マンスリー・トピックス

ポスト・コロナの時代に目指すべき社会とSSIの活動

社会ソリューションイニシアティブ長/経済学研究科教授
堂目卓生

2020年10月
コロナ禍がもたらした経験

昨年末から世界に広まった新型コロナ・ウィルスは、多くの命を奪うとともに、日本を含む世界各地の人びとの生活を一変させました。コロナ禍の中、私たちは、誰もが「弱者」になりうる時代にいることを痛感しています。それまで元気に生活していた人が、ある日、突然感染者になり、隔離され、場合によっては、家族との面会も許されないまま、この世を去っていかなくてはなりません。また、非常事態宣言が出されたりロックアウトがなされたりすれば、それまで営んできた生業ができなくなり、収入の道が立たれます。
普通に生活していた人を「弱者」にする可能性は、コロナ・ウィルス感染症だけでなく、震災や台風等の災害、気候変動、水不足、紛争等、どの社会課題も持っています。たとえコロナ禍を乗り越えたとしても、誰もが弱者になりうる時代は続くと考えなくてはなりません。こうした感覚を人類全体で共有したこと、これが今回の災禍がもたらした最も貴重な経験だと思います。

ポスト・コロナの時代に目指すべき社会

このように考えると、私たちは、「個々人が今ある自分の特性を困難な状況にある人びとを助けるために自発的に用いることによって自分も助けられる社会」を目指すべきではないでしょうか。誰もが弱者になりうることを心に刻みつつ、自分が今持っている特性(強味)を活かし、困難な状況にある人びとを助けることが普通になれば、弱者になっても見捨てられず、誰かが助けてくれる、そういう社会で暮らすことができ、弱者になる恐れから解放されるでしょう。
そのような社会は図1によって示されます。そこでは、同じ人が「助けられる人」(困難の中にいる人)になったり、「助ける人」になったりする。その中で、助ける人が助けられる人を助けるだけでなく、助けられる人が助ける人を助けることもあるという関係を結んでいく。渥美公秀教授(人間科学研究科)が唱える「誰もが<助かる>社会」に通じる社会です。さらに、その背後で、自由な企業、自由な交換、自由な消費という経済が維持され、必要な財とサービスが人々のもとに届けられることも実現しなくてはなりません。


図1.ポスト・コロナ時代に目指すべき社会

このような社会の実現は夢物語のように思われるかもしれません。しかし、実現に向けた活動の「兆し」は色々な所で現れています。本ホーム・ページの「ネットワーク」に掲載されている方々の活動をご覧いただければ分かると思いますし、他にも多くの実践が試みられています。また、「人間とは何か」、「社会はどうあるべきか」を問う人文学・社会科学の社会課題解決への貢献を促進する「共創の場」をオールジャパンで構築する文部科学省の「人文学・社会科学を軸とする学術知共創プロジェクト」もスタートし、大阪大学が全国唯一の拠点となって進めることになりました。

未来社会をデザインするプラットフォームとしてのSDGs

「誰一人取り残さない」社会を目指すSDGs(持続可能な開発目標)や「いのち輝く未来社会のデザイン」を目指す大阪・関西万博もグローバルな「兆し」です。私は、SDGsを万博のテーマである「いのち輝く未来社会をデザインするプラットフォーム」と捉えています。それは、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」ことが私たち一人一人の「いのち」を輝かせることになるからです。様々な困難を抱え「取り残されている人」が助けられるからだけではありません。困難を抱えている人びとをそのままにせず、向き合い、共感し、苦難を一緒に乗り越えようとすることによって、「取り残さない人」のいのちも輝くからです。私たちは、誰かを取り残したままいのちを輝かせることはできません。このことに気づき、意識を変え、世界中の人一人一人が小さくてもよいので行動に移していく場、それが万博だと思っています。
大阪大学も、「SDGs 推進委員会」や「2025国際博覧会推進委員会」を立ち上げ、SDGsや万博に全学をあげて取り組んでいくことになりました。大阪大学の羅針盤としての役割を担う社会ソリューションイニシアティブ(SSI)は、SDGs 推進委員会の「企画部会」や2025国際博覧会推進委員会の「いのち部会」に参画し、「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて大阪大学が学術・教育機関として貢献するよう先導します。また、「関西SDGsプラットフォーム」内に設置予定の「大学分科会」にも参加し、関西の大学を中心としたネットワークを広げていきます。

SSIが拓く未来への道

図2に示す通り、SSIは、命を「まもる」、「はぐくむ」、「つなぐ」という理念を出発点に、様々な形で場を作り、プロジェクトを立ち上げ、未来を構想していきます。このプロセスの中で、社会の様々なステークホルダーと、課題や解決策、社会像・価値を双方向で提示していきます。重要なのは、こうした取組を続ける中で「共創ネットワーク」を形成することです。なぜなら、目指すべき社会の具体的な形を定め、実現するのはこのネットワークだからです。「命」をキーワードに「共創ネットワーク」の形成を通じて、2050年に「命を大切にし、一人一人が輝く社会」を実現する。そして2025年の万博と2030年のSDGsを道標として位置づけ、SSIの理念に基づいて取り組んでいく。これが、SSIが拓く未来への道です。今後とも、学内外のみなさまの協力と支援をいただければ幸いです。


図2.SSIが拓く未来への道