サロン/シンポジウム

第14回SSIサロン開催報告
「国境」を超える命 多元的「共創」の可能性

<日時>  2021年6月24日(木)17:00 – 19:30
<場所>  オンライン開催
<参加者> 52名
<プログラム>
・開会挨拶  堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授
・話題提供1 木山啓子/特定非営利活動法人ジェン(JEN)理事・事務局長
      「緊急事態からの自立支援 レジリエンス」
・話題提供2 志摩憲寿/東洋大学国際学部准教授
   「アジア・アフリカ・ラテンアメリカの街と住まい 同時代的視点のまちづくりに寄せて」
・話題提供3 住村欣範/大阪大学 グローバルイニシアティブ機構准教授
      「遠い動物と近い動物 時空を超える人間と生物の関係」
・話題提供4 小沼大地/特定非営利活動法人クロスフィールズ代表理事
      「国境を超えた共感で社会課題を解決する」
・ディスカッション(モデレーター:木多道宏 SSI副長・工学研究科教授)

「国境」を超える命 多元的「共創」の可能性

 近代に構築された社会的・経済的・制度システムが疲労する中、それを脱却する新たな世界の構想と構築が必要となっています。特に、「国家」という枠組は、新型コロナウィルスが拡大する中でワクチンの競合と争奪を引き起こすなど、問題解決にとって足枷になっていることが露呈しています。一方で、現在同時多発的に進められている、多文化、多地域、多分野の人々による社会課題解決のための協働には、国家の枠に囚われない、新しい世界ネットワークの枠組みを見出す可能性が秘められています。今回のサロンでは、「国境」を超えた活動に取り組まれている方々をお招きし、社会課題解決の活動の先にある新たなコミュニケーション、技術、制度、価値、思想、そして社会像の可能性について議論しました。話題提供者は、木山啓子氏(特定非営利活動法人ジェン(JEN)理事・事務局長)、志摩憲寿准教授(東洋大学 国際学部)、住村欣範准教授(大阪大学 グローバルイニシアティブ機構)、小沼大地氏(特定非営利活動法人クロスフィールズ代表理事)の4名でした。

緊急事態からの自立支援 レジリエンス

 木山氏からは、緊急人道支援団体であるJENの概要とそこでの取り組みについてご紹介いただきました。
 JENは、緊急人道支援組織であり、これまで24の国と地域で活動されてきました。難民支援の現状は、慢性的な資源不足であり、資源不足による支援の長期化、個人の支援ニーズの多様化など様々な課題があります。また、活動の持続性のためには、被災された方のオーナーシップ(主体的な姿勢)も重要になります。そのため、被災された方の自立を支援することが重要です。JENでは、支援を受ける人の誇りと前に進む力の回復を目的として活動しており、緊急事態から自立を支え、全ての支援は自立のための手段であると考え、プロセスを大切に活動しています。小さな成功体験を積み重ねていくこと、そのためのチャレンジをちりばめること、また、社会全体の支援という視点からは、多様性を受け入れていくことを大切にしています。
 木山氏が現在取り組まれている他の活動として、様々なステークホルダーとともに、シナリオプランニングの手法を用いて、未来を考える場である「Polyphonic future」についてもご紹介いただきました。

アジア・アフリカ・ラテンアメリカの街と住まい 同時代的視点のまちづくりに寄せて

 志摩准教授には、スラムの居住環境改善の取り組みと方法に関して都市計画的視点から紹介いただきました。
 1950年代より現在に至るまで、スラムの居住環境改善のための様々なアプローチが考案され、取り組まれてきました。研究が蓄積されていく中で、1970年代には、「セルフヘルプ」を促すことが政府の役割として考えられるようになります。セルフヘルプのためには、居住権を安定させることが、住宅から追い出される不安を取り除き、住宅環境への投資意欲を刺激し、居住環境を改善するという考え方があります。 一方で、現在主流の方法である、テニュア・セキュア・アプローチでは、居住権を保障された住民が、自身の家の一部を転貸することで、地区全体の高密度化を促進するリスクが指摘されており、個人の権利の保障と、都市計画的な地区全体の環境改善との間における矛盾を指摘する考え方もあります。
 最後に、ジャカルタ、アクラ(ガーナ)、メデジン(コロンビア)と東京の街の写真を比較しつつ、社会経済的環境は異なっていても、物的環境として捉えれば、4つの地域には共通点が見られ、スラムの問題を途上国だけの話と考えるのではなく、密集市街地の問題として世界全体の話として考える同時代的視点が必要であることが指摘されました。

