マンスリー・トピックス

「共感」による社会課題の自分事化
〜社会課題×VRという新たな挑戦〜

NPO法人クロスフィールズ代表理事
小沼大地

2021年6月

初めまして。NPO法人クロスフィールズ代表理事の小沼大地です。私たちクロスフィールズは2011年の創業より社会課題の現場と企業で働く人をつなぐ活動を行ってきました。 

具体的には「留職」プログラム(*1)や、社会課題体感フィールドスタディ(*2)などがあり、これまで約2000名のビジネスパーソンに参加いただいています。こうした活動を通じて、私たちは「社会課題の現場での原体験」を多く提供してきました。これはプログラム参加者が今まで接点のなかった社会課題の現場に飛び込み、そこで起こっていることを目の当たりにする。そして現地で暮らす人々の価値観や、課題解決に取り組むリーダーの志に触れる、という一連の「原体験」を指しています。

社会課題の原体験は、一人ひとりが課題を自分事として捉え、行動するきっかけとなると考えています。この原体験を多くの人が抱くことこそ、課題解決を加速する鍵だと信じて活動を続けています。そのため堂目先生の唱える「共感資本主義」と私たちの活動は通じるものがある、と勝手ながら感じています。

(*1) 日本企業の若手社員が半年〜1年にわたり国内外のNPO等で社会課題の解決に取り組むプログラム(新興国国内

(*2) 企業の役職層が国内外における社会課題の現場を体感し、社会的視点を醸成するプログラム(現地型オンライン

コロナ禍で「共感VR」事業を開始

社会課題の「現場」を舞台にした私たちの活動は、新型コロナで大きな転換を迫られることになりました。同時に社会の分断は加速している風潮を感じ、強い危機感を抱いていました。
現地に足を運ばずとも、多くの人に「社会課題の原体験」を提供するにはどうすればいいのか。そんな思いから、コロナ禍ではテクノロジーを活用し、複数の新規事業を開発。なかでも力を入れているのが共感VRという新規事業です。
これはVR映像を活用し、当事者の目線で社会課題を擬似体験するものです。参加者は「カンボジア農村部の暮らし」や「難民の視点から見る日本社会」など、普段は接する機会が少ない環境を、VRによってミクロレベルで体験。その後、課題の当事者や解決に取り組む人々のインタビュー視聴などを通じ、社会課題を「自分事化」するプロセスを経験します。

VRを通じて「共感」を生み出す

なぜVRが社会課題の現場への「共感」を生み出せるのか。以下の動画を例に説明します。
カンボジア農村の食事風景

こちらはカンボジア農村部の、とある家庭の日常を撮影したものです。VR/360度映像は編集されず、製作者の意図も反映されていません。視聴者は好奇心の赴くままに映像を鑑賞でき、着目する観点はさまざまです。現地の住環境や登場する親子の様子、食事の内容などそれぞれが気になる点をじっくり鑑賞できます。映像を見て生まれる感情も視聴者によって異なります。「幸せそう」と思う人もいれば「生活の苦しさ」を感じる人もいるのです。そして親子が置かれた状況や対峙している課題を、インタビュー映像を視聴しながら掘り下げていきます。このように一人称での気づきや感想を他の視聴者と共有しながら、社会課題の現場に迫っていくのが共感VRです。


図1. プログラム内容と期待される効果

教育現場での展開と効果

共感VRプログラムは企業などさまざまな団体に展開予定ですが、現在は学校向け(主に中高生)への提供に注力しています。昨年度より経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリー内のデジタル教材として無償公開し、教育現場で活用いただいています。国内外のNPO等と協働して2020年度に以下6テーマを作成。21年度は4テーマで作成予定です。

図2. 2020年度開発コンテンツ一覧
(コンテンツは、こちらからご覧いただけます)

20年度の作成動画は視聴回数が8000件を超える(2021年11月時点)など、現場での広がりを感じています。また、認定NPO法人カタリバと共同で指導案を作成・公開中です。これは教師の方々がVRコンテンツを授業で取り扱う際にガイドラインとして使用いただくものです。
体験した生徒からの反響を、「日本に暮らす難民」がテーマのコンテンツを例にご紹介します。これは政治的な理由で国を追われ、日本に難民申請しているコンゴ人男性の半生をVR等で追体験し、当事者の視点から難民問題を考えていくものです。生徒からは

「いかに今の自分の生活が恵まれているのか思い知らされました。苦しんでいる人を助けられるような仕事がしたいです」
「この授業を通して、自分で行動を起こすことが大切だと思いました。私にもやってみたいことが沢山あります。私も、自ら行動し、環境を変えていきたいと思います」

などのコメントが寄せられています。

共感の力で社会の変化へ

いま、SDGsが様々なシーンで叫ばれています。素晴らしい風潮ではありますが、同時に空虚なブームにならないかと危惧しています。SDGsのロゴやバッチを付ければ良い、という発想で思考停止すれば、SDGsは「免罪符」となり社会に良い影響をもたらせません。

では、どうすればよいのか。

一人ひとりが世界中の社会課題をデータで知るだけでなく、それらを自分事化して本質的な行動を起こすことが大切だと考えます。その第一歩として必要なことが「社会課題の現場に触れる機会」です。より多くの人が社会課題の現場に触れ、共感し、行動すれば、やがて社会変化につながる。共感から生まれるエネルギーで、社会にうねりを起こせる。そう信じて私たちは今後も活動を続けていきます。
私たちと協働したいと思ってくださった企業や学校関係者の皆さんは、ぜひご連絡をいただけましたら幸いです。お問い合わせはこちらへ