サロン/シンポジウム

第10回SSIサロン開催報告
「人と人とをつなぐ人 - いかにしてはぐくむか」

<日時>  2020年1月30日(木)18時〜20時30分
<場所>  大阪大学会館2F SSI豊中ラウンジ
<参加者> 38名
<プログラム>
・開会挨拶  堂目卓生 SSI長・経済学研究科教授
・話題提供1 山崎吾郎 COデザインセンター准教授
       「新規基幹プロジェクト“社会課題を解決するための
        コミュニケーション能力の開発”について」
・話題提供2 工藤充 COデザインセンター特任講師
       「科学技術政策と科学コミュニケーションの実践・教育・研究」
・話題提供3 永田宏和 KIITO デザイン・クリエイティブセンター神戸
       「多世代型創造教育拠点・KIITOの活動紹介」
・話題提供4  菅野拓 京都経済短期大学講師
       「サードセクターの社会ネットワークとハブ
        ―東日本大震災への対応から考える―」
・ディスカッション
 ( モデレーター:木多道宏 SSI企画調整室長・工学研究科教授)
・食事をとりながらのダイアローグ

人と人とをつなぐ人、社会ソリューションコミュニケーター(SCC)をはぐくむ

社会課題を一人で解決することはできません。人と人とがつながり合い、協力し合ってはじめて立ち向かうことができます。しかしながら、課題に対する立場、思い、知識などは、一人一人異なります。そうした差異を乗り越えて課題解決に取り組むためには、個人間のコミュニケーションをはかることが不可欠です。鍵となるのは、目指すべき方向をしっかりと捉え、異なる立場、異なる思い、異なる知識を結びつけ、解決の方向に向かって全体を押し上げていく人、人と人とをつなぐ人の存在です。SSIではこのような人材―「社会ソリューションコミュニケーター」―を育成するため、新たなプロジェクト「社会課題を解決するためのコミュニケーション能力の開発」を立ち上げました。
今回のサロンでは、このプロジェクトに関わる研究者、そして社会で人と人とをつなぐ活動を実践している方にお越しいただき、人材育成の方法について話し合います。

まず、堂目卓生SSI長からSSIの理念、SSIサロンや基幹・協力プロジェクトの紹介の後、今年度の取組みについての話がありました。

 

話題提供者のお話から

山崎吾郎COデザインセンター准教授からは、「新規基幹プロジェクト“社会課題を解決するためのコミュニケーション能力の開発”について」と題してお話をいただきました。このプロジェクトは、文部科学省の令和元年度科学技術人材育成費補助事業「地域課題に対応するコミュニケーションの推進事業」に大阪大学が選定されたことを受けて立ち上げられました。山崎准教授は、大阪大学の超域イノベーション博士課程プログラム等で実施してきたPBL(Project Based Learning)の経験と課題を挙げ、今回の補助事業・プロジェクトにおいて、その課題を乗り越えて、「Social Solution Communicator(SSC)」人材を育成したいとの抱負を述べられました。

工藤充COデザインセンター特任講師からは「科学技術政策と科学コミュニケーションの実践・教育・研究」と題して、 COデザインセンターで実施している「公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)」事業における取組みについて話していただきました。STiPSは、大阪大学および京都大学の連携による人材育成プログラムです。科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環として、2012年1月に発足したものです。この教育プログラムの目的は、今回のテーマである「つなぐ人材をつくる」ことです。学生たちは、科学技術の政策やコミュニケーションを学び、社会のフィールドに出ながら研究プロジェクトを経験します。これにより政策や社会の仕組みの知識、コミュニケーションやファシリテーション等のスキル、そして自らの活動を俯瞰的に省察できる能力を身につけることで、異なる研究分野や実践領域で活躍する人々を「つなぐ」ことができる人材に育ってもらいたいと考えています。

