私が創業したサステナブル· ラボは、国内最大級の非財務(ESG / SDGs)データベースを構築しており、大手金融機関や上場企業等に対してESG / SDGs データそのものやESG / SDGs データの収集· 分析ツールを提供しています。こういった、いわゆるサステナビリティ情報の専門家として、「サステナビリティとはそもそも何か?」「いま、なぜサステナビリティ情報が必要なのか?」「なぜ、サステナビリティ情報の海をつくろうとしているのか?」という点について語りたいと思います。
- 私がサステナビリティの本質と 考えていること
横文字や専門用語が乱立していることもあり、サステナビリティ界隈は多くの方にとって今もって「とっつきづらい」とされる向きもあります。しかし、その本質は実にシンプルです。それは、何かを把握したり判断するときの「時間軸」と「考慮範囲」を広げるということに尽きると考えています。換言すると、「いまの自分が得をするか」だけでなく、「将来の私たちがハッピーになるか」を考えるということです。この場合の「私たち」が家族や友人だけを指すのか、それとも隣人等を含めた社会全般なのか、は「将来」の時間軸や、もちろん、あなた自身の立場や価値観によって異なるでしょう。
少し浮世離れしたことを言っているように思われる向きもあるかもしれませんが、このように「時間軸」や「考慮範囲」を広げることを、我々は自然体でやってきているはずです。たとえば家庭や子を持つ方は、「自分だけの利益」でなく「我が家の利益」や「子の将来の利益」を考えるようになるでしょう。また、古くは室町時代頃から「三方良し」の概念が知られる我が国においては、企業は「経営陣の利益」だけでなく「従業員(やその家族)や株主や取引先等の利益」「社会の利益」をも大切にするべきと考えてきた経営者が決して少なくありません。かつて経営の神様と称された松下幸之助氏の「社員は家族であり、会社は地域の拠り所である」といった趣旨の哲学や、渋沢栄一氏の「論語と算盤」はあまりにも有名です(これをもじった「ロマンとそろばん」という言葉が、私は大好きです)。
※(社)サステナビリティデータ標準化機構のキックオフMTG。関係省庁や銀行関係者とともに。2023年5月。
- 「強く優しい」企業が照らされる社会に
ここ数十年の間、いわゆる金融資本主義は、「少しでも多く稼ぐ」「少しでも早く稼ぐ」という短期的な「強さ」を追い求める企業や人々を量産してきました。強さが正義だったのです。その結果、人や社会や地球に押し付けられたしわ寄せが、次々と露わになってきました。たとえば企業活動による環境破壊や、ブラック企業の登場などが、それにあたります。
私は10年超に渡る社会起業家人生のなかで、社会を良くする事業に挑戦する起業家とたくさん出会ってきました。志を持ち社会インパクトを創出していきたいという彼ら彼女らの「優しさ」のようなものが、「強さ」の前に打ち砕かれるさまも何度も見てきました。「社会的意義はあるが、お金になりにくい」という理由で。いまでこそソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)、インパクトスタートアップ(社会に良いインパクトを創出することを目指すスタートアップ企業)などのコンセプトが知られるようになりましたが、当時は、「強くない」彼ら彼女ら(もちろん私も)は、圧倒的に日陰の存在でした。ゆえに資金や人が供給されず、孤軍奮闘を強いられがちだったのです。
そんな世の中を、私は変えたいと思いました。強くなければ生きていけないことを知りましたが、同時に、優しくなければ生きている意味がないという信念は揺るぎないものになりました。世の中を支配しているように見える、「強さが正義」という常識にドロップキックを食らわせると決意したのです。そして、「強く優しい」が照らされる社会のために、自分の人生を賭けてみようと思ったのです。
- 経済の血管である金融機関が キープレイヤー
強く優しい企業が広く照らされるための第一歩として、企業活動を支える存在としての金融機関が重要だと考えています。金融機関が、強い企業でなく「強く優しい」企業を支えていけば、「すべての経済活動をSX する」が大きく前進します。
そもそも、三方良しのコンセプトが古くから存在する日本には、「優しさ」の潜在能力を持つ企業がたくさん存在すると考えています。そんな潜在能力を照らしていくことで日本をサステナビリティ経営の先進国にできるはずです。そのためにはあらゆる企業のサステナビリティ情報の海が必要であり、非上場を含む企業のサステナビリティ情報の標準化がそのための重要な一手だと考えました。2023年8月には、このようなコンセプトに共感頂き、多くの金融機関に賛同頂く形で(社)サステナビリティデータ標準化機構を立ち上げ、代表理事に就任しました。2023年12月現在では既に約60行の銀行だけでなく、銀行協会や金融庁にも賛同・加盟頂くことができました。銀行が「強く優しい」企業を支えていく社会が、もう間もなく眼前に迫っています。
- 新しい時代に、社会に必要な企業を照らす ためにはサステナビリティ情報の海が必要
少し話は変わりますが、いま、先行き不透明な時代に突入していると言われます。また、技術のコモディティ化などにより競争環境は激化する一方です(iPhone とAndroid はもはや区別がほぼつかなくなりました。テスラの電気自動車もやがてそうなるでしょう。AI 等の社会実装により小資本でもあらゆるサービスへの参入が容易になったため、多くの業界では供給過剰になっていくでしょう)。このような時代において、選ばれ続け繁栄を維持するためには、単に便益のある商品やサービスを提供するだけでなく、多くの人や企業から「(将来の)社会に必要な企業だ」と共感を得て巻き込む力が必要であろうと思いますし、少なくとも私はそういった「優しい」人や企業を応援し続けたいと考えています。「強さ」だけを追い求め、人や社会や地球を顧みない人や企業が(ごく短期的には成功したとしても)長期的に繁栄するとは思えません。
「(将来の)社会に必要な企業」を照らし続けるため、我々は、ESG / SDGs データベース構築を通してサステナビリティ情報の海をつくることで、企業が社会や地球環境等にどのようなインパクトを与えているのか/与えようとしているのかを可視化しようとしています。その彼方には、「あらゆる経済活動が、論語と算盤の最適バランスで運営される」という北極星が輝いているはずです。
