学生のつどい

第16回SSI学生のつどい開催報告
シリーズ「地域の未来を考える」⑦
2023年2月15日(地域の未来について考える・まとめ)

<日時>  2023年2月15日(水)19:00〜20:40
<場所>  オンライン・対面(SSI豊中ラウンジ)
<参加者> 12名
<プログラム>
・上須道徳経済学研究科教授による「地域の未来を考える」のまとめ
・参加者でディスカッション


地域の未来を考える・まとめ

2022年度の「SSI学生のつどい:阪大SDGs学のススメ。」はSDGsの目標の一つである「持続可能なまち・地域」にフォーカスし、大阪大学に縁のある地域で活躍するゲストを呼んで、日本の地方や地域の未来についての対話を6回開催してきました。

第16 回SSI学生のつどいは、上須教授によるこれまでの話題提供や議論をもとにした「地域の未来を考える・まとめ」の回です。2月下旬に実施される「十津川フィールドスタディ」についても紹介され、参加者とディスカッションが行われました。

話題提供者の話

これまでの話題提供をふまえた地域をめぐる状況や議論について整理を行った後、上須教授からはどのような価値観や社会であれば地域が元気になるかについての構想が語られました。

まず、ゲストの方々が口をそろえて語られた地域の魅力について、再度取り上げられ、日本は南北に長い列島であることから、豊かで多様な生態環境と文化・風土があること、濃厚な人間関係のもとでお金を通じたやりとり以外の関係性が生まれてきたこと、なくしたくないと感じるような里山の風景が(今はまだ)あることだと話されました。しかし、少子高齢化や人口減少、東京・首都圏への一極集中など人口構造の変化や成熟経済によって、そうした地域資源の維持管理は難しくなっていると上須教授はいいます。もちろんこうした課題に政府も地方交付金や国家支出金などを通じて、地方創生の取り組みや地方回帰支援などを行ってきましたが、残念ながら改善や変化の兆しは見えない状況だといいます。

そこで、上須教授はあらためて自分たちに問いを投げ返します。「なぜ東京に行くのか?なぜ東京に残るのか?」この問いに対する回答の一つとして、東京に代表される大都市、大企業、都市の大学というものをよしとする価値観が日本社会の中で涵養されてきて、時代は変化しているにもかかわらずその価値観が変わらないことが問題なのではないかと話されました。前回のスチンフさんの話題提供を受けて、上須教授からも、時代の変化によってこれまでのリニアな生き方、つまり働き方・学び方・住まい方が人生のある時点で決まってしまうのではない、ライフステージに応じてさまざまに変わっていく柔軟な生き方になっていくのではないかと未来を構想されました。そうなれば、東京に行かなくてもよく、あるいは都市と地方の複数拠点生活も可能になるので、関係人口も今よりずっと増えるのではないかということです。実際にICTの発達やコロナの影響で私たちの意識も少しずつ変わってきていることが、こうした価値観や生き方を後押ししているとも言われました。

こうした考えに関連する言説として紹介されたのは、「地域主義からの出発」(玉野井芳郎)、「内発的発達論」(鶴見和子)、「愚痴から自治へ」(吉本哲郎・地元学)、「知の地方化」(スチンフ)です。上須教授が目指すのは「包摂的で多様な社会」です。それは政治・経済・ものづくり・知の創出の民主化のことで、それこそが誰ひとり取り残さない、住み続けられるまちのために必要なアプローチではないかと提起されました。

最後に、知の地方化に資する大学(教員と学生)と地域(自治体・市民団体・企業)の協働の事例として、上須教授が取り組んでおられる「とつプロ。」「こども食堂プロジェクト」「高島集落カルテプロジェクト」が紹介されました。また2月20日~21日にある十津川フィールドスタディについても説明されて、話題提供を終えられました。

意見交換・感想共有

この日のディスカッションは主に、地域に継続性をもって取り組む仕事である公務員や行政など「官」の力が弱体化して、意欲や力のある人が「民」に流れていってしまっている現状について、なぜそうなっているのか、どうしたらそれを止めることができるかについて話し合われました。問題は複雑で簡単ではありませんが、業務の多忙化、給与面や待遇の低さ、数の少なさ、スキルアップや研修制度が前提にされておらず自己研鑽が推奨されない環境などによって、挑戦したいことのある意欲や力のある人ほど忙殺されてしまう現状があるのではないかとの意見が出ました。逆に海外の事例として、教員が週のうち何時間かは必ず時間をとってスキルアップのための研修を受けるという研修制度が義務付けられている国もあると紹介されました。

それ以外には、元気な地域、予算を取ってくる地域・職員とそうでない地域・職員など、地域が比較されて競争の場にさらされている現状に対して、競争という価値観を地域に入れてしまっていいのかというモヤモヤした気持ちを表現する参加者もいました。上須教授は、競争ではなく、地域の中で学びつづける職場環境や地域環境が生まれ、その取り組みが広まっていくことが大事だと話され、終了の時間となりました。

2022年度は「地域の未来を考える」をテーマに学生のつどいを開催してきました。地域の魅力を知り、地域とのかかわりを柔軟に持ち続けられる学びのあり方(働き方・生き方)、そこで得た知を地域のために生かす協働のあり方が、「地域(と学生)の未来を考える」ヒントになりそうです。上須先生はじめ、話題提供くださった方々、参加者のみなさん、ありがとうございました。ひきつづき、一緒に考え、行動していけたらと思います。

(今井貴代子 社会ソリューションイニシアティブ特任助教)