マンスリー・トピックス

離島の視点から討究する
持続可能で公正なエネルギー転換

人間科学研究科特任助教
松村悠子

2021年7月

現在は、環境省の放射線の健康不安対策事業についての研究に携わっていますが、これまで、継続して、離島でいかに自然エネルギーの導入を進められるのか、地域社会のコンフリクトに関する研究を行ってきました。

私は長崎県の対馬という島の出身で、対馬高校を卒業後、大阪大学に入学し、その後博士課程の修了、研究者としての初職も含めてずっと大阪大学に所属しています。また、文部科学省のリーディング大学院プログラムである、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの修了生です。自身の出身地での経験とリーディング大学院での経験を活かしつつ、研究・実践活動を行っています。

生活を便利にするエネルギー源に想像力をもって

皆さんは、普段使っている家電で使っている電力、車で使用するガソリン、お風呂のお湯が何を使って作られているか、ご存知でしょうか。

エネルギーというと堅苦しく感じますが、私達は日常生活で、さまざまな資源を使っています。例えば、お湯(給湯)は、寒い冬は温かいお湯に浸かりたい、つまり、「便利さや快適さを得たい」から使っていると思います。お湯を作る方法は複数あり、太陽の熱、薪、天然ガスのどれを使っても作ることはできます。日本では、多くの家庭で、素早く温かいお湯を使いたいと言う便利さを得るために、様々エネルギー源の中から、都市ガスやプロパンガスなどの化石燃料を使用しています。日常生活や産業活動はもちろん、医療や教育研究においても、便利さや快適さを提供してくれる、電力やガソリン、ガスといったエネルギーは、生活に必要不可欠になっています。
日本では、エネルギー源の多くを海外から運ばれてくる化石燃料由来の資源に頼っています。電力では8割近く、熱利用(冷暖房や給湯を含む)や輸送(車両等での移動)を含めると約9割が化石燃料由来です。現代の生活に必要不可欠なエネルギーの原料を、海外から輸入されてくる化石燃料に大きく依存している点は、エネルギーの安定供給、安全保障、環境影響に加えて、社会的な公正の観点からも問題があり、自然由来のエネルギー源へと転換する必要があります。

エネルギー転換の問題は平和と公正の問題

自然由来のエネルギーによって、エネルギー転換をしなければならないと考えられる理由は3つあります。1つ目が気候変動への対策、2つ目が世界の平和への貢献、3つ目が日本の地域社会の発展です。

1つ目について、気候変動に関する政府間パネルで指摘されているように、日本ではエネルギーが温室効果ガスの排出の8割以上を占めています(資源エネルギー庁2020)。2015年に合意されたパリ協定では、温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、産業革命前後から2030年までの地球温暖化を1.5度以内に抑えることを目標としています。この目標は達成されなければ、破滅的な結果がもたらされます。例えば日本では、今世紀末には870hpa級の台風の上陸や国産米の生産が困難になると予測されています。これらは、現在の活動が次世代に影響与えるために、世代間での公正さ(世代間正義)の観点からも問題があります。

2つ目については、現在、紛争等で情勢が不安定な地域にはエネルギー資源や貴重な鉱物が豊富にあります。つまり、自国の資源、つまり自然由来のエネルギーを開発し、活用することは、間接的に、現在戦争状態にある産油国の情勢安定化につながると考えられます。

化石燃料価格は産油国の生産量調整により上下しています。また、世界のエネルギー消費量は増加傾向にあります(注:2020年はコロナウィルスの影響で一時的に消費量・投資ともに減少しています)。化石燃料や有限な資源を活用すると、一部の国の恣意的な操作によって、資源の供給が管理されてしまいます。2020年、アフリカでは5億7000万人がエネルギーを使用できていません。このままでは、生活に必要なエネルギーは産油国と富裕層のみが利用できる未来になってしまいます。身近なエネルギーの問題は世界とつながっています。だからこそ、日本も自国で資源遍在性のない、自然エネルギーの活用を進める必要があると考えられます。

