SSIサロン / シンポジウム

第11回SSIサロン開催報告
「命と生活 コロナ禍を超えて」

<日時>  2020年7月20日(月)17:00 – 19:00
<場所>  オンライン開催
<参加者> 48名
<プログラム>
・開会挨拶   堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授
・話題提供1 大竹文雄/大阪大学大学院経済学研究科教授
       「コロナ感染症対策の行動経済学」
・話題提供2 熊ノ郷淳/大阪大学大学院医学系研究科教授
       「免疫研究と臨床応用−コロナ感染理解のために−」
・話題提供3 新川達郎/同志社大学政策学部教授
       「感染症防止と自粛のもとにおける市民的連帯の棄損と再生
        −市民的公共性の刷新−」
・話題提供4 早瀬昇/大阪ボランティア協会理事長
       「“正しさ”が崩す自由な連帯−STAY HOMEに込められた意味と
        試行錯誤の日々から考える−」
・ディスカッション

コロナ禍での初のSSIサロン、オンラインで開催

新型コロナウィルスが世界規模で感染拡大する中、今年度最初のSSIサロンがオンラインの形を取って開催されました。コロナ禍において、医療、政策、生活の現場で諸課題に取り組まれている研究者、実務家の先生方を話題提供者として迎え、我々がこのコロナ禍で起こっている問題をどのように受け止め、今後どのようなことに取り組んでいく必要があるのかについて話し合いました。話題提供者は、経済学研究科 大竹文雄教授、医学系研究科 熊ノ郷淳氏教授、同志社大学政策学部 新川達郎教授、大阪ボランティア協会 早瀬昇理事長 の4名です。

いかにコロナウィルス感染拡大を抑えるか?

サロンではまず、いかにして新型コロナウィルスの感染拡大を抑えるのかについて、行動経済学と医学の知見からご解説いただきました。

最初に話題提供をいただいたのは、現在、行動経済学者として国の新型コロナウィルス感染症対策分科会メンバーとしてもご活躍される、本学経済学研究科 大竹文雄教授でした。大竹教授には、感染症対策として専門家会議が市民に行動変容を促すメッセージを出す際、どのような点に注意が向けられていたのかについてご解説いただきました。日本では人々の違反的な行為に対して罰金や罰則を用いるという政策が取れない中、専門家会議からは、感染症対策として、市民に対して日々の生活における行動変容が直接呼びかけられました。その際、「あなたの命を守るためです」といった呼びかけは、受け手が「自分だけは感染しない」という過剰な自信を持っている場合、効果を持ちません。これを防ぐために、専門家会議が「あなたの身近な人の命を守るためです」といった利他的なメッセージを送ることを心がけていたこと、またその効果をめぐる行動経済学によるこれまでの研究蓄積についてのご紹介をいただきました。

次に話題提供いただいたのは、本学医学系研究科の呼吸器免疫アレルギー内科の教授である熊ノ郷淳教授でした。熊ノ郷教授には、そもそも人間の体の中で「免疫」というものがどのようなメカニズムで働くのか、またその上で、ウィルスに対する予防接種・ワクチンがどのように開発されていくのかについてご解説いただきました。その中で、コロナウィルスをコントロールしていくためには、ウィルスを排除すること、各人の抵抗力を高めること、ワクチンを開発することに加えて、過剰に免疫が反応した場合に起こってしまう「サイトカインストーム」をコントロールすることが重要であるとのお話をいただきました。

一方で、いかに社会活動を継続できるか?

コロナ禍においては、効果的な感染症対策を取ることと同時に、その中でいかに市民生活を守るのかも重要な課題として浮上しています。この点について、市民社会論の研究者である同志社大学政策学部 新川達郎教授と、大阪ボランティア協会で実務の現場でご活躍される早瀬昇理事長より話題提供をいただきました。

まず、新川教授には、コロナ禍で現在、市民活動が直面している問題、また新たな市民社会空間出現の可能性についてお話をいただきました。感染症対策として様々な社会活動が自粛される中、特に対面の形を取っていた市民活動、例えば、お年寄りのご家庭に訪問するといった形態の活動は縮小、撤退を余儀なくされています。一方で、時間や空間を乗り越えて人々が集うことができるリモート型の市民社会がこうした状況下で強化されており、それらが市民的な公共性、連帯を果たしうる社会として出現し始めている可能性があるとのご指摘をいただきました。

次に、早瀬氏からは、「自粛警察」をその典型例に、コロナ禍で人々がある種の「正しさ」を押し付けられているとのご指摘をいただきました。早瀬氏は、本来、市民活動というのは「楽しさ」の中で自発的に、自由に行われていくものであり、「正しさ」があらかじめ決められていては、それらは窮屈で工夫ができないものとなり、また、そうした「正しさ」への同調圧力は結果的にファシズムのようなものをもたらし兼ねないとの危惧を述べられました。

コロナ禍での分断を超えて

後半のディスカッションでは、コロナ禍で自粛要請等がなされる際に、「“We”(われわれ) 」がどのように形成されるのかについての指摘がありました。コロナウィルスに感染した場合に重症化リスクの低い「若者」と高い「高齢者」、感染症により人が亡くなるリスクと経済的不況から自殺により人が亡くなるリスク、経済活動の自粛により大きな影響を受ける業界とそうでない業界。コロナ禍の対応を巡っては、各人が置かれている状況の違いを考慮せず、ある特定の政策を一方的な「正しさ」から推し進めることは、これら社会の分断を促進する恐れがあります。そのため、ウィルスで人が亡くなるリスクを少しでも下げる対策を取る一方で、その際に”We”から漏れている人はいないか、という視点を持つことで”We“の範囲を広げていく取り組みを同時に進めていくことが重要であると言えます。

今回のサロンは、初のオンライン開催という形となりましたが、いつもと変わらず参加者間での活発な議論がなされ、現在のコロナ禍で社会が直面している問題について多角的に理解するための視座を与えてくれるものとなりました。