サロン/シンポジウム

第3回SSIサロン開催報告
「人間とは 国家とは―紛争解決とは何をめざすのか」

<日時>  2018年9月20日(木)18時~21時30分
<場所>  大阪大学会館2F SSI豊中ラウンジ
<参加者> 33名
<プログラム>
・開会挨拶   堂目卓生/大阪大学SSI長、同 大学院経済学研究科 教授
・話題提供1 紛争解決事始め:解決するための「力」とは何か
        松野明久/大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授、
        SSI基幹プロジェクト「共生対話の構築」代表
・話題提供2 エージェンシー理論から見たタイ深南部の和平交渉
        :日本の非政府機関による貢献の可能性
        浅見靖仁/法政大学大学院政治学研究科 教授
・話題提供3 紛争解決と国際法制度
        掛江朋子/広島大学国際協力研究科 准教授
・話題提供4 アフリカでの紛争解決:民間軍事会社の役割とは
        ヴァージル・ホーキンス
       /大阪大学大学院国際公共政策研究科 准教授
・意見交換、ディスカッション
・まとめ   栗本英世/大阪大学副SSI長、同 大学院人間科学研究科 教授

日本人にはなじみが薄い「紛争解決」という社会課題を考える

2018年9月20日に開催された第3回SSIサロンでは、SSI基幹プロジェクト「共生対話の構築」関係者らの話題提供を手掛かりに、紛争(※1)解決について意見交換を行いました。参加者は、紛争を研究テーマとする政治学や法学、人類学等の社会科学系研究者に加えて、人文系・自然科学系の研究者、国際協力機関関係者、企業関係者など33名でした。
サロン前半は、紛争解決に関し、様々な研究理論、北アイルランドやタイ深南部の事例、法的アプローチの考え方、紛争地に民間軍事会社が進出している現状など、多角的な話題提供がなされました。SSIマンスリー・トピックス(2018年7月)で中内政貴氏がふれているように、紛争解決は多くの日本人にとってはなじみが薄い社会課題です。そこで本稿では、前半の話題提供を受けて後半はどんな議論がなされたのか、その内容の一部を紹介しながら、読者のみなさんと紛争解決を考える上での糸口を共有したいと思います。

 

紛争解決のために日本の大学は何ができるのか

後半のディスカッションは、第三者である日本の大学にとっては、紛争当事者のうち誰にどういったルートでアプローチしていくのが有効かという質問からスタートしました。国連を始めとする国際機関や政府等が紛争地のトップレベルのリーダーに働きかけるのに対し、日本の大学の場合、紛争地の大学研究者やNGO関係者などの仲介者を経て、ミドルレベルのリーダーに働きかけ、対話を構築していくのが主たる展開方法として構想されるそうです。研究者が中立的な立場で活動でき、他の紛争地に関する自身の知識を紛争当事者に伝えて「紛争地を横につなぐ」といった、日本の大学ならではの活動のポテンシャルも指摘されました。
議論の中盤では、トップリーダーでもなくミドルリーダーでもない、いわゆる“草の根の人々”が形成する世論が紛争地のリーダーの和平交渉に影響を与えることを踏まえた、ピースジャーナリズムという報道のあり方が話題に上りました。また、リーダーレベルでの合意の内容と草の根レベルの認識の内容とがずれている場合、将来的に紛争の繰り返しになる恐れがあるのではないかという趣旨の発言も出ました。紛争解決のための活動においては、水平方向に加えて垂直方向にも紛争地域の人々をつないで包括的な合意形成を進める必要があり、そのためには多様な分野の研究者が連携するだけでなく、ジャーナリスト、NGO関係者、政府関係者、国際機関関係者といった多様なアクターとの連携が求められる、まさにアカデミアの力が試される取組なのだと感じました。

SSI基幹プロジェクト「共生対話の構築」が目指すもの

「共生対話の構築」プロジェクトは、各国の紛争解決の事例研究を行うほか、紛争当事者間の話し合いの場をホストするといった関与を通じ、実際の紛争地におけるステークホルダー間の信頼醸成に貢献することを目的としています(※2)。「いのちをまもる・はぐくむ・つなぐ」ため、研究の枠にとどまらない実践的な活動を伴う、まさにSSIらしいプロジェクトの一つです。
平和の研究は戦争の研究と裏表で両方が必要だが、戦後日本では戦争や軍事に関する研究が衰退してしまった。このプロジェクトには、こうした状況を変え、世界の平和や安定に我々がどう関わり、何ができるかという問いに対して答えていくという大きな意義がある―これは、自身も約40年にわたり南スーダンの紛争研究に関わってきた栗本英世SSI副長による、サロンの締めくくりのコメントです。SSIのプロジェクトを一つのきっかけに、紛争解決に関連した活動が多面的に広がり、日本国内でも理解が進むことが期待されます。

(報告者:川人よし恵/SSI企画調整室)

 

 

※1:「共生対話の構築」プロジェクトが解決の対象とするのは武力紛争です。例えば頻繁に用いられる定義では、武力紛争(armed conflict)は「当事者の少なくとも一方が国家の政府である二者によって争われる、政府や領土に関する両立しない利害の衝突。武力が用いられ年間の死者数が25人以上のもの」(スウェーデンのウプサラ大学の紛争データベースプロジェクト
http://pcr.uu.se/research/ucdp/definitions/)とされます。
※2:「共生対話の構築」プロジェクトの背景やメンバーの思いについては、松野明久氏による「紛争を解決したい!〜平和を「つくる」ことは可能か」(SSIマンスリー・トピックス2018年10月)でお読みいただけます。