マンスリー・トピックス

阪大S D G s 学入門という挑戦

大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 准教授
藤井翔太

2023年9月

 2023年度春学期より、主に1回生を中心とする学部生向けに全学共通科目『阪大SDGs 学入門』が開講されました。本講義は大阪大学全学教育推進機構と社会ソリューションイニシアティブ(SSI)が中心となって、持続可能な共⽣社会の実現に視する学⽣を育成するために、SDGs の理解と専⾨性の両⽴した授業で、2023年度春学期は対面、秋学期はオンデマンド形式で実施されています。
 SSI はこれまでも社会課題の解決と持続可能な未来社会の構想を目指して多様な研究プロジェクトを展開するとともに、シンポジウム・サロン・研究者フォーラム・地域・まちづくりフォーラムなど人々が集い議論する場を開催してきました。また、教育活動としては、社会課題の現場でのフィールドワーク、超域イノベーション博士課程プログラムへの科目の提供(超域特別講義I:社会ソリューションと未来社会)、SSI 学生のつどい「阪大SDGs 学のススメ。」の開催等を行ってきましたが、本講義はそうした活動実績を踏まえて、初めて学部生向けに単位履修が可能な講義の形で展開するプログラムです。
 『阪大SDGs 学入門』では、単にSDGs に関する知識を学生に教授するだけでなく、大阪大学、SSIが掲げる「命を大切にし、一人一人が輝く社会」、「誰一人取り残さない」という理念の重要性を理解してもらった上で、大阪大学の教員と企業ゲストスピーカーの講義を通じて高い専門性と現場における最先端の課題をSDGs と結び付けて身につける機会を提供することを目指しています。現代の学生は、中等教育の段階で既に、SDGs など社会課題について考え、PBL を通じて課題解決を目指す教育を受けてきており、自主的に様々な社会課題に関わる活動に自主的に取り組んでいる学生も少なくないので、そうした彼らの持つ経験と熱意を専門的な教育・研究のステージにシームレスに繋げる重要な役割を担っています。
 第一回の講義でSSI 長の堂目先生から、スミス、ミル、センの3人の経済学者が構想した社会像を踏まえて、「助ける人(capable)が中心にいて、助けを必要とする人(vulnerable)を一方的に助ける社会」ではなく、むしろ「助けを必要とする人を中心において、助ける人とお互いに助け合う真の共助社会」こそがSSI が目指す持続可能な未来社会のあり方だということが示されました(図①参照)。続く第2回の講義では、SSI の田和教授からJICA 時代に携わったSDGs の策定プロセスと、日本が推進した人間の安全保障や尊厳、そしてポストSDGsに向けて考えるべきポイントについて説明がなされました。具体的な課題に入るまでに、社会課題について考え・実践する上で基礎となる理念・考え方を伝えるこの2回
の授業を通じて、学生からはSDGs や社会課題に取り組む意義について改めて考える機会を得られたようで、どこか他人事であるグローバルな問題としてではなく、自分たちの社会に密着した自分事として取り組む心構えが出来たという感想も多く聞かれました。
 第3回以降は、講師の専門とする具体的なテーマにそって、幅広く社会課題について扱う講義がなされましたが、一回一回の講義が独立しているのではなく、SDGsの17のゴールのように相互に関連し合いながら展開されていきました。
 例えば経済に関しては企業のゲストスピーカーも招いたこともあり、持続可能な未来社会における経済システムのあり方や、企業がどのような形でSDGs に取り組んでいるのか、非常に充実した内容の講義となりました。SDGs には持続可能なビジネススキームやESG 投資など経済的な観点も取り入れられていますが、本講義においては企業が中長期的なビジョンに基づいて、本業から切り離されたCSR 活動としてではなく本業の一つとしてサステイナブルな取組・事業を展開し、未来社会に貢献するというミッションを本気で実現しようとしている様子がゲストスピーカーから話されました。また、そうした企業の活動をより効果的に進めるためには、生産・販売サイドだけでなく、消費者の意識・活動の変革も必要で、それを助けるためのマーケットや評価システム、企業の統合報告のあり方についても解説がなされました。
 また、理工系の教員が中心になって、SDGs の特徴である環境に関わる問題についても幅広く講義が行われました。プラスチックのリサイクルがなぜ難しいのか、エネルギー問題における生産だけでなく調整の難しさ、水の問題と地球温暖化の問題の間に潜むトレード・オフの関係など、学生がこれまであまり意識出来ていなかった問題について高い専門性に基づきながらも分かり易い講義が展開されました。
 その他にも、認知症、月経、まちづくり、防災、教育や環境権など、非常に多岐にわたるテーマについて講義が行われましたが、講義を通じて学生は幅広い知識を身につけるだけでなく、持続可能な未来社会を構想するためには個々の問題を関連させながら、社会の構造や制度などを根本的に変える一種の「ゲームーチェンジャー」的な発想が必要だということを学ぶことが出来たのではないでしょうか。提出されたレポートを読んでいても、学生達はそれぞれに異なる関心や専門性を持っていることが伺えましたが、そうした学生達の多様性を損なうことなく、異なる関心を持つ人々が連帯してより大きな問題に立ち向かうための土台を、本講義を通じて身につけてくれたら嬉しく思います。
 『阪大SDGs 学入門』とあるように、あくまで本講義はスタート地点に過ぎず、今後より具体的なテーマを掘り下げたり、社会課題の現場に入っていったりするような体験も必要であり、来年度以降はより応用的な授業を開発し、授業間の連携を高めていくことで、大阪大学の教育の中にSDGs が、そしてSSI が掲げる「誰一人取り残さない」という理念の重要性が浸透すように、引き続き取り組んでいけたらと思います。