サロン/シンポジウム

【開催報告】2025年5月8日(木)、大阪大学第7回SSIシンポジウム「『命』を守り『いのち』を継承するまちづくり」を開催しました。

<日時>  2025年5月8日(木) 13:30~17:00
<場所>  大阪大学中之島センター
<参加者> 127名
<プログラム>
開会の辞 堂目卓生/大阪大学 総長補佐・社会ソリューションイニシアティブ長
基調対談 「都市とアートと人の役割~『いのち』を大切に想う感性とは~」
 大林剛郎/株式会社大林組 取締役会長兼取締役会議長
 木多道宏/大阪大学 総長補佐・SSI副長・New–POD部門長・大学院工学研究科 教授
 松本文子/大阪大学工学研究科 特任准教授
グループディスカッション
総括と閉会の辞 堂目卓生

2025年5月8日、大阪大学中之島センターにおいて、第7回SSIシンポジウム「『命』を守り『いのち』を継承するまちづくり」を開催いたしました。本シンポジウムは、「いのちをまもり、はぐくみ、つなぐ社会」の実現を掲げるSSIの取り組みの一環として実施されたものであり、都市、アート、科学技術、空間といった多角的視点から、これからのまちづくりの方向性について議論が行われました。多様な専門家と市民が一堂に会し、「いのち」という根源的なテーマを実践的に捉え直す場となりました。

第一部では、「都市とアートと人の役割 ―『いのち』を大切に想う感性とは―」をテーマに基調対談が実施されました。冒頭、堂目卓生SSI長より、世代や属性を超えた対話を通じて未来社会を構想する「いのち会議」の理念が紹介され、都市における“関係性としてのいのち”を捉え直すことの重要性が提起されました。
さらに、小さな声に耳を傾けながら社会像を描くプロセスそのものが、未来のまちづくりの基盤になるとの視点が示されました。

大林剛郎氏は、中之島に集積する美術館や博物館、ホールなどの文化資源に言及し、官民連携によって国際的文化拠点を形成し得る可能性を示されました。また、パブリックアートについては、作品の経済的価値以上に、市民に受け入れられるプロセスや景観との調和が重要であると指摘され、都市ブランドを育む「未来への投資」としての意義が語られました。

木多道宏教授は、「命」を身体的生命、「いのち」を人と人、人と自然の関係性に宿るものとして整理され、震災経験も踏まえながら、記憶や文化といった“心のいのち”を守る視点の重要性を論じられました。人間の営みが感じられる風景や空間デザインこそが、都市の持続性と共感を生み出す基盤になると指摘されました。

松本文子特任准教授は、越後妻有トリエンナーレの実践を例に、アートが高齢化・過疎地域に誇りや活力をもたらす可能性を紹介されました。さらに、都市において希薄化しがちな関係性を再接続する媒介として、アートが果たす役割の大きさについて言及されました。
幼少期の海外都市体験にも触れながら、文化と日常が共存する風景が人の感性を育むことの重要性が示されました。
対談全体を通じて共有されたのは、「アート×都市×人」の関係性こそが都市の“いのち”を支える基盤であるという認識です。制度やインフラのみならず、市民・行政・企業の協働や感性の共有が、未来の都市像を形づくることが示唆されました。また、文化資源の活用が都市の評価や持続性にも寄与する点が強調されました。

第二部では、「みんなで考える『命』と『いのち』を守るための取り組み」をテーマに、三つの視点からグループディスカッションが行われました。

グループA(科学技術)では、災害時の精神的ケアに焦点が当てられました。AIや衛星技術による予測、医療情報共有の進展が紹介される一方で、避難所における足湯や対話といった人間的支援の不可欠性が確認されました。また、生態系や地域の物語を踏まえた復興設計や、小規模技術を活用した「尊厳ある縮退」という概念も提示されました。

グループB(アート)では、災害後にアートが果たす役割が議論されました。「AWE(畏怖)」が人々の価値観を揺さぶり、向社会的行動を促す可能性や、不確実性に向き合う力である「ネガティブ・ケイパビリティ」が共有されました。文化芸術基本法の文脈も踏まえ、教育やワークショップを通じた持続的基盤づくりの重要性が指摘されました。

グループC(空間)では、共助・互助を育むコミュニティ設計が中心的に議論されました。産学官連携やデジタル活用による制度設計に加え、縁や恩といった情動的つながりの価値、企業内助産師配置といった新たな実践例も紹介され、コミュニティ単位を再定義する必要性が提起されました。
三グループの議論を通底していたのは、「いのち」を単なる生存概念ではなく、関係性・尊厳・共助の総体として捉える視点です。分野横断的な知見が交差することで、実装可能なまちづくりの方向性が多層的に描き出されました。

本シンポジウムは、科学技術、アート、空間という異分野の知見を横断し、「いのち」を関係性として捉え直す視座を提示する場となりました。都市の未来は、人と人、人と自然をつなぐ実践の積み重ねによってこそ形づくられる――その方向性を共有する機会となりました。