学生のつどい

第13回SSI学生のつどい開催報告
シリーズ「地域の未来を考える」④
2022年11月16日(「地方に若者を呼ぶ」その一歩先へ)

<日時>  2022年11月16日(水)19:00〜20:40
<場所>  オンライン・対面(SSI豊中ラウンジ)
<参加者> 19名
<プログラム>
・置塩ひかるさん(兵庫県地域再生協働員・丹波篠山市(人間科学部卒))からの話題提供
・参加者でディスカッション
(司会:上須道徳 経済学研究科教授)

「地方に若者を呼ぶ」その一歩先へ

2022年度の「SSI学生のつどい:阪大SDGs学のススメ。」はSDGsの目標の一つである「持続可能なまち・地域」にフォーカスし、日本の地方や地域の未来について対話を行う場を提供しています。

第13回SSI学生のつどいでは、置塩ひかるさんをお招きし、「「地方に若者を呼ぶ」その一歩先へ」というテーマで話題提供をいただきました。置塩さんは大阪大学人間科学部の卒業生で、現在は兵庫県版地域おこし協力隊(地域再生協働員)をされています。現場に飛び込み、農村でのまちづくり、地方と若者をつなげる仕事について見えてきたお話から、置塩さんのキャリアパスなどざっくばらんな意見交換が行われました。

話題提供者 置塩ひかるさん(写真左)

話題提供者の話

置塩さんが学生時代に農業に関心をもつようになったきっかけ、そして丹波篠山に移住するまでの話からスタートしました。生きるとは食べること、その食を支えるのは農業だと思った置塩さんは、大学4年後期の就職活動中にファームステイで休学をするという選択をされます。丹波篠山で黒枝豆漬けに取り組み、その後ニュージーランドでファームステイ、帰国後に遊びに行った丹波篠山で「おかえり」と帰りを待ってくれている人の存在に「帰ってきた」というホーム感を覚えたことが、現在の丹波篠山での仕事へとつながったといいます。

住んでみると、日常の風景がすばらしく、人間関係もほどよく暖かく、地域のおまつりなどもすてきだと感じた一方で、若者がいないという現実も体感します。置塩さんは、ぜひ若者に丹波篠山に来てほしいと、人気のあるサウナ体験を取り入れた「“整活”ツアー」を企画したり、地方に関心のある学生・若者が集う「若者×地方サミット」などを開催してこられました。

丹波篠山で生活するようになり、置塩さんは、「地方・地域の課題」がそれ以前と比べて違う見え方をするようになったといいます。高齢化、空き家、交通、耕作放棄地、廃校などは確かに課題です。しかし、「耕作放棄地」についても、耕作をしたい人が現れても、容易に農地を取得できない制度上の問題や、もともとその土地が耕作不利地で希望通りに耕作ができないなど、「課題」にはなぜそうなっているのかという歴史、文化的背景があり、その積み重ねと社会の変化によって引き起こされた問題として生じているのだと気づきました。こうした中、地方にあるのは「課題」ではなく、変化の「結果」なのではないかと思うようになったと話されました。

草刈り、水路の掃除、田畑の管理、山の管理、伐採、植林など、人の手が施されて「自然」が活かされ、私たちの暮らしに恵を与えてくれています。置塩さんが課題だと思うのは、そうした「農村・農業の有する多面的機能」である里山の技術継承です。そして、これらがお金にならために担い手が不足しているという課題に、置塩さんは自ら「実証実験」して取り組んでいます。仲間と一緒に立ち上げられた「ミチのムコウ」という取り組みで、里山資源と経済の循環を持続可能なものにしていくさまざまな事業を展開されています。その一つとして、田んぼづくりから稲刈り、お酒の仕込みまでに挑戦する「100人ではぐくむ名前はまだ無い日本酒」プロジェクトを紹介くださいました。

もう一つは、農業といってもその内実は多様な職種、業種を含み、必要とされるスキルも幅は広いことから、就農にはじまり、農業で得た経験をもとに転職するまでの農業にまつわるキャリア選択をもっと豊かにできないかということです。「経験としての農業」がどのようなキャリアとして展開されていくか、まさに置塩さん自身が実践されていることです。

最後に、地方・地域の課題は、地方・地域の人々の課題ではなく、わたしたち若者の問題ではないかと話され、「私たちはどうしたいのか、何を未来に残し、何を受け継いでいくのかが問われている」と締めくくられました。

意見交換・感想共有

話題提供の後は、等身大の姿でお話をしてくださる置塩さんに対して活発な質疑応答、参加者同士の対話が繰り広げられました。

まずは、「地方・地域と若者(学生)」をめぐって、「フィールドワークと移住の違いはなにか」「地方とのかかわり方は、フィールドワークや移住以外にどのようなものがあるか」「ホーム感とはどのようなものか」といった質疑応答で盛り上がり、次第に話題は「農業・キャリア」へと移っていきました。

「農業をして得られたことはなにか」という質問に対して、置塩さんは「複雑な関係性の中でいかに目標を達成できるか」が面白いと話されました。トマトの出荷を例に挙げられ、トマトを出荷するまでに、天候や虫、肥料など、いろいろな相互作用や影響があるなかで達成していくことが大きな経験だと話されました。「自分のキャリアの中で農業に触れることがないなら、何がボトルネックだと思うか」という置塩さんからの参加者へ問いに対して、「誰も農業のことをわかっていない、(学生など就職希望の人に)説明することができないこと」ではないかと、参加した学生、社会人、高校の先生からも自分事として語られました。置塩さんは、大規模農業から家族経営の農家など形も多様で仕事の幅が広い農業を、仕事として伝えていくことはこれまで十分にされてこなかった分野で、そこに第一人者としてかかわっていけることが楽しいと話され、終了時間となりました。

仲間と一緒に「里山循環農業」に取り組みながら、「ローカル×キャリア」を実証実験している置塩さんの話は、とても刺激的なお話でした。地方・地域は、こうしたかかわる人のワクワクや楽しみ、挑戦を通じて元気になるのではないかと思いました。置塩ひかるさん、ありがとうございました!

(今井貴代子 社会ソリューションイニシアティブ特任助教)