- 未来の介護を創る「モンテッソーリケア」との出会い
一般社団法人日本モンテッソーリケア協会は、「人生の四季に寄り添い、いつまでも自分らしさを大切に生きるモンテッソーリケアを確立し普及する」ことを使命として、サービス付き高齢者向け住宅「柴原モカメゾン」と看護ホスピス「もかの家」を経営しています。私は工学研究科で都市経営・まちづくりの研究に取り組んでおりますが、これからのまちづくりは福祉こそが軸になると思い、自ら介護と看護のための施設を建築することになりました。
モンテッソーリケアの実践を決意したのは、私の娘達がお世話になり、仲が良かったモンテッソーリ保育園の園長先生が3年前に若くして亡くなられ、お葬式におうかがいした時でした。海外では「モンテッソーリ教育」を基にした「モンテッソーリケア」があること知り、これは彼女からの遺言だと思い、すぐにオーストラリアの実践現場に視察に行きました。認知症の高齢者の方々にもそれぞれの「役割」があり、生き生きと楽しそうに過ごしておられ、とても感動しました。また、自分で御飯を食べられなくなった方が、お皿のボールをすくい、別のお皿へ移すという「アクティビティ」を続けることで、再び自分で食べられる様になったことを目の当たりにしました。以上の経緯により、帰国後すぐに一般社団法人日本モンテッソーリケア協会を立ち上げたのです。写真1. 看護ホスピス「もかの家」とサービス付き高齢者向け住宅「柴原モカメゾン」
- 「モンテッソーリケア」の実践を通して
「モンテッソーリケア」は、一人ひとりがコミュニティの中に自分の存在意義を見出すことで高い自己肯定感を持てるように、自己選択や意味ある貢献をする機会を提供すること。さらによく観察し、その方に合った「アクティビティ」と「役割」を見出し実践することで、可能な限り「自立」していただくことを目指しています。皆様がそれぞれの人生を一生懸命歩んで来られ、例えば戦争との関わりについても、被爆された方、大阪で川に飛び込んだ方、疎開して苦労された方、大阪城近くで全く大丈夫だった方、北朝鮮から命からがら逃げて来られた方、満州から引き揚げて来て大変苦労された方等々、様々な経験をされてこられているので、その方ならではの「介護」のあり方を常に追求しています。また、認知症の方は自身がケアをしてもらう必要性を認識していないので、介護やケアという言葉はお互いに折り合いません。スタッフが「介護をしてあげる」のではなく、スタッフにとっては介護の行為が「役割」であり、「モンテッソーリライフ」という言葉を作り、お互いに自分らしく強みを提供しあって、過ごしているのです。
写真2. 庭で隣接の小学校の桜を見ながらお花見
日常では、畑で作った野菜を皆で収穫し、一緒に調理して、食後は自分達で食器を洗います。洗える方は、洗えない方の分も、時にはスタッフの分も洗ってくださいます。食べられない方に食べさせてくれたり、車椅子を押してくれるなど気に掛けてくださいます。このように人の役に立ち感謝され、自己肯定感が上がると心が穏やかになり、「毎日、幸せやわー。感謝してます。」と仰ってくださいます。スタッフもただ介護をこなすだけでなく、一人ひとりとの関係を大切にしながら仕事をして、「本当に毎日、楽しいです。」と言ってくれています。
写真3. みなさまの要望でお好み焼きパーティーの準備
- 未来の介護に向けて
「過剰な介護による残存機能低下」が問題視されています。介護とは、ただオムツを交換したり食事介助する事が仕事ではなく、自立を支援する為に、一人ひとりの人生に寄り添い、コミュニケーションをすることが大切だと思っています。私たちの主な活動を以下に紹介いたします。
①報告の場として、幼児教育を対象としたAMI(国際モンテッソーリ協会)友の会NIPPONの定時総会後に『サービス付き高齢者向け住宅「柴原モカメゾン」・看護ホスピス「もかの家」でのモンテッソーリケアの取り組みと、大阪大学との連携によるモンテッソーリライフの構築に向けて』の講演をさせていただきました。子どもと高齢者はとても良い関係を築けるので、コロナ後は力を入れて行きたいと考えています。他のシンポジウム等でも発表の場を頂きましたし、2023年8月には国際モンテッソーリ協会の世界大会で活動内容を発表する予定です。
②Beyond5G時代の「未来の介護」についてIT企業と共同研究をしています。阪大の助教の先生方が調査介護士として現場に入り、入居者の方々もお話しをして嬉しそうです。また、「助けが必要な(弱い)ロボット」がいて、入居者とスタッフがロボットのお世話を通して共感し合いながら、少しでも穏やかに過ごせる環境づくりを模索しています。「リビングラボ」の取り組みとしてプレスリリースする日も近いです。
③「モンテッソーリケア」の普及活動として、2021年1月にオーストラリアの専門コンサルタント、 アン・ケリー氏を講師として「認知症セミナー」を開催し、2022年7月には、「モンテッソーリ教育法による認知症ケアワーカーの養成コース」を6日間にわたり逐次通訳付きで開催しました。アン・ケリー氏との勉強会も毎月開催しており、仲間の輪を広げながら理解を深めています。日本にトレーナーを育成することも目標としています。
④地域に貢献する為に、社協や地域包括ケアセンターとともに「認知症カフェ」を毎月開催しており、入居者様も喜んで参加されています。家族会主催による「哲学カフェ」も隔月で開催しており、自身のACP(アドバンス・ケア・プランニング)や、大切な人を亡くした方へのグリーフケアの側面も持ち合わせています。
⑤大学ならではの社会貢献として、「SSI地域・まちづくりフォーラム」の企画運営を担当し、自治体の関係者をお招きして話題提供と自由な意見交換の場を提供させていただいています。一昨年に福祉法が改訂され、重層的支援体制整備事業が創設されました。これは、「誰一人取り残さない」ために、行政における縦割りの部署を横断的に再編しながら、地域とともに社会課題を解決していくもので、まさに行政改革と言われています。2023年3月に「重層的支援体制の構築」をテーマとしてフォーラムを開催し、大阪府内市町村の方々とともに様々な困りごとやアイデアを共有する予定です。
皆が少しでも幸せに自分らしく生ききれる様に、粛々と活動をしております。どうぞよろしくお願いいたします。
写真4.入居者と子どもとロボット