- はじめに
私たちの社会を取り巻く様々な課題解決のために、不可欠なものは何でしょうか?もちろん、働く人の思いや熱意、解決のための技術や仕組み、さらには進めていく土台となる組織などは、具体的な解決策の遂行に貢献できるでしょう。しかし、今、私たちが生きている社会の中で、関係する様々な機能を繋ぎ、課題の解決や価値を生み出していくためには、これらを動かす資金が不可欠です。
経済主体は、大きく分けると、企業、政府、人(本当は家計なのですが、なんとなくしっくりこないのであえて「人」としました)です。かつては様々な社会課題の解決のために、国家が大きな役割を果たしてきました。しかし、私たちが今、直面している課題の解決の広がりや深刻さを鑑みると、国家による政策の遂行だけでは対応できない規模の資金が必要になってきます。また、経済政策に携わるのは多くの場合、企業に代表される組織(さらにいえば、そこで働く人たち)です。言い換えれば、社会課題の解決に貢献できる企業は、結果として、社会に必要とされ、支持がなされ、価値の高い企業として存在できるようになるといえましょう。
- 企業が担う役割
資本市場の観点からみると、価値を多く生み出し、中長期的な成果が期待できる企業に対しては多くの資金が集まります。課題解決、課題というと「悪い事象」を思い浮かべますが、人々のよりよい生活、いわゆるwellbeingに資することも、社会を構成する一つ一つの要素がむすびつき「エコシステム」で考えると、大切な貢献であるとみなすことができます。
では、エコシステムを構成している様々な主体や活動、機能を結び合わせる役割を有するものは何でしょうか?前述したように、資金の動きが実質的な結びつきを実現するのですが、では、その資金を動かすものはなんでしょうか?これこそがまさに「情報」であり、その情報を提供しているのが報告なのです。
SDGs が、これまで国連が推進してきたイニシアティブと異なる大きな特徴のひとつが、民間、すなわち企業の力を課題解決のエコシステムの中に組み込み、その活動の促進を重視していることです。そして、多くの企業、特に、大規模な仕組みを動かすことのできる企業の多くは、株式市場に上場しており、資本市場のルールの中で活動をし、幅広い関係者に向けた説明責任を有しています。
今、様々なイニシアティブを通じて、サステナブルファイナンスが推進されているのも、社会的課題に貢献できる企業に必要な資金を提供し、活動を促進し、結果として社会と企業の双方にとって、メリットが生んでいくための流れを太く、強くしようとするものなのです。

- 変化が求められる企業報告
企業報告は、社会的課題解決を目標とする様々な経済主体の活動を結び合わせ、必要な資本の投入と利用につながる意思決定のために活用できるような情報を提供するものとなっていく必要があります。資本を提供する投資家や、資本の活用を決定する企業経営者等(必ずしも経営者だけが意思決定者なのではなく、多くの企業では様々なプロセスでの意思決定がなされています)には、託された役割を果たす義務と責任があり、その上で、遂行する意思決定ですから、当然のことながら、用いる情報の内容、質や量もそれに適合していくことが期待されます。情報が正確で、かつ信頼できるものでなければ、適切な意思決定は不可能だからです。
これまでは、企業が提供する情報の多くは定量的な情報でした。その中でも、有価証券報告書は、一般に公正妥当と認められた基準(GAAP)により作成され、多くの場合、外部監査人による保証が付与されています。外部から企業の中を詳細にみることは不可能なので、多額の資金を集め、関係者が広範であればあるほど、情報に齟齬や改ざんなどによる影響が大きくなるために、より厳密なルールが適用されることになります。
しかし、これまで制度的に求められてきた内容の多くは、過去から現在の活動の内容とその成果が中心でした。企業経営における継続性は重視されるべきものですから、信頼の獲得のためにも期待される成果を提示することは大切です。
一方で、今、企業に期待されている社会的解決の実現を通じて、価値を提供するという役割を考えると、果たして、過去から現在の結果を示すだけで、説明責任を果たしているといえるのでしょうか?
社会的課題の多くは、企業の将来に対するリスクであり機会となるものです。そして、企業価値が創出する価値の質だけでなく、経済的な成果にも影響が及びます。社会から多くの資源を付託され、活動をしている企業には、長期的な展望に立って、課題の解決を通じ社会的厚生の向上に貢献する存在でなければなりません。そのためには、将来にむけた企業の思いを表し、その道筋を合理的、かつ実現可能性を示す内容で説明することが不可欠です。
- おわりに
企業報告は、制度であるから、あるいは、法律で求められているから取り組みものではありません。企業と社会、そして、これらを構成する一人ひとりのwell-being を実現し、持続可能であり続けるための有効な「ツール」の一つなのです。
