学生のつどい

第15回SSI学生のつどい開催報告
シリーズ「地域の未来を考える」⑥
2023年1月18日(海外フィールドスタディに教えられて-「知の地方化」に向かって)

<日時>  2023年1月18日(水)19:00〜20:40
<場所>  オンライン・対面(SSI豊中ラウンジ)
<参加者> 21名
<プログラム>
・ブルジド・スチンフさん(一般社団法人北の風・南の雲Future Asia代表 大阪大学・ヘルシンキ大学・雲南大学招聘・客員教授)からの話題提供
・参加者でディスカッション
(司会:上須道徳 経済学研究科教授)

海外フィールドスタディに教えられて-「知の地方化」に向かって

2022年度の「SSI学生のつどい:阪大SDGs学のススメ。」はSDGsの目標の一つである「持続可能なまち・地域」にフォーカスし、日本の地方や地域の未来について対話を行う場を提供しています。

第15回SSI学生のつどいでは、ブルジド・スチンフさんをお招きしました。スチンフさんは一般社団法人北の風・南の雲Future Asia代表で、大阪大学・ヘルシンキ大学・雲南大学で招聘・客員教授をされています。大阪大学で取り組んでいるフィールドスタディは、上須先生も長年一緒にされています。学生や地域の方々と一緒に取り組んでこられたことやそこでの学びについて、「海外フィールドスタディに教えられて-「知の地方化」に向かって」という題で話題提供いただき、その後、参加者による活発なディスカッションが行われました。

話題提供者 ブルジド・スチンフさん(写真左)

話題提供者の話

冒頭、スチンフさんは、内モンゴルから日本に初めて留学生としてやってきた頃と比べて、今の日本の学生は元気がなく、またすばらしいものがたくさんある地域も元気がなくなっているという変化について述べられました。学生も地域も元気にしたいという思いで取り組んでこられたのが、今回のテーマであるフィールドスタディです。現代社会は、変化が加速し未来がリスク化する社会です。そうした中では学生だけでなく教員も専門以外にも視野を広げて、また地方にも目を向け、世界を読む力、自分を読む力、コミュニケーションをとる力が必要になると考え、フィールドスタディを通じてさまざまな研究・教育・実践に取り組んでこられました。

フィールドスタディは2010年から始まり、モンゴルには7回、中国雲南省には9回、合計120名の学生が参加しました。また2013年からは国内も始まり、兵庫県宍粟市、滋賀県長浜市、奈良県十津川村に合計25名の学生が参加しました。雲南省では有機栽培のコーヒーづくりが取り組まれ、元学生たちが立ち上げた「坂の途中」という団体を通じて販売されているといいます。モンゴルでは生物多様性保全教育センターが立ち上がり、絶滅危惧植物を保護して政府と研究所に譲渡する取り組みがされています。宍粟市では人口減少が急速に進んでいる清流のきれいな地域で何かできないかと、これまで地元の中小企業と協力してサーモンプロジェクトなどが取り組まれてきました。またモンゴルと宍粟の中学生をつなぎ、互いの川についてオンラインで語り合う国際環境教育プログラムも始まりました。

スチンフさんいわく、「地方にはたくさんのいいものがある。どこの地域も食べ物がおいしい。だから差別化をはかるのが難しい」「地方の人はやさしくて謙虚。おいしいからぜひ売りましょうと言っても、恥ずかしがられる」といいます。そこで発案されたのが、野菜と学生の労働を交換するという、市場・貨幣を介さない大学のネットワークによる交換システムでした。

こうしたフィールドスタディの経験の蓄積の中で、学生の学びには循環プロセスが見られ、地域における実践においては応用と継承と発展が進んできたといいます。最初から意図してつくられたというよりは、参加した学生が後輩へ、また次の後輩へとバトンを渡すことで、また地域がこの取り組みを応援してくれたことで出来上がったといいます。解決できる問題もあればそうでない問題もありますが、解決できないものは大学に戻し、課題解決のアイデアとして提案されたものは法人である「北の風・南の雲」が引き受けるという流れが生まれました。スチンフさんは、知を合理的に使うのではなく、地方のために生かす、研究・教育・実践の一体化のプロセスのことを「知の地方化」と呼んでいます。

最後にフィードスタディの実践から得られたものや立証できたについて話されました。それは、大学や学生も入り込んで地域間をつないで学び合った結果、継続する一つの学習組織が生まれたことです。そして学生はたくましくなり、地方は元気になっていくことが立証されたといいます。「地方とかかわることで有益な時間、有益な人生を送れることをこれからも証明したい。地方でこれからも挑戦していきたい」と語られ、話題提供を終えられました。

意見交換・感想共有

地方と学生を元気にしたいというスチンフさんの思いに突き動かされたかのように、さまざまな質問や感想が参加者から出ました。

まず、どこからこのようなモチベーションが出てくるのかという質問がありました。それに対して、一つはスチンフさん自身がいろいろな方にお世話になったので、そのお返しをしたいという思いで、上須先生と一緒に取り組んできたと話されました。もう一つは、専門性を探究する大学機関では地方とリンクさせる学びが減ってきているといいます。そうした日本の教育に対して課題意識を持っているからだと話されました。

また、学術の世界では学会報告や論文公開という形でフィードバックや広く社会に還元をしていく方法が主流ですが、フィールドスタディではどのような還元の方法があるかという質問も出ました。スチンフさんからは、地域の人たちに還元したいので、市長や商工会議所の人たちに報告することもあれば、地域の高齢の方々にはお酒の席など緊張しない何げない場の中で話題にしたりすると話されました。また財団でこうした取り組みを報告する雑誌をつくるアイデアが出ていることついても触れられました。

地域で既に取り組んでおられる参加者からは、多様な人たちに里山のよさに関心をもってもらうにはどうしたらいいかという質問がある一方で、学生や若い移住者の関心やかかわりは一過性のものが多く、継続性が難しいという感想もありました。スチンフさんは、こうした課題は簡単に解決できることでも、いい方法があるわけでもないという前置きをされてから、あまり気負わず柔軟にとらえた方がよいのではと話されました。お茶を飲んだり楽しいイベントを設定しながら地域の方と親しくなる機会をつくれば、関心のある人でチームが出来上がっていくこともある、移住してもよいし出ていってもよい、大阪と地方と複数拠点があってもよいということであれば、挑戦する人のハードルも下がるのではないかと話されて、終了の時間となりました。

スチンフさんが多くの仲間と一緒に失敗しながらも取り組む中で導かれた考えや実践の話は、とても説得力がありました。地方の魅力や学生の学び、そして地方と学生が一緒に元気になっていく姿は、これからの大学のあり方を考える上でも非常に示唆的でした。地方とかかわるという挑戦がそれぞれのやり方で広がっていけば、地域の未来も学生の未来も今よりもっと魅力的になります。そんな未来を構想していきたいと思いました。スチンフさん、ありがとうございました!

(今井貴代子 社会ソリューションイニシアティブ特任助教)