マンスリー・トピックス

研究データ管理(RDM)から考えるオープンサイエンス時代の大学・科学

経営企画オフィス准教授
藤井翔太

2019年9月
研究データ管理(RDM)とは

2019年11月14日にパシフィコ横浜で開催された第21回図書館総合展内のフォーラム「オープンサイエンスのミライ2~研究者、大学本部と出版社が話し合う、研究データの管理~(注1)」に講演者・パネリストとして参加しました。主に研究データ管理(Research Data Management、以下RDM)をテーマしたこのフォーラムでは、研究のプロセスにおいて使用・生成されるデータ(例えば診断やアンケ―トのデータだけでなく、実験データやアルゴリズムなども含む)を、今後組織的にどう保管・管理・公開する必要があるのかということが議論されました。
RDMは論文や著作、作品など研究成果(Research Output)だけでなく、研究のプロセス(Research Process)で発生するデータに関しても、組織的なポリシーやガイドラインに基づきしっかりと管理することを目指す取組です。こうした動きが出てきた背景には、研究不正の多発や個人データなど厳格な管理が必要なデータを利用する研究が増加することによる研究倫理に対する意識の高まりだけでなく、ビックデータ解析などデータ科学の手法を通じて多様な学問分野の融合研究を推進する「データ駆動型研究」という新たな研究スタイルの隆盛を背景に、研究成果(論文や著作など)だけでなく研究プロセスで生成・使用されるデータに関してもレポジトリなどを通じて公開・共有することで研究者間の交流を活性化し、研究の質の向上を目指すという動きがあります。例えば、NISTEPの林弘和氏が「(広義の)オープンサイエンス」をサイエンスのパラダイムシフトと捉えることが重要であると説いているように(注2)、21世紀の「新たな科学・大学のカタチ」を構想するというコンテクストの中で、RDMを捉えることが重要だろうということがフォーラムでも議論されました。

(注1) https://www.elsevier.com/ja-jp/events/japan_event/LibraryFair21,accessed on 2019/12/26
(注2)「新たな研究成果の方法に挑戦したり、オープンサイエンスを実践したい!」『京都大学からはじめる研究者の歩きかた』
(https://ecr.research.kyoto-u.ac.jp/cat-c/c2/368/, accessed on 2019/12/26)

 

(RDMを積極的に推進しているエディンバラ大学のResearch Data ServiceのHP。RDMを通じたコラボレーションの推進を図っている。
 https://www.ed.ac.uk/information-services/research-support/research-data-service, accessed on 2019/12/26)

SSIの活動とRDM

大阪大学はデータビリティ・フロンティア機構を立ち上げるなどデータ科学に基づく学際融合研究を推進するとともに、研究活動に関わる倫理的・社会的・法的な問題(ELSI)にも積極的に取り組むなど(注3)、オープンサイエンス時代に対応する戦略をうちだしていますが、本稿ではSSIの活動をこの文脈の中に位置づけて考えてみたいと思います。人文社会科学系の研究者を中心に、大学の枠を超えて大学に所属する研究者と社会の様々な関係者が共同で社会課題の解決に取り組むSSIの活動は、オープンサイエンス時代の新たな研究活動のモデルの一つとなりうるものでしょう。
 例えばSSIのプロジェクトで分かり易くRDMと関わっている例としては、健診データの分析を行う「地域住民の死生観と健康自律を支える超高齢社会創生のための文理融合プロジェクト」が上げられ、機密性の高い個人データである検診データの管理は、研究倫理・コンプライアンスの観点からみたRDMの問題だといえます。その他にも、自治体から提供されたデータ(「教育の効果測定研究」)など、多くのプロジェクトは保管・管理の観点からRDMに関わっているといえるでしょう。
一方で、研究プロセスに関わるデータの公開・共有という観点から見た際には、まだまだ明確なポリシー・体制が整っているとはいえないかもしれません。社会課題と密接に結び付いたSSIプロジェクトに関しては、論文や著作、報告書などの形で展開される研究成果だけでなく、政策提言や未来構想の発表なども重視されていますが、それに加えて、研究のプロセスで生成されたデータを公開し、学術界、そして社会と共有していくということも視野に入れる必要が今後高まってくるのではないでしょうか。

(注3) シンポジウム「ELSI対応なくして、データビジネスなし-産学共創でとりくむ倫理的・法的・社会的課題-」を開催(https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/seminar/2019/12/8537, accessed on 2019/12/26)

オープンサイエンス時代の大学・科学のありかた

SSIの活動をRDMの文脈に位置づけて考える際には、プロジェクトにおける具体的な研究プロセスで生成されるデータの管理・公開の話だけでなく、そもそもRDMが重視されるようになった背景にあるオープンサイエンスについて考えなければならないでしょう。内閣府の「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会」(注4)でも、研究データ基盤整備が議題として取り上げられています。ただ、オープンサイエンスは広い意味を持つ概念であり、SSIの文脈で考える際には、前述した林氏の言葉である「サイエンスのパラダイムシフト」が示しているように、そもそも科学研究の拠点である大学と社会の関係性が今度どのように変化するのか、また、どのように再構築していくべきであるかという視点も重要になると思います。
 私が今回RDMに関するフォーラムの講師として招かれたのは、前回のマンスリー・トピックで触れたイギリスにおける研究インパクトに関わる調査がきっかけでした(注5)。イギリスの大学では研究活動が与える社会的・経済的・政治的・文化的インパクトを意識した研究戦略を打ち立てる様になってきていますが、その裏にはオープンサイエンス・オープンデータの考え方に基づき研究者の活動に関するデータを蓄積・可視化する流れがあります。
実際にイギリスの大学に訪問調査をおこなった際にも、大学が社会のアクターと手を取り合いながら社会変革を促進するためには、より多くのデータをオープンにしていくことが重要であるという考えが徐々に広がってきており、それが研究者にとっては一件手間に思えるRDMの実践に繋がっているように感じました。
オープンサイエンスという理念・モードの次元、RDMにおけるデータの管理・公開などインフラ・手続きの次元、そして実際の研究活動の次元。これらが全て繋がって展開されることで、オープンサイエンス時代の新たな大学や科学のあり方が実現することに繋がるといえるでしょう。そして、SSIはこの3つの次元を満たす活動を行なうことが可能な組織で有り、まさしく新たな時代を切り開く旗手としての活躍が期待される存在だと言えるのではないでしょうか。そのように考えると、SSIが「持続可能な共生社会」の実現にむけた構想を打ち出して行く上で、オープンサイエンス時代の大学・科学と社会の新たな関係性についても、ビジョンを示すことが重要になってくるのではないでしょうか。

(注4) https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kokusaiopen/index.html, accessed on 2020/1/5)
(注5) 藤井翔太「大学こそが提供できる価値とは ― 社会に新たなインパクトをもたらす大学のチャレンジ ―」(http://www.ssi.osaka-u.ac.jp/activity/topics/fujii/, accessed on 2019/12/26)