車座の会

第3回SSI車座の会開催報告
2020年1月24日

第3回のSSI車座の会の概要

1月24日(金)、「第3回 車座の会」を大阪大学会館の豊中SSIラウンジにて開催しました。SSI長の堂目卓生教授や講演者の津田恵氏(大阪ガス株式会社)、下村委津子氏(NPO法人環境市民)を含め20名が集まりました。以下に、概要を報告します。

プログラム

第1部 15:00~18:00
・「社会におけるダイバーシティについて と Daigasグループの気候変動問題への取り組み」
津田恵 氏(大阪ガス株式会社 CSR・環境部長)
・「企業のエシカル通信簿の取組」
下村委津子 氏(NPO法人環境市民 副代表理事)
・「より良い仕事場をつくるために」対話
第2部 懇談の場 18:00~19:00

大阪ガスの津田恵氏からの「ダイバーシティ」についての話題提供

大阪ガス株式会社(大阪ガス)の津田恵氏のお話がありました。概要は以下の通りです。
津田氏からは、「社会におけるダイバーシティについて と Daigasグループの気候変動問題への取り組み」というライフとワークでそれぞれ取り組む2つのテーマでお話いただきました。津田氏のビジョンは「普通の女性もリーダーになれて、誰もが活き活きと生きられる社会をつくる」ことであり、日本において大きな課題となっているダイバーシティ、特に女性の活躍についてお話しいただきました。津田氏は、経営大学院で実施された「経験・能力における男女差」の調査から、職場において構造的に男女に経験差が生まれ、それが能力差に繋がる可能性があるという課題が共有され、その課題を解決するには人事制度や組織文化、個人の意識など複層的なアプローチが必要であることも解説されました。

津田氏のダイバーシティのお話のあとの対話では、「女性活躍の話をするときにも、男性が話すのか、女性が話すのかで異なる受け取り方になるのでは」という議論があり、そこでは男女どちらも立場がそれなりにあり、男女のそれぞれの立場からも話したり議論したりも大事だろうという話がありました。一方で、男女ではなくLGBTを考える時代になり、性差を越えた考えや行動も必要だろうという意見もありました。クォータ(割り当て)が必要かという問いに対しては、多数派の意見や慣習が優位になる傾向もあり、一定の数は必要ではないかという意見がありました。日本の大企業の状況はいまだ年功序列的で、変化を自然に任せると時間がかりすぎると考えると、クォータも必要かもしれないという議論がありました。

ジェンダーギャップに取り組みダイバーシティ&インクルージョンを進め多様な社会を作ることは、イノベーションを生むと共に障がい・国籍その他のダイバーシティなどを含むより多くの社会課題の解決にも繋がることであり、今後も取り組むべき重要な課題であると一同認識することができました。

大阪ガス津田恵氏からの「Daigasグループの気候変動問題への取り組み」についての話題提供

津田氏はまず、気候変動問題の世界的な状況について共有されました。2020年以降の気候変動に関するPDCAのルールを定めたパリ協定についてや、環境リスクが最大のリスクであることが今や世界的に共通の理解となっていること、そして、津田氏が出席された昨年のマドリードでのCOP25の報告や気づきについて共有されました。COP25では、温暖化についての科学的な議論が活発に行われ、グレタさんを始めとする「若者」と、サステナブルファイナンスなど「金融」を中心に、脱炭素の加速に関する議論が盛り上がっていたそうです。すぐに実現することは極めて困難で野心的なCO2ゼロを今宣言すべきなのか、実際に実現できるような改善・改革を地道に進めるべきなのかという観点では、前者が主流な状況ではあったようです。
Daigasグループの事業について、エネルギーを通じて社会の課題を解決するとして、低炭素な天然ガスを原料に、コージェネレーションや燃料電池など省エネルギー性の高い機器の普及を通じて社会全体のCO2削減に貢献している現状が紹介されました。パリ協定で日本は、2050年の80%の温暖化ガスの排出削減を目標としていますが、天然ガスは化石燃料の中では低炭素なエネルギーながら、脱炭素に向けては今後も技術革新が必要なこと、例としてCO2フリーの電気をつかって水素を作り、CO2と反応させてメタンを作り都市ガスインフラを活用しながら脱炭素を進めるための研究開発に国をあげて取り組まれていることが解説されました。

環境市民の下村氏からは、国際会議などでは「1.5度未満を目指す」ことがスタンダードになっていることや、それを達成するためには、目標からのバックキャスティングを行うしかないというコメントがありました。他の方からは、目標を掲げるか、できることから始めるかでは、やはり前者から始めないと、永遠に目標達成が実現しないのではないか、という意見がありました。また他の方は、事業部門は環境負荷があっても製品を作り続けてしまいがちななかで、トップが意思決定して根本的な解決策につながった事例を共有してくださいました。

環境市民の下村委津子氏の講演

続いて、環境市民の副代表理事の下村委津子氏が、「企業のエシカル通信簿の取組」と題してお話をなさいました。
まず、環境市民という名前には、環境問題に対して、社会的に自立した行動と責任を取り、率先して実践と提案を行う、「市民」が集う場でありたいという想いが込められているそうです。1992年に設立され「持続可能な社会・生活」がビジョンです。
ライフスタイル、経済・社会システムを変えていく必要があります。本当に変わらなければならないのは私たち一人一人。環境問題とはいうが、私たち人間が起こしている問題。そのなかでSDGsが世界の約束としてでてきました。SDGsの12番にもなっている持続可能な消費と生産(SCP)は、いままでやってきた環境市民の活動とも一致します。ここにはたくさんのステークホルダーが関係しています。いままでの環境市民の活動が活きる分野です。

