研究者フォーラム

第3回SSI研究者フォーラム開催報告
「発展する情報技術のわくわくとモヤモヤを考える」

<日時>  2021年9月1日(水) 14:00〜17:30
<場所>  オンライン開催
<参加者> 45名
<プログラム>
・開会挨拶:堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授
・第1部:発展する情報技術のわくわくとモヤモヤを考える
  ●SSIインタビュープロジェクト概要説明・報告
   西村勇哉/SSI特任准教授
  ●4人の研究者の視点共有+Q&A
   話題提供1 山崎吾郎/COデザインセンター准教授
   話題提供2 野崎一徳/歯学部附属病院医療情報室室長・准教授
   話題提供3 小泉佑揮/情報科学研究科准教授
   話題提供4 片桐直人/高等司法研究科准教授
  ●4人の話題提供者・西村によるミニ・パネルディスカッション
 ・第2部:小グループに分かれての参加者同士の交流
 ・まとめと中締め
 ・引き続きフリーディスカッション
(司会・モデレーター:川人よし恵 社会ソリューションイニシアティブ企画調整室員/経営企画オフィス講師・西村勇哉)

情報技術をめぐる「わくわくとモヤモヤ」をテーマに開催

2021年9月1日(水)、第3回研究者フォーラムがオンラインで開催されました。大阪大学の教職員計45名が参加した本フォーラムは、4名の研究者による話題提供とミニ・パネルディスカッションの第1部および、小グループに分かれて交流する第2部の二部構成で行われました。

最初に堂目SSI長がSSI紹介を行い、理念や目的、取組みについて説明されました。第1部は、まずはSSIインタビュープロジェクトの概要について、SSIの西村勇哉特任准教授が説明した後、今回のフォーラムのテーマである「発展する情報技術のわくわくとモヤモヤを考える」の主題のもと、4名の先生方から話題提がありました。現代社会において急速に発展する情報技術の可能性と問題点・課題について、文化人類学、情報ネットワーク、先端歯科医療情報学、法学と幅広い分野の若手研究者が活発な議論を行う貴重な場となりました。

発展を続ける「技術」の利用と課題への向き合い方

話題提供ではまず、COデザインセンターの山崎准教授が、文化人類学における「技術」概念について説明しながら、これまで取り組んでこられた臓器移植や自動運転などの技術の進展に関する可能性と社会的・政策的課題についてお話くださいました。技術が急速に発展を遂げる現代社会において、「やってみないとわからない」と「後戻りできない」の間で、意図しない結果が生じた場合にも対応できるシステム・社会を作るためにも人間と社会の学問としての人類学が果たす役割の重要性についてご説明をいただきました。また、超域イノベーション博士課程プログラム やSSIの基幹プロジェクト(社会課題を解決するためのコミュニケーション能力の開発)において多くのPBLを実施してきた経験を背景に、協働のしくみ・場作り、成果を伝えることの重要性が伝わる内容だったと思います。

山崎准教授につづいて、歯学部附属病院医療情報室室長の野崎准教授が、大阪大学歯学部附属病院おけるスマートデンタルホスピタルに関する取組を紹介されました。主に最先端のAIの技術を利用した診療行為のデジタル化の成果や課題について紹介されるだけでなく、AI化に伴う診療という技法の教育や継承について言語学の知見も交えながら報告されました。AIという情報技術と言語学という人文系の学問の繋がりについて臨床の場における展開も含めて、非常に貴重なお話を伺えたと思います。

次の話題提供者である情報科学研究科の小泉准教授は、急速に進歩するネットワーク技術の裏側で発生する新たなプライバシーの課題について紹介されました。プライバシー保護技術の発展とプライバシー情報を明かす行為のイタチごっこが行われている現状について最新の技術の現状を交えてご説明され、急速に発展する情報ネットワーク・プライバシー保護技術の良い側面と悪い側面の境界線について触れられました。悪用される技術に対するモヤモヤについて、小泉先生は基本的には技術の課題は技術で解決されるべきであるとされつつも、技術の発展と教育・規制の関係性について今後どのような対応が必要となるのか、今回のフォーラムのような場で多くの分野の研究者と議論できることに期待しているとお話されました。

技術の発展に対応する社会システム・人間像の再考について

以上の最新の技術の発展に関する話題提供を受けて、最後の話題提供者である高等司法研究科の片桐准教授は、憲法学の観点から情報技術の発展する現代社会における憲法学の拡張について報告されました。片桐准教授は特に情報関連技術の急速な発展を受けて、サイバーとフィジカルの融合が進むことが予想される中で、近代社会がこれまで行ってきた人間による主体的制御に限界があることを自覚した上で、法律や公権力を上手に活用するためにはどのような国家や社会を設計しなおすのか、また個人をどのように定義しなければならないのかなどの論点を示されました。

4人の話題提供者とモデレーターであるSSIの西村特任准教授によるミニ・パネルディスカッションでは、発展を続ける最新の情報技術がもたらす可能性と課題、技術の制御のために必要な規制や教育、技術者・研究者として出来る事と社会との科学・技術コミュニケーションの間の橋渡し役の存在などについて盛んに議論が行われました。特に片桐准教授の話題提供を受けて、技術の発展による社会と個人のあり方の変容とそれへの対応について議論の軸が浮かび上がってきたことで、科学技術政策のあり方を超えて、未来社会における国家や憲法のあり方など非常にスケールの大きな視点も展開されたように思います。第二部の小グループに分かれた交流・ディスカッショにおいても、様々な分野におけるAIなどを中心とする情報技術の応用の可能性とそれに付随する課題について共有されるだけでなく、より根源的な問いとして、情報技術の発展した社会における共感出来る人間像や多種多様な解決を可能とする法や規範のあり方とは何かなど、幅広いテーマについて非常に熱心な議論が行われました。

今回は、現在進行形で我々の日常生活を大きく変えている最先端の情報技術のわくわくとモヤモヤをテーマとすることで、人社系・理工系・生命科学系の研究者が集い、最先端の研究・技術というミクロな話題から人間や社会のあり方というマクロな話題まで検討することが可能になり、研究者フォーラムが目指すダイナミックでスケールの大きな議論の場を一つ実現できたといえるのではないでしょうか。
(藤井翔太 大阪大学社会ソリューションイニシアティブ准教授)