さまざまな場

基幹プロジェクト
「一人ひとりの死生観と健康自律を支える
超高齢社会の創生」

シンポジウム開催報告

<日時>  2020年9月8日(火)14:00〜16:00
<場所>  youtubeによるオンライン開催
<プログラム>
・開会挨拶:堂目卓生SSI長/経済学研究科
・報告1:土岐博名誉教授
    『健康と医療・介護のビッグデータが教える社会と人の健康自律』
・報告2:大庭輝助教/人間科学研究科
    『人に優しい新たな認知症の評価法』
・報告3:山川みやえ准教授/医学系研究科
    『拡大する図書館の価値:超高齢社会の中での緩やかな変革』
・報告4:鈴木径一郎特任助教/共創機構
    『地域包括支援センターでの哲学カフェ:なぜ「死」や「老い」を語ることができるのか?』
・総合討論 進行:佐藤眞一教授/人間科学研究科(SSI基幹プロジェクトリーダー)

「生と死と、そして命を支えるために」ーSSI基幹プロジェクト中間成果報告

 

超高齢社会の進展とともに、我が国の年間の死亡者が激増しています。第二次世界大戦開始前には100万人を超えていた年間死亡者数は、人口の急増にもかかわらず、公衆衛生の普及と栄養の改善に伴って戦後急激に減少に転じ、1975年(昭和50年)には約70万人にまで減りました。この間の死亡者減少は、若い世代の死亡が減少したことと、高齢者の寿命自体が伸びてきたことが要因です。1980年半ば頃からは80歳、90歳、100歳という高年齢者の人口が急激に増加する超高齢化に向かい始めるとともに、年間死亡者数も増加し始めました。そして、2003年(平成15年)に再び年間死亡者数が100万人を超え、2005年(平成17年)には年間死亡者数が年間出生数を超えて、人口減少時代が始まりました。2019年(令和元年)には自然人口減少数が初めて50万人を超え、少子高齢化は様々な場面に見られるようになりました。例えば、私たちの身近なところでは、大学受験者数の減少が挙げられます。また、就業者人口の減少は国家的な大問題となっています。
一方で、死亡者数の年齢別最頻値が男性で87歳、女性では93歳(2019年度生命表)という「大衆超高齢化時代」を向かえ、人生終末期における医療選択(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)が「人生会議」と翻訳されて、国民の課題とされるような時代となりました。生と死を我が事として、本気で取り組む時代になったのです。
私たちのプロジェクトでは、健康マネジメントを自らの課題とすることによって、生と死に関わる思索を深めることが可能になるという共通理念のもとに、多分野の研究者が、様々な立場の公民のステークホルダーと共に研究と社会実践を行っています。本シンポジウムでは、生と死に関わる私たちの取り組みと、その成果から如何にして人々の命を支えるかを検討しました。2020年は新型コロナウィルス(COVID-19)の流行に世界中が翻弄されました。コロナ後の「新たな生活様式」にも配慮した研究発表と討議も行われました。
以下に、4名の発表者の講演内容の要約を掲載します。さらに詳しく知りたい方には、シンポジウムで使用したスライドを掲載しましたので、ご覧いただければ幸いです。

プロジェクト代表・佐藤眞一(大阪大学大学院人間科学研究科教授)

各報告の概要

 

〇土岐 博(大阪大学名誉教授・理論物理学)
【タイトル】健診と医療・介護のビッグデータが教える社会と人々の健康自律
【要約】現在、日本の医療費+介護費は国家予算の半分ほどである。25年後には現在の国家予算(100兆円)と肩を並べるくらいにまで膨らむと予想される。超高齢化とともに人も社会も経済的に大変な状態になる。大阪大学では、本プロジェクトとキャンパスライフ健康支援センターが協働して、大阪府の約300万人の国保データベース(KDB)のデータを入手し、医療費と病気の関係や健診データと病気の関係を研究している。個人の健康自律を促すために健診結果から未来の病気を予測するAI(人工知能)の開発を始めた。来年度から大阪府の健康サポートアプリ・アスマイルに搭載予定である。さらには歩数を増やすなどの日常の努力が反映された病気予測もできるAIを作成する。これを全国に広めることで、各自が自律の精神で健康を維持し、社会を健康にしたい。

(発表資料:20200908toki)

 

〇大庭 輝(大阪大学大学院人間科学研究科助教)
【タイトル】人に優しい新たな認知症の評価法
【要約】誰もが望んだ生き方や死に方ができるわけではない。しかし、命を支えるためには、どのように生きたいのか、そしてどのような死を迎えたいのかを考えることは重要である。本発表では、日常会話から認知症を評価する手法を紹介し、命を支えるための生や死に関するコミュニケーションを広げていくことの必要性を指摘した。そして、地域包括ケアシステムに大学や企業なども関与するための仕組み作りについて提案した。

(発表資料:20200908oba

 

〇山川みやえ(大阪大学大学院医学系研究科准教授)
【タイトル】拡大する図書館の価値:超高齢社会の中での緩やかな変革
【要約】日本の高齢化率は2020年に28.7%となり、それに伴い公共図書館は少しずつ変化している。これまで公共図書館は、病気の有無や年齢に関係なく多様な人を受け入れてきた。その中で図書館が個々人の生活ニーズに応えるためのハブ機能を持ち、多世代が交流できるサードプレイスであることの期待がある。COVID-19がもたらした変革を受け入れつつ、地域の公共図書館のこれまでの価値をさらに高めていくための戦略について、事例を踏まえながら考えてみたい。

(発表資料:20200908yamakawa

 

〇鈴木径一郎(大阪大学共創機構特任助教)
【タイトル】地域包括支援センターでの哲学カフェ:なぜ「死」や「老い」を語ることができるのか?
【要約】私たちは、健康増進のための活動を行う一方で、死や老いの受容のための準備もする必要がある。しかし、私たちは自分の死や老いをどれだけ考えられているだろう。死や老いについて語りあい、自分の言葉を見つけていく機会をつくることが、「一人ひとりの死生観の自律」につながっていく。このような仮説のもと、本プロジェクトでは「哲学カフェ」を近隣地域で継続的に実施している。なぜここでは、「死や老い」についても楽しみながら話すことができるのか? このこと自体についての考察も重要な意味を持つだろう。

(発表資料:20200908suzuki