学生のつどい

第14回SSI学生のつどい開催報告
シリーズ「地域の未来を考える」⑤
2022年12月14日(地域と大学の協働の可能性)

<日時>  2022年12月14日(水)19:00〜20:40
<場所>  オンライン・対面(SSI豊中ラウンジ)
<参加者> 20名
<プログラム>
・矢倉誠人さん(大阪大学共創機構特任研究員・とつぷろ。初代代表(経済学部卒))からの話題提供
・神谷明成さん(奈良県十津川村役場)からの話題提供
・参加者でディスカッション
(司会:上須道徳 経済学研究科教授)

地域と大学の協働の可能性

2022年度の「SSI学生のつどい:阪大SDGs学のススメ。」はSDGsの目標の一つである「持続可能なまち・地域」にフォーカスし、日本の地方や地域の未来について対話を行う場を提供しています。

第14回SSI学生のつどいでは、矢倉誠人さんと神谷明成さんをお招きしました。矢倉さんは大阪大学経済学部を卒業し、福岡県うきは市地域おこし協力隊に就任、その後うきは市役所職員を経て、現在大阪大学で働いておられます。神谷さんは、関東の大学を卒業して奈良県十津川村へ移住、神納川(かんのがわ)地区の地域活性化団体で勤務して、現在は十津川村役場で働いておられます。大阪大学の授業(担当:上須先生)をきっかけに十津川村・神納川地区を舞台に学生団体「とつぷろ。」が生まれ、初代代表だった矢倉さんと神谷さん、大学と地域の接点が生まれました。お二人から「地域と大学の協働の可能性」というテーマで話題提供いただき、その後、参加者による活発なディスカッションが行われました。

話題提供者 矢倉誠人さん(写真右)

話題提供者 神谷明成さん(写真左)

話題提供者の話①

矢倉さんからは、地域おこし協力隊など地域にかかわる仕事を通じて気づいたことと、「とつぷろ。」の活動について話していただきました。

大学時代、矢倉さんは「仕掛学」を研究し、地域の課題をソーシャルビジネスで解決することに関心をもち、さまざまな地域に出かけていました。「地域で仕事がしたい」と思い、卒業後は福岡県うきは市で地域おこし協力隊の仕事につき、移住・定住、空き家の活用担当となりました。しかし、就任2日目に、移住者を増やすことをあきらめたといいます。年間300人ずつ人口が減少していくなか、自分1人で移住者を増やすことには限界があると感じたからです。地域に新しい価値をもたらす移住者を外から連れてこようと活動方針を変えてからは、移住者と一緒に新しい観光資源を生み出し、町の賑わいづくりの一翼を担われました。

こうした経験から、活動の方向性を決めて行動すれば、大きな成果ではないが、確実に地域にいい変化を起こすことができること、そして、地域のために頑張ることを通じて、地域の人とつながりが生まれ、できることや楽しみが増えていくことに気づいたといいます。

矢倉さんが初代代表をされた「とつプロ。」は、十津川村・神納川地区と学生団体の協働のプロジェクトです。授業をきっかけに十津川村に足を運ぶようになり、地域の人たちの話を聞く中で、若者が減って地域の伝統行事ができなくなっていることや、コミュニケーションをとる機会が減ってしまっているという課題に気づきます。そこで、都市部の若者を巻き込んで伝統行事を復活させようと取り組んだのが、盆踊りや駅伝でした。盆踊りは、準備に時間をかけ、何度も足を運んだ分、本番は地域の人も若者も本当に楽しそうで、取り組んでよかったと思ったそうです。また復活させた駅伝は、大学を卒業生し、社会人になってもかかわり続けることのできるイベントになっています(どちらもコロナで現在は休止)。他にも、茶摘み、稲刈りなど都市部の若者が興味をもちそうなことをイベントにされ、若者を巻き込んでこられました。

十津川村の人口減少に直接はたらきかけることはできないけれど、興味をもった人が移住してくれるしくみ、何度も訪れるきっかけをつくろうとしたときに、ロールモデルとして矢倉さんの中にあったのが、関東から十津川村に移住していた神谷さんだったそうです。若者がかかわることで、地域のちょっとした課題が解決され、地域の人の笑顔が増えた、このことが何よりの成果だと矢倉さんは言います。そして、「誰かの困りごとでも、小さな課題でもいい。スキルも経験もいらない。モチベーションがあることが大事で、みんなで一緒に取り組み、楽しんでいき、活力あふれる場に変えていこう」と呼びかけられました。

