学生のつどい

第12回SSI学生のつどい開催報告
シリーズ「地域の未来を考える」③
2022年10月12日(中央からみた地方創生)

<日時>  2022年10月12日(水)19:00〜20:35
<場所>  オンライン・対面(SSI豊中ラウンジ)
<参加者> 32名
<プログラム>
・高成壯磨さん(元農林水産省(理学部卒))からの話題提供
・参加者でディスカッション
(司会:上須道徳 経済学研究科教授)

中央からみた地方創生

2022年度の「SSI学生のつどい:阪大SDGs学のススメ。」はSDGsの目標の一つである「持続可能なまち・地域」にフォーカスし、日本の地方や地域の未来について対話を行う場を提供しています。

第12回SSI学生のつどいでは、高成壯磨さんをお招きし、「中央からみた地方創生」というテーマで話題提供をいただきました。高成さんは大阪大学理学部を卒業し、農学を専攻できる大学院に進学して有機農業について学んだ後、農林水産省に務めてこられた経験があります。現在は、岡山で政治の世界を目指して地域を元気にする諸活動を行っています。日本の国土利用の在り方や地域の未来について、またキャリアパスをめぐって、参加者とざっくばらんな意見交換が行われました。

話題提供者の話

最初に自身のCV(curriculum vitae)をもとに自己紹介をしていただきました。高成さんは学生時代からキャンパスを飛び出して地域でさまざまな活動をされる中で、特に地方部に焦点を当てて地域を元気にしたいと思うようになったといいます。農水省で取り組んでこられた鳥獣対策の仕事、その中で感じたギャップや地方創生への思い、岡山で活動していて思うことなどについて話していただきました。

農林水産省では、農村振興局 農村政策部 鳥獣対策・農村環境課に配属され、高成さんは野生動物による農作物被害の対策をおこなう業務に携わっていました。野生動物による農作物被害の影響は全国的に大きな課題になっており、野生鳥獣による農作物被害額は161億円(令和2年)にものぼります。この被害額には、シカやイノシシ、サルなどが農作物を食べてしまうことによる被害や売り上げへの影響だけでなく、農業をやめてしまうという営農意欲の減退による耕作放棄地、離農の増加なども含まれ、被害額として数字に表れる以上に農村漁村に深刻な影響があるといいます。国としては、たとえば2007年の鳥獣被害防止特措法のように、法律をつくり基礎自治体が対策に取り組みやすいよう整備をしています。

高成さんが中でも関心を寄せているのが、シカ、イノシシなどの広域的な捕獲強化です。野生動物は当然ながら複数の市町村をまたいで生息しているので、一行政区だけで取り組んで解決できるものではありません。都道府県と市町村が協力して取り組んでいくための法整備が不可欠だといいます。また、ICTなどの新しい技術の導入、ジビエへの利用拡大などさまざまな技術と資源を有効活用して、鳥獣対策を地方創生につなげていくことが大事だと話されました。

当日のスライドより(話題提供者 高成壮磨さん(左))

こうした地方創生にかかわる中央の仕事をするなかで、高成さんは当初描いていた生活とのギャップを感じ、実際に地方の現場で働きたいという思いが募っていったそうです。また、霞ヶ関という職場環境において接する機会が増えた政治の世界にも関心をもち始めました。ちょうどその時、ある議員の方から舞台を中央から岡山という地方に移してみないかと声をかけてもらい、高成さんは「この風に乗ろう」と岡山で新生活をスタートすることを決意しました。

移住して4ヶ月目の現在、海、山、水産業、農水産業、すべてのものがつまった岡山で、議員という立場から鳥獣対策をはじめとした地方創生にかかわっていこうとされています。秘書をしながら政治の世界を学んでおられますが、地域の人のためになりたいという思いと実際の仕事とのギャップに悩むこともあるといいます。高成さんが感じたギャップや岡山で気づいた地域のよさについて語っていただき、参加者も交えてのディスカッションへと移っていきました。

意見交換・感想共有

活発な質疑応答、参加者同士の対話が繰り広げられました。いくつか紹介したいと思います。

大学時代のさまざまな経験が今の活動にどのようにいきているか、それが自分らしさにどのようにつながっているかという観点からの質問がありました。高成さんは学生時代にサイエンスカフェの運営やシングル家庭の子どもの学習支援、十津川村での地域おこし活動など、ボランティア活動を積極的に取り組んでおられました。「思いがけないところで人のつながりができて、関係が深まるという経験をしてきた。いろいろやっていると世の中をみる視点が増えていき、見過ごしてしまうようなことに関心をもてるようになった」と話されました。また、自分からいろいろなフィールドに飛び込んで仲良くなり、自分のことを知ってもらうことは議員活動にも重要で、これまでの経験がそうしたところでもいきていると話されました。

また、大阪大学のある北摂地域でも鳥獣被害の問題は大きくなっています。高成さんは、鳥獣対策にサイエンスの知見を入れて産官学の連携を進めていきたいと話され、鳥獣対策の「岡山モデル」に期待が寄せられました。

最後に上須先生から、高成さんの話された「ギャップ」という内容を受けて、「ギャップはどんな仕事についてもある。そこでどうするか。当事者によりそってどうするか、ということが大事」とまとめられました。参加者それぞれが、自分なら地域のために何ができるだろうかと考える機会をいただいたように思います。高成さん、話題提供ありがとうございました!

(今井貴代子 社会ソリューションイニシアティブ特任助教)