マンスリー・トピックス

災害時における宗教の関わりを考える

SSI基幹プロジェクト「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」代表/人間科学研究科教授
稲場圭信

2018年8月

直近半年間に4月9日の島根県西部地震、6月18日の大阪北部地震、7月初旬の西日本豪雨、9月4日の台風21号、9月6日の北海道胆振東部地震など災害が頻発しています。そのような中、災害時における宗教は、今後、重要なトピックになると考えています。

災害時における宗教

「災害時における宗教の関わりを考える」というタイトルに、災害と宗教に関係があるの? 災害時に布教するの? 自然災害は神の裁きと言いたいの? などの様々な反応があるかと思います。ここでは、災害時の宗教施設利用をご紹介したいと思います。

東日本大震災では、100程の宗教施設が緊急避難所となり、地域資源としての宗教施設の重要性が明らかになりました(『災害支援ハンドブック:宗教者の実践とその協働』春秋社、『震災復興と宗教』明石書店を参照)。一方で、宗教間の協力、宗教施設と自治体、ボランティア組織との連携という点では課題を残しています。そこで、私は研究仲間と上記の課題に取り組んできました。
全国の自治体と宗教施設の災害時協力や災害協定の書面調査、社会福祉協議会や自主防災組織などの地域連携についての聞き取り調査の実施により、具体的にどのような災害時協力・災害協定が可能か、現状と課題を抽出しました。開発を進めた防災アプリ「災救マップ」を使い、被災地での実地調査や、「防災まち歩き」も行っています。

公民館や小学校が避難所として整備される以前は、台風など有事の際、「神社、お寺に逃げる」といったことが近隣住民や地域の中では当たり前でしたが、制度化される中でそのような事実が忘れ去られてきました。今、災害が頻発し、防災計画が見直される中にあって、災害時の避難場所として宗教施設のもつ機能に関心が寄せられています(東京都と東京都宗教連盟の防災対策連絡会があります。私は顧問として出席しています)。

災救マップを使った防災訓練
ITを用いた災害支援

2018年6月18日、大阪北部地震は最大震度6弱を観測しました。私は自宅の二階で突き上げるような強い揺れを感じました。直後に停電、一階にいた妻と登校直前だった長女、そして、近隣の高齢者の安否確認を行いました。電話は使えませんでしたが、SNSで心配してくださる方々がいました。

その後、社会福祉協議会の災害ボランティアセンターの動きにも関わりました。土嚢袋が不足しており、近隣でも調達困難な状況をSNSで発信すると、すぐに熊本地震の被災地のお坊さんたちから3件、3千枚を超える土嚢袋の提供がありました。スマホ・アプリ「災救マップ」には、キリスト教会でシャワー設備の提供という投稿もありました。SNS、ITが支え合いの一助となりました。

北海道胆振東部地震ではブラックアウトが発生しました。今、停電時の電力供給と通信環境の確保の重要性に関心が寄せられています。大阪大学人間科学研究科と企業等連携組織による「ITを用いた防災・見守り・観光に関する仕組みづくりの共同研究(研究代表者:稲場圭信)」では、実験設備「独立電源通信網みまもりロボくんⅢ実験機」3台を吹田キャンパスに設置しています。その後、SSI基幹プロジェクト「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」として、共同研究・実験を進めています。

自治会組織、学校、寺社といった従来の地縁のネットワークを再評価し、理工・人文社会系の技術と知の融合によるソーシャル・イノベーションによって、組織、人、知の壁を越えた多様性・流動性を前提とする新たなコミュニティを構築し、安全・安心社会の実現に貢献することを目指しています。

みまもりロボくん実験機披露式