話題提供者の話②

神谷さんからは、十津川に移住したいと思った経緯や地域でこれまで取り組んでこられたこと、大学と地域の協働について思うことなどを話していただきました。

神谷さんは十津川村に移住して今年で12年目です。大学の関係で神納川地区に入り、そこで地域の若者と出会い、考えを共有したことで、移住を決めたといいます。もともと都市部で生まれ育ち、都会よりも自然環境が好きで、自然と共に生きる文化の中で暮らしたいと思っていたそうです。

神納川地区でまず取り組んだのが、矢倉さんの話にも出てきた盆踊りでした。十津川村は奈良県の総面積の5分の1を占め、琵琶湖と同じ広さです。十津川村は豊かな自然、独自の歴史・文化があり、それを反映するかのように村内10地区それぞれに異なる盆踊りがあります。曲名が同じでも、踊り方、歌詞などが違うそうです。その担い手がいなくなるという課題に直面しています(村では盆踊りを映像に残す保存活動が取り組まれています。こちら)。神納川地区ではしばらく盆踊りが途絶えていました。神谷さんは、地域の人に踊りを教えてもらい、広報活動を行い、その過程で「とつプロ。」とも出会い、盆踊りを復活させました。また、神納川は世帯数が少なく、なおかつ若者がほぼいないため、村の伝統行事である地区対抗の駅伝に神納川地区として出場することができていませんでした。神谷さんは、地域の人と一緒に、地区から出てしまった人にも声をかけ、「とつプロ。」にも協力してもらい、駅伝への出場を果たすことができました。

神谷さんが考える「十津川村の現在地」は、豊かな自然、独自の歴史・文化がある一方で、人口減少によって近い将来村がなくなるという局面を迎えていることです。担い手となる世代のはたらく場がなく、子どもは高校で村外に出ないといけないなど課題は多くあります。価値はあっても、それを担う人がいないのです。神谷さんは、地域おこし協力隊や十津川を気に入った人たちによって村の魅力を活かした仕事が生まれていくことに「十津川村の可能性」を感じておられます。「十津川村の目的地」は、自然(が生み出す文化)と共に生きること、村の魅力を第三者と分かち合い生きることだと話されました。最後に、大学と一緒にできることのアイデアとして、たとえば、空き家をリノベーションしてその場所を拠点にし、学生が気軽にその場に行け、現場の課題を聞き、実践に挑戦していくような「知の拠点」をつくってみるのも面白いのでは?と、提案されて終わりました。

意見交換・感想共有

参加者の中には、すでに地域とかかわって仕事や活動に取り組んでいる方、まだかかわっていないが関心をもっている方、そして「とつプロ。」のメンバーの方などがいて、話題提供者のお二人と活発なやりとりがなされました。いくつか紹介します。

お二人からは十津川村での楽しい話を中心にしていただいたので、「地域活動で気を付けることや実際に苦労したことは何か」という質問が出ました。矢倉さんからは、学生なので失敗を恐れずに、失敗したらそこから学べばいいと暖かいエールが送られました。加えて、地域の中で頑張っている人につながって、そこでしっかりコミュニケーションをとることが大事と話されました。神谷さんも同様で、地域のハブとなるキーパーソンから現場でのルールを聞いて一緒に取り組んでいくとよいと話されました。なるほど、と頷きの声が洩れるかのようでした。

すでに移住して地域活動をされている社会人の方からは、目的の設定や活動の軸について質問がありました。矢倉さんは、取り組んでいく中で目的の設定が変わっていくのはいいが、事前に定めることが大事だと話されました。目的が定まっていないと、自分たちの行動や言葉に一貫性がなくなったり、地域の人との信頼関係の構築にもつながっていかないのだそうです。神谷さんは、地域の中で活動を盛り上げていくことと、それを外へ発信していくことは車の両輪だが、まずは地域の人とのコミュニケーションが大事で、チームがうまくいってこそだと話されました。          
最後は、地域とのかわり方には、学生、教員といった大学というものだけでなく、社会人での立場もあり、そこには地域おこし協力隊、役場職員、また議員など多様なかかわり方があること、そしてそれらが固定化されずやりたいこと(やれること)で変更・行き来することも可能なのだという、キャリアの話につながっていったところで終了時間となりました。

お二人の話題提供から、「地域の課題×若者=出会い・キャリア」へと展開していった学生のつどいでした。今後も、地域との協働の可能性を追求していきたいと思います。矢倉誠人さん、神谷明成さん、ありがとうございました!

(今井貴代子 社会ソリューションイニシアティブ特任助教)