学生のつどい

第6回SSI学生のつどい開催報告
「阪大SDGs学のススメ。」オンラインランチタイム交流会③

<日時>  2021年5月27日(木)12:10〜13:20
<場所>  オンライン開催
<参加者> 34名
<プログラム>
・堂目卓生SSI長による「阪大SDGs学」への思い
・八木絵香COデザインセンター教授による話題提供
 「『科学技術への市民参加』について考えてみよう」
・会議システムZOOMのブレイクアウトセッションに分かれ、参加者で交流を行った後、全体でどのような意見や感想が出たかを共有しました。

2021年度はじめての学生のつどい

5月27日(木)、今年度初めての「阪大SDGs学のススメ。」が開催されました。学部・研究科も多様な学部生・院生25名の参加がありました。話題提供者は、COデザインセンターの八木絵香教授で、堂目卓生SSI長など関係者も集まり、総勢34名で交流を行いました。

堂目卓生SSI長による「阪大SDGs学」への思い

まず堂目SSI長から、コロナ禍で大変な学業生活を送っているかもしれない学生に向けて、共感のメッセージが送られました。そして、新型コロナウィルスがわたしたちに教えてくれているのは、誰もが弱者や助けを必要とする人になりうるということだと話をされました。コロナ新時代において目指すべき社会のあり方については、助けを必要とする人を中心に置き、助ける人と助けられる人が変わりながらも互いに助け合うような社会であると述べられました。「阪大SDGs学」をめざす学生のつどいの場も、「誰一人取り残さない」社会のあり方を構想していく場にしていってほしいと、学生にエールが送られました。

話題提供者のお話

八木絵香COデザインセンター教授から、「『科学技術への市民参加』について考えてみよう」と題して、話題提供いただきました。八木教授は、リスクなど、専門的な知識を必要とする科学をめぐる社会問題について市民参加で考える研究や実践をされています。これは「問題を乗り越えるための科学技術コミュニケーション」と呼ばれています。こうした必要性はこの50年ほど、原子力発電の事故などをきっかけに高まってきました。専門家が専門的知識をもって安全についての数値を出しても、それを許容するかどうかは専門家だけで決めることはできず、またリスクに対する予算や対応については、科学以外の範疇となってきます。
市民参加にもさまざまな形がありますが、八木教授が注目し、取り組んでいるのが、「ミニ・パブリックス」というもので、社会の縮図をつくり、そこに集まった人たちで、たとえば、気候変動問題、脱炭素化社会に向けての政策について、基本情報をもとにグループで話し合い、必要とあれば専門家の意見を聞いて意見表明や投票行動をするというものです。無作為抽出によって、居住地や年齢、職業でバランスよく振り分けられた市民で集まって議論をするので、「くじ引き民主主義」とも呼ばれているそうです。
もちろん、こうしたやり方にも課題があるといいます。そこで八木教授からは、学生のつどいの参加者に「特に、高度に専門化された知識を必要とする社会課題について、『市民』が議論をし、その結果を政策につなげることをどう考えますか」という問いが投げられ、参加者同士の対話へと引き継がれていきました。

参加者交流・ディスカッション

3つのブレイクアウトセッションに分かれて、八木教授から投げかけられた問いをめぐって対話を行いました。その後、全体で共有しました。参加者のみなさんの多くが「ミニ・パブリックス」や「くじ引き民主主義」に関心を持ったようで、さまざまな観点から感想や質問が出ました。以下、参加者から出た質問をいくつか選び、それに対する八木教授からの返答も合わせて、簡単に報告します。

・そもそも関心のない人は参加しないのではないでしょうか。関心のない人にどうアプローチしていくべきでしょうか。
 → →関心のない人にどうアプローチするかという課題はその通りです。しかし、実際にやってみると多様な人が多様な動機や関心で参加していることがわかります。関心のない人は参加しなくてもいいというのも一つですが、そういう人こそ自分が当事者になったときには文句を言ったり戸惑ったりするものです。なので、関心のない人が情報を得て議論をすることは、実はとても大事なことです。重要な政策は後戻りできないだけに、多様な意見を取り入れていくべきという考え方が重要だと思っています。

・市民参加について、専門家側のメリットはどこにあるのでしょうか。
 → →市民が知識を得るだけでなく、専門家側も得るものがあります。前提として、市民と専門家の差は、科学的な知識の差でもありますが、それよりはフレーミングの差だと言われています。ワクチン接種にしても、専門家は副反応の確率を提示しますが、市民の関心はその確率が自分や家族に起きるかどうかということになります。実はその両方を掛け合わせていくことが大事で、専門家は技術がどのように市民に受け止められているかを知る機会がそう多くありません。そういう意味で市民の視点から気づきを得られるというメリットがあります。

・意思決定のスピードが求められている課題には対応できないのではないでしょうか。今ならコロナ対策などですが、喫緊の課題に対して熟議が成熟されていない段階で、市民の意見を取り入れるのはどこまで有効なのでしょうか。
 → →市民参加だと意思決定が遅くなるのは確かです。しかし、喫緊の課題といっても、たとえば、ウィルス対策についてはずっと以前からその必要が言われていたのにもかかわらず、熟議されずにきました。目の前にやってきたときに、その緊急性と必要性が声高に言われるのです。いざというときにやっても間に合わなくて、日ごろからやっておかないといけないことです。

・理性的な人もいればそうでない人もいるのではないでしょうか。多様な市民による議論の質をどう担保できるのでしょうか。
 → →これに関する議論はこれまで長らくされてきました。他方で長年実践をしてきて思うのは、無作為抽出で選ばれた市民が、自ら時間を割いて参加するということ自体が尊いことだということです。数日間、いろんな立場の人が議論し、お互いに背景が見える中で、関係性をつくっていきます。必ずしも理性的な議論ばかりではないですが、感情も含めて尊重し合っていることは大きいです。これが成り立つほどに市民参加のノウハウが蓄積されてきたともいえます。

 八木教授のお話は、「ミニ・ポリティクス」「くじ引き民主主義」という話を経由して、科学者、市民、どのような立場の人であれ、一人ひとりの声が社会に反映されることの重要さとそのプロセスにおける尊さが伝わってくるものでした。

参加者の感想

今回は、理工系の学生が、科学技術と社会とのつながり、自然科学と人文・社会科学との連携について考えたいという思いから、STIP(公共圏における科学技術・教育研究拠点)関連のテーマを設定し、企画されたものです。また、これまでの学生のつどいの参加者の方に、グループワークでファシリテーションもしていただきました。企画や運営のご協力、ありがとうございました。
 以下、アンケートに記入くださった参加者の感想をいくつか抜粋します。たくさんのコメントありがとうございます。みなさん、おつかれさまでした!

・「自分より年上の方とディスカッションするのがほぼ初めてで緊張しましたが、どうにか自分の意見を言えたのは良かったし、自分よりも様々な視点から問題を捉えた感想を多く聞けたので、とても有意義な時間でした。」

・「普段、患者参画を主眼とした研究プロジェクトに従事している立場として、科学技術への市民参画との共通点や相違点を考えながら参加でき、貴重な勉強の機会となりました。」

・「先生の講義も興味深かったですが、他の先生や学生の意見もとても参考になるものや視野が広がるものばかりだったので、人の意見を聞く時間がもう少し欲しかったかな、とも思います。」

・「学部生と大学院生の学年の垣根を越えて、また様々な所属の学生で語り合えるというのは非常に良かったです。テーマも興味深かったです。これを今後どのように活かしていくのかがポイントだと思います。」

(今井貴代子 社会ソリューションイニシアティブ特任助教)