<日時> 2026年10月1日(木)19:00 ~ 20:30
<場所> 大阪大学中之島センター5階 いのち共感ひろば
<参加者> 大村佳史氏(JICAミャンマー事務所長)、堂目卓生(大阪大学特任教授/一般社団法人いのち会議 代表理事)
<プログラム>
19:00 開会・趣旨説明
19:05 大村佳史氏 講演
19:45 大村佳史氏×堂目卓生 対談
20:15 参加者との質疑・対話
20:30 終了
- 開催概要
2026年10月1日(木)、大阪大学中之島センター5階「いのち共感ひろば」において、一般社団法人いのち会議との共催で、SSI車座の会「人は、なぜ人を助けるのか ― ミャンマー大地震、国際協力、そして『いのち』を考える ―」を開催しました。
ゲストには、国際協力機構(JICA)ミャンマー事務所長の大村佳史氏をお迎えしました。2025年3月28日に発生したミャンマー大地震の現場で大村氏が目にした人々の姿を出発点に、国際協力とは何か、「助ける側」と「助けられる側」とは誰なのか、そして人はなぜ人を助けるのかについて、堂目卓生・大阪大学特任教授/一般社団法人いのち会議代表理事との対話を通して考えました。
- 登壇者の紹介

大村 佳史(おおむら よしふみ)
国際協力機構(JICA)ミャンマー事務所長1970年、静岡県静岡市生まれ。
1992年、東京銀行(当時、現・三菱UFJ銀行)入行。ベトナム駐在などを経験した後、2000年に国際協力銀行(JBIC)へ。2008年の組織再編以降は国際協力機構(JICA)において、財務部、企画部などで国際協力業務に携わる。海外ではベトナム、フィリピン、エジプトなどで勤務。
2013年、日本工業大学専門職大学院修了(ものづくり)。2024年、浄土真宗本願寺派で得度。
2025年3月、JICAミャンマー事務所長に就任。赴任約2週間後の3月28日にミャンマー中部で発生した大地震では、現地責任者として被害状況・支援ニーズの把握や日本の国際緊急援助隊との連携など、緊急支援対応に携わった。
堂目 卓生(どうめ たくお)
大阪大学特任教授/一般社団法人いのち会議 代表理事1959年生まれ。大阪大学名誉教授。専門は経済学史・経済思想。特にアダム・スミス研究を通じて、市場経済と道徳、共感、社会のあり方について研究を続けてきた。
著書『アダム・スミス―「道徳感情論」と「国富論」の世界』でサントリー学芸賞を受賞。2019年、紫綬褒章受章。
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)の活動を牽引し、2025年大阪・関西万博を契機として展開された「いのち会議」を推進。現在、一般社団法人いのち会議代表理事として、産・官・学・民を越えた対話と協働を通じ、「いのち」を大切にし、一人ひとりが輝く社会の実現を目指している。
- ミャンマーで目にした「自助」と「共助」
大村氏は、銀行、国際協力銀行(JBIC)、JICAで国際金融・国際協力の実務に携わり、海外勤務を重ねる中で、「人とは何か」「宗教とは何か」「いのちとは何か」という問いを持つようになったといいます。2024年には浄土真宗本願寺派で得度。その後、上座部仏教が人々の暮らしに深く根づくミャンマーに赴任しました。
赴任から約2週間後、ミャンマー中部をマグニチュード7.7の大地震が襲いました。
大村氏は発災直後から被害状況や支援ニーズの把握、日本から派遣された国際緊急援助隊・医療チームの受け入れ調整などに従事しました。道路や建物が損壊し、通信も十分につながらない中で支援活動が進められた当時の様子が、現地の写真とともに紹介されました。
とりわけ印象的だったのは、外部からの支援だけではなく、被災した人々自身による助け合いでした。
人々は発災翌日から片付けや救助に取り組み、水や米、油などを持ち寄って炊き出しを行いました。地元企業も重機や資材を提供し、日本の医療チームに対して被災者から飲み物などが差し入れられることもあったといいます。
大村氏は、こうした光景を前に「どちらが支援する側で、どちらが支援される側なのか、分からなくなった」と振り返りました。
- 地域の「共助」を支える寺院
講演では、「自助・共助・公助」という観点からミャンマー社会についても語られました。
行政による「公助」が十分に届かない状況でも、人々自身による「自助」や、地域で助け合う「共助」が強く働いていました。その一つの軸となっていたのが寺院です。
寺院は祈りの場であるだけでなく、平時から教育、医療、生活支援にも関わり、災害や紛争によって困難に直面した人々を支える地域のセーフティネットとして機能しています。地震後も、地域をよく知り、人々から信頼される僧侶や寺院を通じて支援物資が届けられる場面がありました。
大村氏は、上座部仏教に対して赴任前には「個人の解脱を重視する宗教」という印象を持っていたものの、実際の社会では寄付や助け合いという「利他」の実践が日常に根づいていることに気づいたといいます。
「なぜ助けるのか」という問いに対して現地で返ってきたのは、「そのように育てられてきたから。ミャンマー人とはそういうものだから」という言葉でした。
助けることが特別な行為ではなく、文化や暮らしの中に自然に組み込まれている。その姿から、「支援する側/される側」という二分法そのものを考え直すきっかけを得たと大村氏は語りました。
- 「助ける人」と「助けられる人」を分けない
後半は、キャスタリア株式会社代表取締役CEOの山脇智志氏の進行のもと、大村氏と堂目氏による対話が行われました。
堂目氏は、現代社会では、何かを生み出す人を「有能な人」、病気や障害、災害、高齢などによって支援を必要とする人を「弱者」と捉え、「助ける側」と「助けられる側」を固定的に分けてしまいがちだと指摘しました。
しかし、人は誰もが、人生の中で誰かの助けを必要とする可能性があります。同時に、誰かを助けようとする中で、その相手の言葉や生き方から何かを受け取ることもあります。
そこにあるのは一方向の「支援」というよりも、「共感」を通じた相互の「助け合い」ではないか。堂目氏のこの問題提起は、大村氏が震災現場で感じた「どちらが支援する側なのか分からない」という経験とも重なりました。
対話はさらに、人間が持つ助け合いと暴力の両面、経済や宗教の役割へと広がりました。
堂目氏は、知識を得るだけで人が行動するとは限らず、何かを見て心を動かされること、すなわち「感じること」が行動につながるのではないかと話しました。
自然や芸術の美しさだけでなく、人が誰かを支えようとする姿に現れる内面的な美しさ。その根底にある「いのち」の美しさに触れることで、「守りたい」「育みたい」「つなぎたい」という意思が生まれるのではないかと述べました。
大村氏も、自身の国際協力の仕事と宗教者としての探究を切り離すのではなく、「すべてのいのち」を大切にするという視点を持ちながら、国際協力の現場で何ができるのかを考え続けたいと応じました。
会場からも、宗教と利他の関係、日本社会における自助・共助のあり方などについて質問や意見が寄せられ、登壇者との対話が続きました。
「人は、なぜ人を助けるのか。」
この日の講演と対話から浮かび上がってきたのは、誰かを助けることを特別な行為として捉えるのではなく、私たちはそもそも互いに支え、支えられながら生きているのではないか、という視点でした。
ミャンマーの震災現場で生まれていた助け合い、そこに根づく文化や信仰、そして「共感」から社会を考える視点を行き来しながら、「いのち」を大切にする社会とはどのようなものなのかを、参加者とともに考える機会となりました。