遠い動物と近い動物 時空を超える人間と生物の関係

 住村准教授からは、人間と動物の関係について、お話しいただきました。薬剤耐性菌や人獣共通感染症のプロジェクトを進める中で考えられた人と動物との関係について、いくつかの動物を例にお話ししていただきました。
 人間と動物との関係は、食べる/食べられるという昔から続く関係以外にも、かつては世界を捉えるための象徴として捉えられていました。近代では、市場経済における商品として、食肉が扱われるようになりました。また、微生物の媒介としての関係も重要であり、この4つの関係が組み合わさって、人間との関係が作られています。例えば、センザンコウは、1匹しか子供を産まないことから、非常に人間的な動物であると象徴的に捉えられることもありましたが、近年は、食用・伝統薬の原料として密輸される哺乳類の一種となっています。また、マンモスは、温暖化による永久凍土の融解により、地表部に現れ、不法採取が行われています。その際、ハンターを介して、低温で不活性であったウイルスやバクテリアが再活性化し、新たなパンデミックが起こるリスクもあります。
 今後、人間と動物の関係を考えていく上で、微生物を相互に媒介する関係であることや、動物を世界を理解するための象徴として、人間と同等の存在として扱っていた関係から、近代市場経済の中で商品として動物を扱う非対称な関係へと変化してきたこと、また、急速な気候変動などによる関係の変化についても見ていく必要があると述べられました。

国境を超えた共感で社会課題を解決する

 小沼氏からは、クロスフィールズでの活動についてご紹介いただきました。クロスフィールズでは、「働く人」と「社会課題の現場」をつなぐ活動を行っています。現在、社会課題の解決が企業のビジョンの一部として示されるなど、ビジネスと社会貢献活動は急速に接近しています。そして、社会貢献に本腰を入れて取り組む企業の経営者には、高い志と信念に基づいたぶれない軸(Purpose)と自社の利益を超えて社会課題解決に向き合う感性(Empathy)が求められます。
 クロスフィールズでは、これまで、国境を超える共感によって社会課題に挑むリーダーを育むことを目指し、新興国「留職」プログラムを行ってきました。そこでは、日本の若手リーダー層を海外に派遣し、現地の課題解決に取り組んでもらいます。それによって、現地の課題解決を進めると同時に、日本企業における人材の育成につなげます。
 また、コロナ禍での状況を踏まえ、人が移動できない中でいかに国境を超える共感を実現するかという課題に対して、VR技術/360度動画を用いて現場を疑似体験する「共感VR」についてもご紹介いただきました。実施にVRを体感することで、ミクロな視点で現地の雰囲気を感じることができ、社会課題の多面的な側面をありのままに感じる深い学びを実現します。
 今後も活動を通じて、共感の力で社会課題を自分事化する人を増やしていきたいという力強い言葉で締めくくられました。

ディスカッション

 後半のディスカッションでは、様々な参加者の方から、それぞれの活動について紹介していただくとともに、多岐に渡るご意見をいただきました。
 例えば、国際的な課題に関心が向かう一方で、身近にも共感を必要とする課題が存在しており、そういった課題にも関心を向ける取り組みが必要になるのではないか。また、大きな問題を扱う中で、人を人としてみる解像度を保つ事が課題解決には必要ではないか。VRでの学びを双方向の学びとして展開できるのではないかなどです。
 参加してくださった多くの方々から、久々に幅広い話題について自由に対話ができて楽しかったという感想をいただきました。参加者の皆様とのディスカッションの時間も含め、「国境を超える命」というテーマを多角的に捉えるための視座が得られたと思います。

(島田広之 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)