研究者フォーラム

第4回SSI研究者フォーラム開催報告
「私たちから見える宇宙 宇宙から見える私たち」

<日時>  2021年12月14日(火) 17:30〜20:00
<場所>  オンライン開催
<参加者> 30名
<プログラム>
・開会挨拶:堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授
・第1部:「私たちから見える宇宙 宇宙から見える私たち」を考える
 ●SSIインタビュープロジェクト概要説明・報告
  西村勇哉/SSI特任准教授
 ●3人の研究者の視点共有+Q&A
  話題提供1 井上芳幸/理学研究科准教授
  話題提供2 佐藤訓志/工学研究科准教授
  話題提供3 渡邉浩崇/COデザインセンター特任教授
 ●3人の話題提供者・西村によるミニ・パネルディスカッション
・第2部:小グループに分かれての参加者同士の交流
・まとめと中締め
・引き続きフリーディスカッション
(司会・モデレーター:川人よし恵 社会ソリューションイニシアティブ企画調整室員/経営企画オフィス講師・西村勇哉)

宇宙に関する研究テーマに開催

 2021年⒓月14日(火)に、第4回研究者フォーラムがオンラインで開催されました。大阪大学の教職員計30名が参加した本フォーラムは、3名の研究者による話題提供とミニ・パネルディスカッションの第1部および、小グループに分かれて交流する第2部の二部構成で行われました。
 最初に堂目SSI長がSSIの理念や目的、取組について紹介したあと、第1部では西村勇哉特任准教授によるSSIインタビュープロジェクト*の概要の説明、3名の研究者による話題提供とミニ・パネルディスカッションが行われました。今回は「私たちから見える宇宙 宇宙からみえる私たち」をテーマに、宇宙に関する最先端の研究や現在の課題について、天文学、制御工学、国際政治学を専門にする研究者から論点が示され議論がおこなわれました。

(注) *SSIインタビュープロジェクトとは、SSI研究者フォーラムに関連した取組。これまで多様な分野の研究者22名に、未来社会の構想を検討する視点の獲得を目的として話を伺っている。

最先端の宇宙に関する研究から見えること

 話題提供ではまず、理学研究科の井上准教授が天文学の立場から発表されました。井上准教授は宇宙の歴史を紐解きたいという研究の動機にふれた後、日本書紀における宇宙に関する記述(「混沌から宇宙がはじまる」)や古代文明における天文学の役割から、天文学と近代物理学の発展など宇宙研究の歴史について話されました。その上で、最新のブラックホール研究がどのような方法で行われているのか比喩なども交えながらわかり易く解説され、2020年のノーベル物理学賞の成果を例にブラックホール活動が宇宙の歴史を知る上で欠かせない研究であると紹介されました。その一方で、研究(観測)のスパンが長くかかってしまうこと、機器の発展に伴うコストの肥大化と他の分野との予算の不均衡などの基礎科学としての天文学に関わる課題についても論点の一つとして提示されました。
 続いて、2人目の話題提供者である工学研究科の佐藤准教授が宇宙工学に関する発表を行いました。佐藤准教授は元々宇宙と関係ない制御工学の研究者から、大阪大学に移ってきたのをきっかけに宇宙工学に参入することになったという自らのキャリアについて紹介された後、制御工学の専門家が主にソフトウェア面から宇宙工学の最先端の研究にどのように関わっているのか説明されました。特にJAXAのプロジェクトとして進められている宇宙機フォーメンションフライトプロジェクトの意義と、その中で高度な制御アルゴリズムなどソフトウェア面での研究に対する需要が高まっていることが示されました。ここでも求められる技術水準の高度化と肥大化する予算の制約という側面が一つのポイントとして浮上していました。
 最後に、3人目の話題提供者であるCOデザインセンターの渡邉特任教授が日本における宇宙政策について発表されました。国家・政府が追及すべき目標・計画・成果である宇宙政策について、3つの問い(①なぜ宇宙探査をするの? ②日本は宇宙先進国であって欲しい? ③宇宙に人を送りたい?)を掲げた上で、日本における宇宙政策の歴史・予算・体制について解説されました。そして、現在の日本の宇宙探査における論点を上げられながら冒頭の3つの問いに答える形で、日本が「宇宙先進国」でありつつづける必要があるのかどうか、宇宙政策と国際的なパワーゲームの関係などマクロな視野からの課題にふれられ、民間企業の宇宙分野への参入の活発化や国民の声を政策にどのように反映させれば良いのかといった論点が示されました。

最先端の宇宙研究に私たちはいかに向き合うのか

 パネルディスカッションでは、3人の話題提供者から提示された宇宙に関する最先端の研究成果に共通する論点の一つでもあった、宇宙関連の研究予算に関する話題がまず議論されました。アメリカや中国のような超大国と比べるのか、日本の経済規模に占める割合から見るのか、停滞するGDP成長率に対して宇宙関連予算が拡大を続けてもいいのかなど、様々な視点があることが示された上で、宇宙研究にかかるスパンの長さや最先端の尖った研究の必要性などについて話題提供者の間で意見交換が行われました。その中で、宇宙研究の成果がどのようなもので、そのメリットが社会に対してどのようなインパクト(波及効果)があるのかもっとわかり易く伝えられる必要があるということが有されました。
 また、「宇宙先進国」という論点においては、他の国や研究者が達成できていない最先端の理論・技術を確立することが重要であるが、一方で予算面での限界がある中で分野の取捨選択が避けられず、いかに尖った分野の量・質を維持できるのか考えて行く必要があるだろうと議論がなされました。
 さらに、民間の宇宙進出が活発化する中で、どのような課題が今後考えられるのかという論点においては、各国における国内宇宙法の制定や国連などを通じた国際的な枠組みの現状と課題が説明され、その上で政府にしか出来ない役割について議論が交わされ、政府と民間がどのように協力・棲み分けを行っていくのかということ自体が一つの研究課題になりうるのではないかという論点も示されました。
 今回のテーマである宇宙は、研究者のみならず多くの人の知的好奇心を刺激する魅力的な対象であるとともに、最先端の宇宙に関する研究が多くの科学・技術に与える影響は非常に大きいものです。グループディスカッションでは最先端の科学と社会の関係性や、宇宙進出に伴う文化・習慣の変化という論点も上がっていました。国民の声を宇宙政策に反映させることの意味・意義が今後更に高まる事が予想される中で、SSIのような人文・社会科学を中心とする組織・研究者が貢献出来る部分もあるということがフォーラムを通じて改めて明らかになったような気がします。

(藤井翔太 大阪大学社会ソリューションイニシアティブ准教授)