永田宏和氏(KIITO デザイン・クリエイティブセンター神戸副センター長)は、「多世代型創造教育拠点・KIITOの活動紹介」と題して、2011年から2期8年にわたり指定管理者として関わられているKIITOの活動について話されました。永田氏は、KIITOが仕掛けた活動として、市民が自分の街を誇りに思う「BE KOBE」というシビックプライド(街に対してもつ愛着や誇り)の取組みや、子どもがさまざまな分野のプロから本物を学んで街をつくる「ちびっこうべ」、シニアの男性たちが活躍する「男・本気のパン教室『パンじぃ』」、その他様々な活動を紹介してくださいました。また、「正しいことより、楽しいことを」が取組みを具体化させるキーになるとのことです。学生や社会人が参加し小グループで行う「+クリエイティブゼミ」の活動も紹介してくださいました。

菅野拓氏(京都経済短期大学講師)からは、「サードセクターの社会ネットワークとハブ―東日本大震災への対応から考える―」と題して、お話をいただきました。菅野氏は、東日本大震災で生じた社会的課題に対応してきた多くのサードセクターの80人にインタビュー調査を実施し、これらの人々が社会においてどのようなネットワークを形作っているかを明らかにしました。
そこでわかったのは、一握りの人が多くの人から信頼され、様々な情報をやり取りする中継点となっていることでした。これはインターネットとよく似た構造で、ハブが存在することから情報の伝播性が高く、効率的に知識のシェアが可能です。また、各地域に根を張った各組織が、地域間で知識を交換したり、ローカルな共有資源を利用できる関係性を構築することで、課題解決を実現していたことから、地域に根を張って活動する「場所性」が重要であることも指摘されました。

 

対話とその先へ

対話の時間では、大学教育の枠組みのなかで地域の課題解決を担う人材育成を行うことの難しさについて問題提起がなされ、実際の研究や経験にもとづいたさまざまな回答がなされました。たとえば、現場・フィールドの経験をロングスパンで設計し、自分が経験していないことでも多くの実践者の話を聞くことで実感してもらう、事例を盛り込み理解しやすい研修・ワークショップを丁寧に設計・実施する、自然と人が育つような環境設定が大切であるといった話がありました。形式化・プログラム化しすぎないことの指摘や、JICAの青年海外協力隊における人と人とをつなぐ経験が、東日本大震災でも活きたという話もありました。

最後に、永田宏和氏からお話があった、まちづくりにおける人々の役割を表した「土の人」「水の人」「風の人」、そして「よい種」という考え方を紹介して、サロン報告をしめくくりたいと思います。
まちづくりで活躍する人々の役割には、「土」「水」「風」の3つがあると言われています。「土の人」とはそこに生き続ける人たちのことで、地域の市民の方々のことを指します。「水の人」とは、その地域の人々に寄り添う形で活動する行政やNPOの人たちのことです。かつては地域に活力が漲っていたため、土に養分が蓄えられていて、土には水が寄り添うだけで豊かに作物が実っていました。しかし都市化や過疎化という社会状況の変化によって、コミュニティや関係性といった土の豊かさは失われてゆき、NPOの力が強まってきたとはいえ、行政は効率化し、水不足のため作物が十分に育ちづらくなっているのが現在の地域の実情だと思います。けれども、土も水もいまでも十分に力があり、若い人も高齢者も元気で、きっかけさえあれば活躍できるはずです。そのために大切になってくるのが、芽を出し強く育つ「種」のようなアイデアと、その種をその土地まで運び植える「風の人」の存在だと永田氏は話されます。永田氏こそ、まさに風の人として神戸市、KIITOなどの様々な活動に関わってこられた方です。土と水と風と種で、地域の人たちとともに地域に花をさかせ作物を豊かに実らせることを目指しておられます。

「人と人をつなぐ人」を育てるにはどうすればよいか。この話がヒントになると考えています。風の人が種をつくり運んでくることは大事です。そして、種が芽を出せるような土や、順調に育つような水も不可欠です。それぞれに「人と人をつなぐ人」が必要なのでしょう。このような人々が、大学の教室の中だけで育てられないことは確かです。けれども、大学だからこそできることもあるはずです。これから私たちは、サロンに集っていただいた方々とともに、「人と人をつなぐ人」の育成の取組みを、社会に開いた形で行っていきたいと考えています。

(島田広之 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)