マンスリー・トピックス

超高齢社会の課題を市民と共に考える

SSI協力プロジェクト「地域住民の死生観と健康自律を支える超高齢社会創生のための文理融合プロジェクト」代表/人間科学研究科教授
佐藤眞一

2018年12月

2025年、大阪・関西万博の開催が決定しました。前回、1970年に阪大・吹田キャンパスに隣接する現・万博記念公園にて開催された万博に、中学2年生だった私も1年繰上げの修学旅行で訪れました。超近代的なパビリオンに加えて、インパクト絶大の太陽の塔に圧倒されたことを覚えています。今回の万博への期待も、開催決定と共に私の中でも徐々に膨らんできました。
今年の夏の期間に、大阪府は、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」の重要な課題の1つとして取り上げる予定の「健康」に関するワークショップを開催しました。本学医学系研究科の磯博康教授を座長として5回にわたって開催されたワークショップのうちの1回に私も話題提供者として参加しました。世界の最長寿国として何を示すことができるのか、このワークショップは私にとってとても興味深いものでした。
長寿社会における健康は、疾患の予防に限るわけではありません。心や社会の健康も含めて考える必要があること、そしてそれは医療・福祉の専門家や国や自治体のリードだけでは解決の困難な課題のため、地域で暮らす市民一人ひとりの事情を支えるようなボトムアップのサポートが重要な意味を持つものと考えています。
そして、何より大事なのは、当事者の意思と希望と幸福です。私たちのプロジェクトでは、超高齢社会の当事者である市民との対話によって、研究機関である大学に所属する私たちがいかにすれば課題解決に貢献できるかを考えています。
私たちのプロジェクトで行っているさまざまな活動の中から2つだけご紹介したいと思います。

哲学カフェ

超高齢社会の課題は、その概念からして多様な意味を含むものがたくさんあります。私たちのプロジェクトは、医学・生物学、工学・物理学、社会科学、人文科学とさまざまな領域の研究者に協力していただいていますが、こうした高齢社会の課題に関する概念について、市民と共に思考する場として哲学カフェを、箕面市と豊中市で開催しています。
私が世話人をしている豊中市の「ゆっくり考える哲学カフェ」は、本年5月から毎月1回、阪急宝塚線豊中駅構内にある「豊中市市民活動情報サロン」で開催しています。これまでのテーマは、5月「生と死」、6月「話すこと、生きること」、7月「みとりたい? みとられたい?」、8月「始めること、終えること」、9月「介護」、10月「生きがいとは」、11月「希望」、12月「大晦日」でした。臨床哲学専攻の鈴木径一郎特任助教をカフェマスターに進行する毎回のカフェでは、若者から高齢者に至る多様な参加者の発言が交差することで議論が哲学に昇華されていく心地よさを実感することができます。議論された内容は参加者の心の中に染み込み、時間を経てから思考が再開するという体験として残っていくようです。

 

認知症について考える

私たちのプロジェクトは、元々は阪大の部局横断認知症談話会からスタートしました。認知症という今や国家的な課題に、阪大の各部局では多くの専門的な研究が行われています。その研究内容を、阪大の他の部局の研究者と地域で認知症を課題にして取り組む自治体職員、医療・福祉事業者、NPO等の組織、それに市議会議員などさまざまな参加者で共有しようということを目的にして、本年3月まで2年半にわたり毎月開催してきました。
提供された話題の一部に過ぎませんが、このたび大阪大学出版会から公刊する運びとなりました。タイトルは「ほんとうのトコロ、認知症ってなに?」としました。認知症に関する報道や書籍が飛び交う今日において、極めて表層的な理解が横行していることに危機感を感じた私たちは、神経科学などの基礎的な研究から社会的な取り組みまで、それぞれの専門家の言葉で語っていただいた内容を、市民の皆さんと共に考えたいという目的で本書をまとめることにしました。現在、急ピッチで編集作業を行っていますので、来年早々にはお届けできると思います。多くの方々に手にとっていただくことを願っています。