<日時> 2023年11月16日(木)14:00~17:00
<場所> 大阪大学中之島センター5F いのち共感広場 + Zoom (ハイブリッド)
<参加者> 対面28名、オンライン85名
<プログラム>
開会挨拶:堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学大学院経済学研究科 教授
趣旨説明:山﨑吾郎/大阪大学COデザインセンター教授・プロジェクトリーダー
第一部 話題提供
・「商店街の空き家をみんなで考える: +クリエイティブゼミの取り組み」永田宏和 デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)センター長
・「やっかいな問題を問い直す:大学院プロジェクト型授業の事例から」辻田那月 大阪大学国際共創大学院学位プログラム推進機構 特任助教
・「地域の共創ネットワークをつくる:こども食堂の事例から」上須道徳 大阪大学大学院経済学研究科 教授
・「やっかいな問題を教える:体験型ダイバーシティ教育から学ぶ」辻田俊哉 大阪大学COデザインセンター 准教授
第二部 グループ・ディスカッション
主催:大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)
共催:大阪大学COデザインセンター、公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)、大阪大学大学院工学研究科 テクノアリーナ インキュベーション部門 連携融合型 「社会と技術の統合」、いのち会議市民部門
- 基幹プロジェクトシンポジウム「やっかいな問題に取り組むための共創の作法」
2023年11月16日、SSI基幹プロジェクト シンポジウム「やっかいな問題に取り組むための共創の作法」が開催されました。SSI基幹プロジェクト「社会課題を解決するためのコミュニケーション能力の開発」(プロジェクトリーダー:山﨑吾郎教授)では、社会課題を解決に導くために必要となるコミュニケーション能力の開発を目的として、大学、企業、行政、NPOなど組織や世代の壁を乗り越え連携し、プロジェクト及びPBL(Project based learning) 形式の教育を行ってきました。その成果の一部は書籍として出版されました(『やっかいな問題はみんなで解く』堂目卓生・山崎吾郎編、世界思想社、2022年)。
本シンポジウムでは、やっかいな問題に取り組むための共創の作法として「クリエイティブ」「やっかいな問題」「ネットワーク」「教育」にフォーカスを当て、話題提供者による4つの実践事例の紹介とグループ・ディスカッションを行いました。
- 挨拶と趣旨説明
堂目SSI長の開幕挨拶では、SSIが発足した経緯や目指す社会のあり方が提示されました。書籍の序章でも示されたように、「Capable」な人々と「Vulnerable」な人々が共助しあえる未来社会像に向けて取り組むことが求められますが、しかし実際にはやっかいな問題や難しい問題が横たわっています。本基幹プロジェクトは、ひとつ一つ地に足をつけて取り組んでいる現場との協働プロジェクトであることが述べられました。
趣旨説明では、山崎教授からプロジェクトや書籍の説明と一緒に、今回の話題提供者の紹介がなされました。
- 「商店街の空き家をみんなで考える: +クリエイティブゼミの取り組み」
永田さんからは、まずKIITO(デザインクリエイティブ・センター神戸)の説明があり「みんながクリエイティブになるそんな時代がやってくる」というコンセプトのもと、子どもから高齢者まで、あらゆる世代を対象とした創造教育拠点であることが話されました。そして、現在取り組まれているゼミについて詳しく紹介がありました。ゼミは市役所からの課題の持ち込みで課題解決プロジェクトとして実施されているもので、子ども向けには「ちびっこうべ」、高齢者向けには「パンじい」などがこれまで取り組まれています。今年度は商店街の空き家がテーマで、KIITOゼミ生と大阪大学の院生が共同でフィールドワークと現地発表会を行いました。発表会では、空き家を使ったアイデアよりも、商店街全体をどうしたらよいかというアイデアが生まれたのが面白い結果だったと永田さんは言います。KIITOでやってきたことが地域をどれほど豊かにできるかにチャレンジしていきたいと語られて、話題提供を終えられました。
- 「やっかいな問題を問い直す:大学院プロジェクト型授業の事例から」
