車座の会

第5回SSI車座の会開催報告
2020年12月17日

第5回SSI車座の会報告

12月17日(木)、第5回車座の会を大阪大学会館とオンラインのハイブリッドで開催しました。SSI長の堂目卓生教授や話題提供者の西原文乃氏(立教大学経営学部准教授)、小倉誠氏(グンゼ株式会社)を含め20名が集まりました。以下に、概要を報告します。

プログラム

第1部 14:00~17:00
・「グンゼCSV経営の取り組みについて」
小倉誠氏(グンゼ株式会社)
・「ソーシャルイノベーション知識創造理論の社会的展開」
西原文乃氏(立教大学経営学部准教授)
・「より良い仕事場をつくるために」対話
第2部 懇談の場 17:00~18:00

小倉誠氏(グンゼ株式会社)「グンゼCSV経営の取り組みについて」について

まず、グンゼと言えば、インナーウェアをはじめとするアパレル産業のイメージがあるかと思いますが、現在は売上高の40%、営業利益の61%を機能ソリューション事業が占めており、ペットボトルのシュリンクフィルムなどでトップシェアを占める企業です。
グンゼの創業は100年以上前にさかのぼり、丹後ちりめん、西陣織物で有名な地域に囲まれた、京都府何鹿郡(現:綾部市)から始まりました。創業者の波多野鶴吉は当時、小学校の先生をしていましたが、夜中も音が鳴り続けて眠れない蚕を飼うことの大変さや、地域の貧困を目の当たりにし、この状況をどうにかしたいと、1886年から京都府何鹿郡の蚕糸業組合組長となりました。ある日、当時の前田正名(元農商務省次官)の遊説で、「今日の急務は国是、県是、郡是、村是を定むるに在り」との話を聞き、この地域に貢献したいと考えた波多野鶴吉は、郡是製絲株式会社を設立しました。是とは「正しい方針」という意味で、当時は郡是、村是、県是との名前を冠した会社がいくつもあったが、125年の月日を経て今もその名を冠し続けることができた理由は、「人間尊重と優良品の生産を基礎として、会社をめぐるすべての関係者との共存共栄をはかる」という創業精神であるとのお話がありました。
このような創業の精神に立ち返り、グンゼは2017年から、守りのCSRから攻めのCSV経営に大きく転換しました。CSV経営推進のため、大阪府、京都府、大阪市などの地域との連携協定を締結したり、国連グローバルコンパクトに参画したり、SSIのような大学、企業と連携する中で、社会課題からビジネスチャンスを生み出す取組みをしています。
従来からの取組には例えば以下のようものがあります。非塩ビでのシュリンクラベルやナイロンフィルムの商品化から、廃棄プラスチックの回収・再利用、CO2削減の取組み、2018年の台風21号の被害に対する「御堂筋のイチョウ並木」復旧、避難所への肌着などの提供、乳がん患者への検診促進イベント実施、インプラント人工乳房の輸入販売、肌ストレスのない術後インナー開発などを行っています。

西原文乃氏(立教大学経営学部准教授)「ソーシャルイノベーション知識創造理論の社会的展開」について

西原文乃准教授は、知識創造理論のキーコンセプトのうち「SECIモデル」「場(Ba)」「ワイズ・リーダーシップ」「ソーシャル・イノベーション」について話されました。
まず、前提となる「知識」についてのお話がありました。知識創造理論では「知識」を「個人の全人的(パーソナル)な信念/思いを「真・善・美」に向かって社会的に正当化するダイナミックなプロセス」と定義しています。知識には(1)個人の信念から始まる、(2)「真・善・美」に基づく理想に向かっている、(3)一人よがりにならないために社会的に正当化されていく、という特徴がありますが、最大の特長は、人が関係性の中で主体的に創る資源であるということで、この視点に立つと、AIによって作られた「一見知識に見える知識」は、ヒトがそれを認識することではじめて「知識」になることになります。

「知識」には二つのタイプがあります。客観的で理性的な言語知である「形式知」、主観的で身体的な経験知である「暗黙知」です。ヒトの意識の階層は、顕在意識、潜在意識、無意識の順番に深くなっていきますが、潜在意識や無意識にある「暗黙知」と顕在化された「形式知」を相互変換するプロセスをモデル化したものが「SECIモデル」です。
「SECIモデル」には4つのフェーズがあります。(1)暗黙知を互いに生成し合う「共同化」、(2)これらをチームにおいて言語化したり概念化したりする「表出化」、(3)表出化された知識を組み合わせて新たなプロトタイプや物語りを創り出す「連結化」、(4)そして、これらを実践して個人の中に新たな暗黙知を生成する「内面化」です。この4フェーズを、サイクルではなくスパイラルアップ、つまりどんどん上にあげていくイメージで回していきます。

「ソーシャル・イノベーション」は、「社会のさまざまな問題や課題に対して、より善い社会の実現を目指し、人々が知識や知恵を出し合って、新たな方法で社会の仕組みを都度の文脈に合わせて刷新していくこと」と定義されますが、この実践にはSECIモデルやワイズ・リーダーシップといったものが有効であると考えています。特に地域に変革を起こすには、よそもの、わかもの、ばかもの(くせもの)、つまりは新しい視点、新しい発想、常識に外れた発想が必要になる、とのことです。その具体的事例として、『実践ソーシャルイノベーション』から(1)徳島県上勝町の葉っぱビジネス、(2)徳島県神山町のアーティスト&ワーク・イン・レジデンス、また、(3)ベネッセのArt Setouchiと、CSVで有名なKIRINの事例を紹介されました。

(田中翔 社会ソリューションイニシアティブ特任研究員)

参加

参加企業・組織:18組織22名
株式会社アシックス、エーザイ株式会社、大阪ガス株式会社、株式会社カルティベイト、NPO法人環境市民、京都信用金庫(2名)、グンゼ株式会社、コクヨ株式会社、株式会社島津製作所、住友生命保険相互会社、大和ハウス工業株式会社、株式会社電通(2人)、日本たばこ産業株式会社(2人)、日本電気株式会社、阪神阪急ホールディングス株式会社、株式会社宮田運輸、楽天株式会社(2人)、立教大学(五十音順)

運営主体(大阪大学):4名
堂目卓生(SSI長、経済学研究科教授)、伊藤武志(SSI教授)、井上大嗣(SSI特任研究員)、田中翔(SSI特任研究員)