自然エネルギー事業こそ地域主体で

自然エネルギーは、化石燃料に比べると小規模分散型の設備なので、同じエネルギー量を得るためには多くの土地・設備が必要です。よって、地域社会との接点が多くなります。また、自然エネルギーも万能ではなく、開発による周辺地域への影響もあります。風力発電であれば騒音や希少な野鳥への影響、太陽光発電であれば光害、地熱発電では臭気や温泉資源への影響などです。例えば、地熱発電の周辺には、歴史のある温泉街がある場合があります。その地域では、温泉は地域の重要な産業・資源であって、地熱発電開発によって温泉が枯渇してしまう、と不安を感じる方もいます。環境影響評価を行い、開発場所、方法を慎重に検討しつつ、地域の方が安心するよう、リスク・ベネフィットを丁寧に議論する必要があります。

自然エネルギーも地域社会の価値観、自然、社会構造を考慮しなければ、コンフリクトが発生してしまいます。そのために、地域を巻き込んで開発を行う必要があり、コミュニティパワーという、地域所有のアプローチ、それに従った条例の制定など地域の法制度の整備が有効な解決策と考えられています。

 コミュニティパワーの三原則
  1.地域の利害関係者がプロジェクトの大半もしくはすべてを所有している
  2.プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によっておこなわれる
  3.社会的・経済的便益の多数もしくはすべては地域に分配される
   ※ この3つの基準の内、少なくとも2つを満たすプロジェクトは 「コミュニティ・パワー」として定義される。
 (世界風力エネルギー協会 NPO法人環境エネルギー政策研究所 訳)

写真1. ドイツの電車の車窓から見えた風力発電(2013年筆者撮影)

離島でエネルギー転換を実践する意義 ―持続可能で公正なエネルギー開発を目指して―

また、離島地域には、従来の化石燃料由来のエネルギーにも問題があります。海上輸送のぶん、エネルギーコストが高額ですが、現状の離島のエネルギー価格は多くの公的補助金によって支えられています。

研究者である宮本常一は

「離島の振興において、『日本の離島の中で島民が島を客観的に見なければならない。』(宮本常一1970)」

と述べています。

当時、開発が遅れていた離島では、公的資金を使って港湾が整備され、交通をはじめ多様な支援やサービスが拡充されていました。都市との接続が便利になり、システムも近代化していくなかで、離島地域は、都市に周辺化されていきました。宮本は、その離島振興の様子に警笛を鳴らしていたと、私は解釈しています。支援を要求するだけでなく、島の魅力を今一度見直し、自らで必要な開発を取捨選択し、自律していく必要性を示唆していました。

現在、離島では多くの公的補助が行われています。これらは、本来一時的な措置のはずで日本の緊縮した財政を考えれば、持続可能とはいえません。だからこそ、支援に依存するのではなく、生活な重要なエネルギーを離島の島民主体で開発し、自律していくことが重要だと考えています。

日本は、島国です。そのため、エネルギーの観点からは、技術的にも難しい課題も多くあります。だからこそ、まず離島での開発実践が重要になってくると考えています。私は、これまで国内外の100%自然エネルギー政策(地域のエネルギー供給を100%自然エネルギーで供給する目標設定)の事例を調査してきました。100%自然エネルギー政策を打ち出している島嶼地域も多くあります。また、変動性再生可能エネルギー(自然エネルギー)電力の開発が頭打ちになった地域では、電力だけではなく、給湯や輸送部門を転換する事例もありました。そこで、研究成果を調査地に持ち帰り、地域での実践活動にも取り組んでいます。また、政策を打ち出す説得力となる地域経済効果についての共同研究も開始しています。難しい現状に甘んじず、まず動いてみることを大切にしています。

写真2. 長崎県対馬市で作られている木質チップ(2011年筆者撮影)

国連の持続可能な開発目標でも、誰一人取り残さない「公正さ」が注目されています。気候変動対策も、日本におけるエネルギー転換の実装も、離島振興もさまざまな公正さにまつわる課題を抱えています。今、取り組まなければ、次世代に大きな影響が及びます。国内外の政策研究と地域での実践の両立を行うことで、貢献していきたいと考えています。

写真3.デンマークの島と本土をつなぐフェリー
 天然ガスを使用しており将来的にはバイオガスの利用を予定している(2015年筆者撮影)

参考文献
宮本常一(1970)『日本の離島 第二集』未來社
日本エネルギー経済研究所 計量ユニット編(2020)『エネルギー経済統計要覧2020』
環境省「2100年未来の天気予報 夏」
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2020年度版「エネルギーの今を知る10の質問」3.環境」
世界風力エネルギー協会「コミュニティーパワーの定義」
特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所「コミュニティパワー」