サロン/シンポジウム

第1回SSIサロン開催報告
「生と死と、命と 超高齢社会の多様性」

<日時>  2018年6月25日(月)18時~21時
<場所>  大阪大学会館2F SSI豊中ラウンジ
<参加者> 31名
<プログラム>
・開会挨拶   堂目卓生/大阪大学SSI長、同 大学院経済学研究科 教授
・話題提供1 くらしの中での認知症~認知症のある人の生活と社会資源」
        山川みやえ/大阪大学大学院医学系研究科 准教授、医師 
・話題提供2 私の考えるsuccessful deathとは
        神出 計/大阪大学大学院医学系研究科 教授、医師
・話題提供3 老年学と死生学~後半生のライフイベントから得る英知~
        佐藤眞一/大阪大学大学院人間科学研究科 教授
・話題提供4 「社会的弱者」と向き合うことによる人間の解放
        -ジャン・バニエの思想と実践-
        堂目卓生/大阪大学SSI長、同 大学院経済学研究科 教授
・ディスカッション
・閉会挨拶   栗本英世/大阪大学副SSI長、同大学院人間科学研究科 教授

「命」を多様な論点で掘り下げる、SSIらしい内容のサロンに

2018年6月25日、大阪大学豊中キャンパスのSSI豊中ラウンジにて、記念すべきSSIサロンの第1回が開かれました。参加者は、人文社会系から自然科学系まで多様な分野の研究者、医師や訪問介護士といった認知症の現場に関わる実務者など、31名でした。

前半は、SSI協力プロジェクト「地域住民の死生観と健康自律を支える超高齢社会創生のための文理融合プロジェクト」のメンバー3人より、認知症や地域包括ケアシステム、終末期医療・看取りのあり方、老年期の捉え方等について話題提供がなされた後、堂目SSI長から、ジャン・バニエが構想・実践している「弱者」を中心に据えることで人間を解放する社会モデルが紹介されました。後半の全体ディスカッションでは、前半の話題を受けて活発な意見交換が行われ、「命を大切にし、一人一人が輝く社会」の実現を目指すSSIの理念にふさわしい内容のサロンとなりました。

専門家だからこそ抱える苦悩を、他の専門家と共有する意味

全体ディスカッションの冒頭で盛り上がったのは、バニエの社会モデルに触発された、「弱者」「強者」とは誰を指すのかについての議論です。「弱者・強者の立場は相対的なものだ」、「強い立場にいる人は、自分が持っている権力・権威を自覚化する必要がある」、「自分で意志を持って死ぬ人は非常に強く、その人を見守る家族も強くなっていく」など、それぞれの専門分野や実務経験に基づいた率直な発言が飛び交いました。

そんな中、終末期の治療や療養に関し、患者・家族と医師、関係者らの間であらかじめ意思決定を行うプロセス「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」に話が及んだ際、従来の医師と患者の力関係を話し合いにより変えていくという文化が医療者になかなか浸透しない現状を、一人の医師が語りました。それに対して、医療者との共同研究の経験を持つ行動経済学者は、医療者・患者双方が合理的に考え・行動するという前提自体の危うさが背景にあることを指摘し、医師でも先延ばしをしてしまうため、患者・家族に言いにくいことを適切なタイミングで伝えるのは難しく、国のガイドラインをもとに、個々の病院・医局内で先延ばしができないようなルールを作る必要があるのではないか、と提案しました。命に向き合う専門家として一見“強い立場”にある医師が抱えている、その立場ならではの悩みが聞けたと同時に、そうした悩みを他の専門家と共有し、客観的な視点で捉え直すことで、解決の糸口が見つかる可能性があるように感じられた一場面でした。

問われているのは課題に向き合う姿勢

専門家だからこそ抱える苦悩に関連するトピックとして、科学の限界とそれを補う哲学の役割についても話題になりました。「社会科学で解決困難な問題は、哲学に立ち戻る」、「若年性アルツハイマーになった方がなぜ自分が若くして発症したのかを知りたいと思っても、科学だけでは答えを出せない。哲学で答えを出す必要があるのではないか」といった発言がその例です。「地域住民の死生観と健康自律を支える超高齢社会創生のための文理融合プロジェクト」では、実際に生や死をテーマにした哲学カフェを開催しているそうで、欧米に比べ日本社会で死生観が十分に確立していないことへの対策が、医療現場において求められているという話も出ました。生や死に向き合うために分野横断的な取り組みが求められること、言い換えれば、自らの限界をふまえた上でさまざまな立場の人たちと協働することにより、その限界を乗り越え、課題解決に貢献しようとする姿勢の必要性が、改めて理解できました。

今後SSIが取り組んでいく個々の社会課題は、いずれも容易に解決できるものではないでしょう。「簡単に解決できそうになくても、みなで解決しようとする社会であることが重要だ」という、サロン終盤での堂目SSI長のコメントは、SSIの活動スタンスを象徴的に表していると思いました。多様な人々の協働により社会課題を少しずつ解きほぐしていく起点として、第1回SSIサロンでの議論が活かされることを期待しています。

( 報告者:川人よし恵/大阪大学経営企画オフィスURA部門 )