加者も日に日に少なくなっていきました。また基本的な回路の計算問題を出しても間違っている先生も多く、「そもそも私の説明している内容を理解できているのか、確認のため抜き打ちでテストしよう」と思い、講義の中で計算問題を出すことにしました。ただ、これが失敗でした。

図1.先生の参加人数と講義日数の推移

現地での失敗とその理由

抜き打ちテストの途中、電子科の所属長の先生が突然「私は太陽光発電を学びたいのであって、計算問題をしに来たわけではない!」と激怒、教室を出て行ってしまいました。また、それに合わせて他の先生方も退席、そして、退席した先生方は授業には来なくなってしまいました。一方で若い先生方は最後まで授業に残ってくれました。退席した先生方は年上の方が多く、とてもショックでしたが、抜き打ちテストの結果を確認すると、驚くべきことに退席した先生方の成績が、参加し続けてくれた若い先生方に比べ低かったのです。
特に年上の先生方は十分な経験があると思っていただけに、これには衝撃を受けました。

図2.テストの正答率と現地教員の年齢との相関

若い先生方とのコミュニケーション

若い先生方とはこの件の後、より親密に話をすることができました。
例えば
・ガーナにおいて先生組織の中では年功序列が強い。
・基本的なことであっても担当範囲以外はわからない先生が多い。
・教科書の内容をただ板書するばかりで応用問題が作れない先生も多い。
・高校最後の認定テスト(WASSCE)の範囲が広すぎて、実験を行う時間がなかなか取れない。
・先生も定年が近いと新しい技術を学ぶ意欲が低くなる。
など様々な思いを語ってくれました。

学校長にも現状を共有しました。校長は校訓である「Carpe diem」を引き合いに「チャンスをつかまないものには教える必要はない」「若い先生を中心に進めてください」と話され、若い先生中心の指導に切り替えることにしました。
その後、現地の若い先生方とともに学生向けのクラブ活動を立ち上げ、最終的には寄付団体の資金援助もあり、必要なシステムを導入することができました。

写真3.クラブ活動の様子(電子回路理論)

写真4.クラブ活動の様子(ソーラーシステムの接続)

帰国後のコミュニケーション

帰国以降はメールやWhatsApp(LINEのようなテキスト・通話アプリ)を通じて今でもやり取りをしており、活気・やる気のある若い人材が、国を変えていくのだと改めて感じました。若い彼らには、これからも、既存の先生文化にとらわれず、学ぶ相手が若い方であっても尊重し、そして丁寧に指導する姿勢を忘れず頑張ってほしいと願っています。