辻田那月さんからは、まず大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムで取り組まれている超域イノベーション総合の授業説明があった後、大阪府豊能町との取り組み事例を紹介されました。イノベーション総合の授業は、社会における実際の問題を取り上げ、解決策の立案に取り組む約1 年間の長期プロジェクト演習と位置付けられています。大阪府豊能町からの課題は、観光客誘致に取り組んできた結果、様々なトラブルが生じ、地域住民は観光振興を歓迎しない雰囲気になってきているというものでした。「地域振興と住民の日常生活を両立させる施策を提案せよ」という課題に対して、大学院生は「初谷渓谷の事例において、地域振興と住民の生活の質をともに向上させる持続可能な地域振興施策の提案」に取り組んだ事例が紹介されました。最後に教員が注意すべきこととして、学生へのフォロー、課題提供機関・現地の方々との調整という役割についても触れられました。
- 「地域の共創ネットワークをつくる:こども食堂の事例から」
上須さんからは、大阪大学でこども食堂プロジェクトに取り組んだ経緯と現在の状況説明がありました。こども食堂とは、子どもが1人でも利用でき、地域の方たちが無料あるいは少額で食事を提供する場所のことで、民間主体の取組みです。「子どもの貧困対策」と「地域交流拠点」という2つの目的で運営されているため、こどもだけでなく大人も集まる地域のインフラとなっているといいます。新型コロナウイルスの第1次緊急事態宣言時に有志が集まり、こども食堂調査を始め、そこでの知見や気づきをシンポジウムで公表した結果、こども支援関係者のネットワークが不足していることがわかったといいます。プロジェクトは「共創」のためのネットワークづくりとしてスタートし、中間支援団体から成る「大阪府こども食堂ネットワーク連絡会」が発足しました。課題の抽出から研究へと発展させ、今後はこども食堂や居場所の効果検証調査にも取り組んでいきたいと述べられました。
- 「やっかいな問題を教える:体験型ダイバーシティ教育から学ぶ」
辻田俊哉さんからは、冒頭にダイバーシティには目に見えるものと見えないものがあるとして、表層的なものには人種、性別、年齢など、深層的なものには信念、文化、教育、ライフスタイルなどがあり、認知的多様性(cognitive diversity) と思考の多様性(diversity of though)の区別を示されました。そして、ダイバーシティは多様な人材が集まっている状態を言い、インクルージョンは多様な人材が集まり相互に機能している状態を指し、それとは別に公正・正義という価値があると話されました。これまで辻田さんが取り組んでこられた大学での体験型ダイバーシティ教育の実践にも触れながら、やっかいな問題を解くために、なぜダイバーシティ教育が必要であるかをさまざまな観点から提示されました。個々の「違い」(認知的多様性)を受け入れ、認め合い、活かすには、隠れバイアスを取り除くこと、異なる問いも立て方に触れること、チーム内で「もめる」こと、異なる価値を組み合わせることが重要だと述べられました。
- 質疑応答、グループ・ディスカッションへ
話題提供の後は、山崎さんによるコーディネートのもと、4人のパネリストへの質疑応答の時間となりました。質問のテーマは、たとえば、「文理融合チームにおけるそれぞれの専門性の貢献度合い」「大学院教育における専門教育とプロジェクト教育の関係性」「教員やスタッフのプロジェクトへの介入の程度、マネジメント役割」「プロジェクトのイニシアティブ、メンバーの力関係」「事業やプロジェクトの効果検証」「プロジェクトにおける“失敗”からの学び」など多岐に渡りました。オンラインを交えた第一部が終わった後、第二部の会場参加者によるグループ・ディスカッションに移り、ふだん取り組んでいる課題や関心を交換し合い、多いに盛り上がったところで終了時間となりました。
事後アンケートにも期待以上の内容で有意義だったとの感想をいただくと同時に、もっと踏み込んだ具体的な社会課題の解決につながる事例について共有しあう場を求める声などもあり、やっかいな問題をみんなで解こうとするこうした共創の場が求められていることを切に感じました。基幹プロジェクトでは、学生が社会問題に取り組むことで社会と繋がっていくことが目指されましたが、それに付随して大学が社会に開かれていくことにもつながり、共創の場が生まれつつあることを再確認したシンポジウムでした。
話題提供者の皆さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。