エシカル消費の調査を、京都府の受託事業としておこないました。1000人の方へのアンケートをとった結果、CSR活動には6割、グリーン購入は6割、フェアトレード(FT)には6割近くの人たちが興味を持ち、中でもFTは女性のほうが若干関心が高いこともわかりました。では関心があるのに、なぜ、購入しないのかというと、身近なところに商品やサービスがなく、情報もないといった回答があったことから、ここをクリアしたいと考えました。現在の高校生や大学生さんたちも、消費の主体者としての感度がとても高いです。そこではエシカルであるという情報があれば、商品選択がかわると7割の方が言っています。情報がとても重要であるようです。
グリーンやエシカルな商品を求めることが大切で、売れる商品がかわり、さらに仕入れ先に求めるものがかわってきて仕入先の仕入れる商品もかわり、メーカーのものづくりもかわっていきます。善意と努力で商品を探すのではなく手に取りやすい環境にかわり、さらに消費者も購入するようになるとかんがえました。スウェーデンなどの北欧やスイスなどではスーパーに行くと、棚の真ん中にあるものや今日のお買い得商品がフェアトレード商品であったりは良くあります。

環境市民を含む39団体が参加する「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク」(SSRC)は、「企業のエシカル通信簿」という企業を応援するためのレーティング評価をしています。環境団体だけでなくて消費者団体、人権団体といったいろんな団体が入っています。それぞれに専門的な分野で活動している団体や研究者が入っています。一つの分野の団体だけではなく、異分野でコミュニケーションをもち、エンパワーメントにもなるので、社会への影響もよりあるのではないかと思っています。
エシカル通信簿は、企業の活動を評価するための7つの大項目があります。今、日本や国際環境から興味が高い分野をえらび、企業の取組みで求めたいことを調査しています。対象分野の売り上げ上位5社を選び調査対象としています。調査表は50ページあり、アンケートではなく、公開された情報に基づいて調査します。調査前に、今年度の調査対象となったことを企業に通知した上で、調査をしてその調査内容をお送りし、メールや電話でのやりとりを経て、最終結果を出します。
1年目は、国際社会との接点がある企業や一度何らかの失敗した会社は点数が高いことがわかりました。平和やアニマルウェルフェアは点数が低かった。アパレルは人権労働などチェックを厳しくされた業界で点数が高かったのです。ただ国際的な視線に晒されない国内型の企業の点数は低いという結果でした。2年目は化粧品と宅配業界を対象にしました。化粧品では動物実験の問題があり、それに対応している会社もありました。コンビニエンスストアでは、調達商品の人権への感度が高かったり、ある会社では平和の点が高かったところがありました。3年目に調査した家電メーカーは、海外との商取引があることから総じて点数が高くなりました。外食チェーンは、食べ物を扱っているので情報開示がされるべき業界であると思われるのに、情報公開があまりきちんとなされていませんでした。
対象となった会社には、発表会にお招きし、意見もお聞きしました。ここから自分たちがどうすればよいのか参考にしてほしいという趣旨もあります。調査した企業には嫌がられるか離れていかれるかと考えていましたが、CSRの担当者の方からは、「消費者がどのように考えているかがわかり、担当分野とコミュニケーションがとれて良かった」「環境だけでなく7分野なのでよかった」「次に何に取り組むべきかがあきらかになった」「詳しく調べてくれてうれしかった」などの意見もいただいています。また、「消費者・生活者が求めていることと自分たちの考えている方向性がずれていないことがわかったという意見のあとで、実際にそういった商品(エシカルや環境配慮型の)がでてきたりもしました。
この情報によって、三方良しを実現することに頑張っている企業を応援し、ボイコットではなくバイコット、買って応援する取組みになればよいと考えています。最近では、新聞や雑誌でも取り上げられるようになってきて、少しずつ社会での関心も高まってきたと感じています。

それから、品物を選ぶための「ぐりちょ」というサイトもつくっています。どんな商品があるかがわからないという課題があったので、分かるようにしました。双方向の仕組みで、投稿もできるようにしました。
身近なものを作っているところを選択しています。先進的な取組みをピックアップしています。消費者の選択の情報となること、就職するときの選択に役立ててもらうこと、投資の選択にも役立ててもらうことを目的ともしています。SDGsについても、ただのラベル貼りではなく、きちんとやっている企業であることを示してさしあげるものです。

(島田広之 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)

参加

参加企業・組織:13組織15名
株式会社アシックス、伊藤忠商事株式会社、江崎グリコ株式会社、大阪ガス株式会社、オムロン株式会社、NPO法人環境市民、京都信用金庫、グンゼ株式会社、コクヨ株式会社、サントリーホールディングス株式会社、大和ハウス工業株式会社、日本たばこ産業株式会社、楽天株式会社(五十音順)

運営主体(大阪大学):4名
堂目卓生(SSI長, 総長補佐、経済学研究科教授)、伊藤武志(SSI教授)、田和正裕(グローバルイニシアティブセンター特任教授)、井上大嗣(SSI特任研究員)ほか