サロン/シンポジウム

第2回SSIシンポジウム開催報告
「命の責任−新しい企業像を求めて−」

<日時>  2020年9月23日(水)15時~18時30分
<場所>  Zoom ウェビナーにてオンライン開催
<参加者> シンポジウム 449名
<プログラム>
・挨拶    西尾 章治郎/大阪大学総長・SSIの活動報告
       堂目 卓生/大阪大学SSI長
・基調講演1 野中 郁次郎/一橋大学名誉教授「共感の経営」
・基調講演2 黒田 章裕/コクヨ株式会社会長
    「コクヨはSDGsにどうコミットするか〜コクヨの歴史から考える〜」
・パネルディスカッション 「企業の社会的責任をどう支えるか」
  パネリスト
   貝崎 勝/オムロン株式会社サスティナビリティ推進室担当部長、
        General Manager
   下村 委津子/NPO法人環境市民副代表理事
   眞々部 貴之/楽天株式会社サスティナビリティ部シニアマネージャー
   伊藤 武志/大阪大学SSI教授

延期となっていたシンポジウムが開催

2020年9月23日、第2回SSIシンポジウム「命の責任−新しい企業像を求めて−」が、Zoomウェビナーにてオンライン開催されました。本シンポジウムは、同年3月開催を予定していたものが、延期となり、半年後に開催されたものです。昨年行われました、第1回に引き続き、SSIにとって、本シンポジウムは自らの理念を紹介するとともに、学内外の多くの参加者との議論を通じてSSIが目指す「一人一人が輝く社会」の構築に向けた足がかりを築く重要なイベントです。シンポジウムでは、西尾総長の挨拶ののち、野中先生、黒田会長による2つの基調講演と、4名のパネリストと、モデレーターの堂目SSI長によるパネルディスカッションが行われました。
当日は学内のみならず、学外からも多くの方にご参加いただき、449名の方にご参加いただきました。様々な背景を持つ登壇者や参加者が、企業の社会的責任や「誰ひとり取り残さない」社会の実現のためにいかに取り組んでいくべきなのかについて考え、議論されたことは、SSIの理念を体現した場となったのではないでしょうか。

社会と経営をつなぐ2つの基調講演

シンポジウムの前半では、野中先生、黒田会長による2つの基調講演が行われ、社会に貢献する企業経営について、研究と実践双方のアプローチによる活動の紹介がなされました。なお、プログラムに予定されていた、堂目SSI長による、SSIの活動報告は、シンポジウム冒頭のシステムトラブルによって、割愛させていただきました。後日、同様の内容を紹介いたしました映像がありますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。
https://www.ssi.osaka-u.ac.jp/activity/other/20200923symposiumdome/

野中先生の基調講演では、経営学の視点から、共感をベースにしたマネジメントについてお話しいただきました。オーバー・アナリシス、オーバー・プランニング、オーバー・コンプライアンスという論理分析偏重によって日本企業が活力を失った現状に対し、大事なのは「理論」ではなく、一人ひとりの「思い」から出発することであると訴えました。いまこそ「共通善」(purpose)を掲げ、身体性に根ざす共感を媒介に、新しい未来を共創する意味づくり価値づくりを組織的に行うことが大切であると説明されました。SECIモデルは、共感して相手の視点になりきることで暗黙知を獲得することが起点となっており、暗黙知と形式知の相互変換をスパイラルに回していくことが、個人-集団-組織を往還する組織的イノベーションの本質であると述べられました。

黒田会長の基調講演では、コクヨの歴史、創業理念を通じた、社会への取り組みをご紹介いただきました。そのなかで、コクヨは、「社会のおかげ」という信念に基づいて個々人の「生きる力」に寄り添っていく経営を行ってきており、今後もそれを続けていきたいと述べられました。また、SDGs経営を会社全体で取り組んでいるというところまではまだ到達できていないが、できるところから社会的企業価値の向上に向けて、社会課題に取り組む中で、社員が働きたい、行きたいと思うオフィスをぜひつくり続けていきたいと力強く述べられました。

企業の社会的責任と共感についてのディスカッション

シンポジウム後半では、堂目SSI長のモデレートのもと、4人のパネリストによって「企業の社会的責任をどう支えるか」について、ディスカッションが行われました。ここでは、企業の社会的責任は企業に取らせればよいという他人事の考え方ではなく、私たち一人一人が消費者であったり、投資家であったり、勤労者であったり、さまざまな立場がで、それを通してどう支えていくか、応援していくか、自分事にしていくかという意識のもと議論が行われました。
パネルディスカッションの前半ではそれぞれのパネリストより、話題提供いただきました。貝崎様からは、オムロンの企業理念とサステナビリティ推進について、企業理念を軸に社会的な課題を解決し、社会の持続的な発展を通じて企業の持続的発展につなげていくサイクルを回していくことが、会社にとってのサステナビリティの推進活動になり、それを行なっていきたいと述べられていました。下村様からは、環境市民、SSRCの取組とこれからというテーマでお話しいただき、環境市民での取り組みを通じて、情報を共有し、コミュニケーションを行っていき、私たち市民一人一人が社会の主体者となって商品を購入することによって、頑張っている企業を応援して、そういった企業が広がっていく社会を目指していきたいとお話しされました。眞々部様からは、持続可能な生産・消費とインターネットビジネスというテーマで、楽天で行なっている、EARTH MALL with Rakutenについて紹介いただきました。今後は、どういったものがサステナブルな商品なのかということを消費者と一緒に考えていけるような、インクルーシブなプラットフォームをつくっていきたいと述べられました。最後に、伊藤先生からは、企業と顧客の共創が自律社会を実現するというテーマにて、買い手が商品の価格だけでなく、商品の作られ方、社員の働き方、さらには企業理念に共感して責任を持って選択する、企業との共創が、エシカルな市場、サステナブルな消費や投資を実現し、自律社会が実現されるのだと説明しました。
ディスカッションの後半では、企業での取り組みにおいて、「共感」がどのような役割を果たすのかについて議論がなされました。そこでは、企業だけでなく、消費者、投資家も巻き込んだ、共感の連鎖の中で、非常に小さな個々のチャレンジの積み重ねが、社会を変えていけるのではないかという可能性を感じることができました。

初めてのオンライン開催となりました本シンポジウムは、一部トラブルもありましたが、白熱した議論のもと、おかげさまで基調講演とパネルディスカッションを予定通り終えることができました。前回のシンポジウムに引き続き、学内外の研究者のみならず、企業や自治体、NPOなど多様な背景をもつみなさまにご参加いただけて、共創による持続可能な社会を実現させる上でのきっかけとなれば幸いです。参加された方々からは、アンケートを通じて、SSIやシンポジウムに対する様々な感想や意見を頂戴しております。SSIの理念に共感いただける方々の輪が広がり、「命を大切にし、一人一人が輝く社会」の実現に近づくように、今後も学内外の多くの皆様と共に取り組める活動を展開して行きたいと思います。

(島田広之 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)