サロン/シンポジウム

第13回SSIサロン開催報告
「時間とは何か 過去と未来の創造」

<日時>  2020年12月22日(木)17:00 – 19:30
<場所>  オンライン開催
<参加者> 36名
<プログラム>
・開会挨拶  堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授

・話題提供1 原圭史郎/工学研究科附属フューチャーイノベーションセンター 副センター長・教授

      「フューチャー・デザイン: 持続可能な未来に向けて」

・話題提供2 渥美公秀/人間科学研究科附属未来共創センター副センター長・教授
      「被災体験を未来につなぐ:被災地のリレー、〈すごす〉時間、〈かなしみ〉」
・話題提供3 高橋美和子/特定非営利活動法人関西NGO協議会
      「市民社会スペースを育み未来へつなぐチカラ COVID-19を起点とした国際協力NGOの動向から」

・話題提供4 窪田亜矢/東京大学大学院工学系研究科 地域デザイン研究室 特任教授
      「原発被災地域の構想と実践にみる未来」

・ディスカッション(モデレーター:木多道宏 SSI副長・工学研究科教授)

時間とは何か 過去と未来の創造

物理学者のカルロ・ロヴェッリは、「時間」は存在せず、全ての事象は熱力学的に発散する方向に向かうのみであると言います。しかし、私たちは明らかに「時間」を感じ、そして「過去」と「未来」に価値を与え、創造することが可能です。今回は、様々な分野で未来を構想されている研究者や実践者をお招きし、未来構想の方法論を語り合いながら、未来社会のあり方を議論しました。話題提供者は、工学研究科附属フューチャーイノベーションセンター 原圭史郎副センター長・教授、人間科学研究科附属未来共創センター 渥美公秀副センター長・教授、特定非営利活動法人関西NGO協議会 高橋美和子氏、東京大学大学院工学系研究科 地域デザイン研究室 窪田亜矢特任教授の4名でした。

フューチャー・デザイン ー持続可能な未来に向けてー

原圭史郎教授からは、将来世代の視点を現代に取り込み、持続可能な意思決定を導くための社会の仕組みをデザインする「フューチャー・デザイン」のお話がありました。気候変動問題など長期的な諸課題に直面しているにも関わらず、「市場」「民主制」といった社会システムの下では将来世代を考慮した持続可能な意思決定や行動が困難であることから、これら長期的課題に我々は適切に処理できていないという問題提起がありました。これを解決するため、持続可能な自然や社会を将来世代に引き継ぐための社会の仕組みをデザインし実践する試みが「フューチャー・デザイン」となります。「仮想将来世代」の視点から考えるグループと現代世代のグループの間で合意形成しながらまちづくりを考えた岩手県矢巾町の事例をはじめ、将来に視点を取得した上でアイデアを提示する手法など、様々な仕組みや方法論とその効果について、事例を通しての紹介がありました。

被災地体験を未来につなぐ 被災地のリレー、<すごす>時間、かなしみ

渥美公秀教授からは、「被災地リレー」のお話がありました。NPOを立ち上げ長年様々な被災地に携わる中で、被災時にボランティアの方々から支援を受けた人たちが、他の被災地へ支援のお返しをすることで、リレーのようにボランティア活動が続くことを話されました。その心理的要因として、共感不可能性への共感や、「返さなくてもいい借り」の存在を挙げられました。シミュレーション研究の結果からも、周囲のボランティア総数が被災地リレーの強度に影響を与えることが検証されています。そこでは、まず何かを「めざす」のではなく、相手の存在のかけがえのなさを承認する「すごす」かかわりが重要であるとのことです。そして最後に、被災から時間が経つうちに、当事者すらも、そのかなしみを忘れしまうことの<かなしみ>を、場に共有してくださいました。

市民社会スペースを育み未来へつなぐチカラ COVID-19を起点とした国際協力NGOの動向から

高橋美和子氏からは、COVID-19がNGOに与えた影響と今後の趨勢についてお話がありました。以前から議論されてきた「格差の拡大」や「シビックスペースの縮小」が、コロナ禍を通してより拡大しているとの報告がありました。これは貧困状況の方がより厳しい状況に追い込まれるということを意味しており、世界的危機のたびに広がる格差への危機感があるとのことです。COVID-19の影響を受けてNGO活動は萎縮しており、全国NGO調査の結果では半数以上のNGOが対外事業を停止しており、また資金確保も難しくなっているとの調査結果が出ました。2017年頃から、各国での活動時にNGO登録制ができたり、一定程度の資金提供が活動許可の条件になったりと、市民社会スペースの縮小傾向がありましたが、更に拍車が掛かる恐れがあります。ロックダウンと市民活動の関係性を再構築し、資金の流れのダイナミクスを変えて、意味のない制約がかからない状況をつくりたいとのことでした。

原発被災地域の構想と実践にみる未来

窪田亜矢特任教授は、東日本大震災後の地域復興の話をされました。ゾーニングによる対応は放射性物質、避難、帰還に対応できておらず、「町おこし」はおろか「町残し」すらも実現していない面があるとのことでした。そのため、関係性に基づく空間構想の実践が必要になります。例えばある行政区では、そこがどんな集落か、課題は何か、これからどうしたいかを住民が話し合います。行政区全員で問題意識を共有することで、自分たちでやれることはやるといった責任感が生まれてきます。そうして、非帰還住民の土地を把握して草刈りをしたり、空き地を菜園として使ったり、あるいは珈琲店が交流の場になったりと、「まちなか」でまちづくりが行われていきます。現場では、過去の記憶や経験知から生まれる自然(じねん)的行為があり、受動的でも能動的でもない中動態での実践が行われています。このような時間概念を内包した個人が、ほかの個人や動物、草など様々なモノと関係性という線で結び合っている。あらゆるモノの関係を調整する必要があり、それが空間計画の役割であるとの話がありました。

ディスカッション

ディスカッションの内容は、実に多岐に渡りました。例えば、未来を創造するために今を生きる個人を大切するといった視点が議論されました。日本でうまくいかない少子化対策も、何かをめざす政策ではなく、徹底的に個人を大切にすることが重要ではないか、との議論がありました。その際、個人が身勝手に生きることもあり得ますが、関係性の存在に着目したとき、そこに当事者性への理解がキーワードとして浮かび上がり、ボランティアの関係性から学ぶものがあるとの話になりました。東日本大震災が発生した年、日本は174カ国・地域から1640億円の支援を受けており、そこには連帯があったとの発言がありました。自分たちが厳しい環境にいるからこそ感じることができるものがあり、恩返しとはまた別の感情に突き動かされた状況があったとも言えそうです。「被災地リレー」の観点から見ると、バトンを渡すというよりは「にじむ」ような感覚があり、個人が固まったり溶けだしたりするごちゃごちゃ感のある空間をどう捉えるのか、が過去や未来を捉える上で重要なのかもしれません。

COVID-19を今として捉えることも重要ですが、それ以前から社会に蓄積していた疲労が顕在化されている部分も見過ごせません。近代化の過程で大切なものを忘れ去っていないかを振り返り、ヒトやそれ以外との関係性の観点から見直すべき部分、逆に未来の立場から俯瞰的に今を捉えることで見つかる発見について、様々な議論が行われました。話題提供者4名の共通点として、「声なき声」に耳を傾けるということが挙げられました。そして将来世代、被災地、貧困状況に置かれた人もそうですが、最終的には自分の中にも声なき声があるかもしれず、それに耳を傾けることも大切ではないか、という締め括りで、サロンは幕を閉じました。

(田中翔 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)