大阪大学CO デザインセンターの大谷です。今回は私の専門研究である「サル」を対象とした生態学研究と、そこから発展した都市環境での野生動物保全についてお伝えしたいと思います。
- サルの生態と社会を知る
サルの生態研究は野生動物の研究の中でもいくつかの特殊性があります。例えばサルほど多様な行動レパートリーを持ち、社会構造が複雑な動物はそれほど多くありません。何年もサルを観察していても新しい行動に出会うことがたびたびあり、これはサル研究の大きな醍醐味だと私は考えています。もうひとつの大きな特殊性は「追いかけて観察できること」です。鳥やキツネを森の中で長時間追うことはほとんど不可能に近いですが、ニホンザルなど何種かの霊長類は移動速度が比較的遅く、また鳴き声を発しながら群れで生活していることから、人間が後ろをついて回って直接観察することが可能です。そのため、サルの研究では詳細な観察記録を取ることが基本となってきました。もちろん最新の研究ではDNA解析や非破壊検査法、GPS 発信器など様々な技術が利用されていますが、やはり多くの研究者はサルの顔を一頭ずつ覚え(個体識別)、秒単位で記録をとっています。ではそのような細かい記録(何時何分何秒から何時何分何秒までに、この種類の果実をいくつ食べた、というような)を取って一体何が分かるのでしょうか。
私の研究テーマのひとつに、「オスザルの社会性」があります。この研究では屋久島に生息するヤクシマザル(ニホンザルの亜種)のオスを対象に、直接追跡・観察を実施しました。まず準備として群れの中のサルの顔を全て覚え、個体間交渉(誰が誰に攻撃したか、他のサルに対してどのような行動を取るのか)から、順位関係を明らかにしていきました。その後、日がな一日オスザルのお尻を追っかけ、どのサルと一緒にいるのか、どんな行動を取っているのかを記録し続けました。すると、以下の様なことが分かってきました。
◉群れの中で順位の低いオスがたびたび群れから離れ、単独で移動していること
◉単独で移動している最中は採食(ものを食べる)行動に費やす時間が多くなること
◉単独のときには採食速度(1分間にいくつ果実を食べるか)が非常に遅くなること
◉このような単独行動が低順位のオスに多いこと
これらの記録を統合すると、低順位のオスは群れの中では十分な食事ができず、そのため一時的に群れを離れて一人でゆっくり食事をしている、という姿が浮かび上がってきます。メスは低順位でもこのようなことが起こらないため、オスと
メスでは群れ=社会への帰属の仕方が異なっていることが推察されます。このように、細かな行動を記録し統合していくことで彼らの複雑な社会の有り様が徐々に見えてくるのです。

- 都市環境に生きる野生動物
先に紹介したような野生動物の細かな情報は、身近な動物を護ることにも繋がります。日々の生活の中で見過ごされがちなのが、都市環境に適応して生きる多様な哺乳類の存在です。私たちが歩いた道を、ほんの少し後に野生の哺乳類が通り過ぎているかもしれません。大阪大学が位置する吹田市や豊中市のような都市部でも、キツネやタヌキ、アナグマ、テンといった動物たちを見ることが出来ます。大学キャンパスや大きめの公園など、ある程度の緑地が存在する場所ではこれらの野生動物が比較的安定して生息しています。
しかしながら、都市環境は常に変化しており、開発によって既存の緑地が失われることも頻繁にあります。それらは例えば高齢者施設や集合住宅、鉄道路線など、私たちの生活に必要なインフラを構築する過程でもあるため、開発を完全に止めることは難しく、またそれが望ましいわけでもありません。一方で、野生動物が生息地を追われ、身近に見られる動物がどんどん減少していくことも我々にとって望ましいことではないでしょう。人間の営為と野生動物の共存のためには、落とし所を見つける不断の努力が必要になります。例えば開発に際して一部の緑地を残す、既存の樹木を植栽する、緑地間の接続性を保つなど、開発を大きく阻害しない形で野生動物に配慮することが十分に可能なケースも存在します。
こういった配慮を提言し実現させるためには、どういった地理的条件ならば都市環境でも野生動物が生きていけるのか、その特徴を理解する必要があります。このような背景で、私はSSI プロジェクト「大学と地域の共創による生物多様性保全」の活動の一環として、大阪府環境農林水産総合研究所生物多様性センター、大阪自然環境保全協会等とも協力し、大阪府下の野生動物についての調査を進めています。都市環境での野生動物保全は我々が直面する重要な課題であり、「いのち」を大切にする都市開発に向けた一歩だと考えています。
