サロン/シンポジウム

第15回SSIサロン開催報告
命を支える新たな「環境・エネルギー」の可能性

<日時>  2021年12月8日(水)17:00 – 19:30
<場所>  オンライン開催
<参加者> 37名
<プログラム>
・開会挨拶  堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授
・話題提供1 下田吉之 / 工学研究科教授
      「カーボンニュートラルにおける都市の役割」
・話題提供2 小河義美 / 株式会社ダイセル代表取締役社長
   「一次産業と二次産業の協創循環を通じた産業生態系の実現 ~バイオマスバリューチェーンの提唱~」
・話題提供3 森田敦郎/ 人間科学研究科教授、松山幸子 / 一般社団法人パースペクティブ共同代表
      「森とモノづくりを草の根でつなげる:循環経済のプロトタイプとインフラストラクチャーの探究」
・話題提供4 堅達京子 / NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
      「脱炭素革命への挑戦 2030 未来への分岐点」

命を支える新たな「環境・エネルギー」の可能性

これまでの日本における地球温暖化対策は、政府が目標値を設定し、産業界が技術開発によりそれを具現化するというモデルにより推進されてきました。しかし、2020年に政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を旧来のモデルにより達成することは困難であり、市民一人ひとりの生き方や生態系への接し方が重要になってきます。また、産業界においても市民との共創による「都市・地域のシステムのデザイン」に真の科学技術イノベーションが期待されています。このような視点に立って、今回のサロンでは、様々な立場から「環境・エネルギー」の課題に取り組まれている方々をお招きし、地球温暖化対策とその先にある社会と生態系の未来像について議論しました。話題提供者は、下田吉之教授(大阪大学 工学研究科)、小河義美氏(株式会社ダイセル 代表取締役社長)、森田敦郎教授(大阪大学 人間科学研究科)、堅達京子氏(NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー)の4名でした。

カーボンニュートラルにおける都市の役割

下田教授からは、カーボンニュートラルを目指す際の、まちの重要性とその役割について、ご紹介いただきました。
建物の寿命から考えると、2050年の都市の風景の半分以上は現在出来上がっており、今後、建てられる建物は、2050年にも現存します。そのため、カーボンニュートラルに向けた都市での取り組みは、非連続的なイノベーションではなく、できることを明日から始めるような連続的な取り組みが求められます。その際に重要になることは、要素を都市・コミュニティ全体に最適に組み合わせる技術と、脱炭素化だけでなく、SDGs全体に配慮し、景観など魅力あるまち・ライフスタイルを創造するデザイン力、であると言います。お話の中で紹介いただいた海外の事例では、太陽電池を上手く使ったオランダ・アメルスフォールトの街並みや、太陽光発電と電気自動車などを用いた、ゼロエネルギーコミュニティであるカリフォルニア大学デービス校での取り組みが紹介されました。

一次産業と二次産業の協創循環を通じた産業生態系の実現 ~バイオマスバリューチェーンの提唱~

小河氏からは、省エネ省資源に向けたダイセルのこれまでの取り組みと、カーボンニュートラルに向けた構想についてお話しいただきました。
ダイセルでは、ダイセル方式と呼ばれる、工場内の部署のあり方を見直し、サプライチェーン連携を行うという取り組みを行なっています。川上工程と川下工程を繋ぎ生産プロセスを見直し、ものづくりを連携して行うことによりに、各プロセスでの無駄が省かれ、省エネ省資源への貢献が期待できるものです。消費者にものが届くまでのサプライチェーンの中には、ダイセル以外の企業も含まれるため、今後、カーボンニュートラルの実現に向けては、企業の枠を超えた仮想企業体として、プロセスの見直しに取り組んでいく必要があると言えます。さらに、小河氏からは、今後は企業が連携した営利共創体と地方公共団体等が連携した非営利共創体の組み合わせで地方の再生やカーボンニュートラルの達成をしていきたいと述べられました。

森とモノづくりを草の根でつなげる:循環経済のプロトタイプとインフラストラクチャーの探究

森田教授からは、気候変動対策としての、社会や生活のあり方を変える取り組みとして、京都市京北で取り組まれている活動についてお話しいただきました。
従来の環境問題は、規制政策を市民に課すことにより達成されてきましたが、政策を実施する主体の多様化や、イノベーションによる達成といった規制以外の方法による達成など、現在では、環境問題に対して草の根の社会運動による解決に期待が高まっています。そんな中、注目されているのが、ファブ社会と呼ばれる製品でなくデータのみを移送し、地域で製品の製造を行う社会の実現であり、市民がものづくりを自分たちの手に取り戻す活動です。森田先生らは、京都の京北地域にて、工芸などのものづくりと植林等を通じた森林保全事業をプロトタイプとして行っています。森田先生は、小規模の活動をプロトタイプとして考えていくことは、人文社会科学にとっても重要な課題であると述べられていました。

脱炭素革命への挑戦 2030 未来への分岐点

堅達氏からは、2021年10月から11月に行われた、COP26を取材された際の報告を踏まえつつ、気候変動に対する世界の動きについてお話しいただきました。
今回のCOP26では、気温上昇幅1.5度が事実上の目標として示され、その実現が地球の防衛ラインとして踏み越えてはならない線とされています。しかし、各国の削減目標を踏まえ対策を行ったとしても、上昇幅は1.8度程度とされており、目標達成のためには石炭からのフェーズアウトが必要であると言えます。また、COP26では、MAPA(Most Affected People and Areas)に注目が集まっており、未来世代などの最も被害を受ける人たちへの対策にも関心が高まっています。会場内でも、リユースできる容器や、リサイクルしやすい素材やデザインがなされた容器が利用されるなど、サーキュラーエコノミーが当たり前に受け入れられていおり、環境問題への意識の高さが伺えたそうです。1.5度目標の達成には、アプリケーションを変えるだけのような小手先の対策ではなく、サーキュラーエコノミーをベースとしたOSそのものを変える必要があり、現在が目標達成のためのラストチャンスだと、述べられました。

ディスカッション

 後半のディスカッションでは、参加者の方々から、それぞれの活動について紹介していただくとともに、環境・エネルギー、そして命に関するさまざまなご意見をいただきました。
例えば、今後、環境問題に対してアクションをとる上で、政策としてのグランドデザインを共有することが重要になるのではないか、市民に知られていない課題をいかにして伝ていくのか、カーボンプライシングといった経済的な仕組みやマーケットの分野と結びつけていくことも必要ではないかといった課題が提示されました。さらに、人間が生態系の中でいかにして役割を果たすことができるのか、それを精神的な世界の中で考えることも重要であるといった意見交換も行われました。最後には、伝統工芸や過疎への対策なども含め、生活環境を総合的に豊にしていくことが、環境・エネルギーの本質的な解決につながっていくものであるという考え方を確認し合うことができました。

(島田広之 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)