サロン/シンポジウム

第6回SSIサロン開催報告
「社会の鏡 こどもが与えてくれるもの」

<日時>  2019年5月23日(木)18時〜20時30分
<場所>  大阪大学会館2F SSI豊中ラウンジ
<参加者> 35名
<プログラム>
・開会挨拶 堂目卓生/大阪大学SSI長、同 大学院経済学研究科 教授
・話題提供1 子どもの発達の可視化を通して了解可能な社会を目指す
片山泰一/大阪大学大学院連合小児発達学研究科 教授
・話題提供2 子どもの最善の利益を考慮した子育ち支援—スウェーデンの取り組み
高橋美恵子/大阪大学大学院言語文化研究科 教授
・話題提供3 ひとりぽっちをつくらない—一人一人が大切にされる学校・家庭・地域に—豊中のCSWの実践から
勝部麗子/豊中市社会福祉協議会 福祉推進室長
・話題提供4 子どもの声を社会に〜人権は細部に宿る〜
西野伸一/社会福祉法人石井記念愛染園 「大国保育園」園長
・ディスカッション(モデレーター:栗本英世/SSI副長・大阪大学大学院人間科学研究科教授)
・食事をとりながらのダイアローグ

困難を抱える子どもは、我々が未来に対して抱える問題の鏡である

2019年5月23日、今年度の初回、通算では6回目のSSIサロン「社会の鏡 こどもが与えてくれるもの」が開催されました。参加者は35名でした。今回は、子どもの発達の可視化を通じて発達障がい児支援に取り組む片山泰一氏、家族社会学が専門でスウェーデンの子育てをめぐる支援に詳しい高橋恵美子氏、豊中市社会福祉協議会でコミュニティ・ソーシャル・ワーカーの取組を進める勝部麗子氏、大阪市西成区の保育園の園長として地域で子どもを支えるネットワークとも連携する西野伸一氏の4名から話題提供いただきました。

4名の方々のお話を通じて、子どもたちが抱える深刻な問題が確認されるとともに、現場でその解決に取り組む方々の思いや知見が共有され、今回も非常に内容の濃いサロンとなりました。さらには、「困難を抱えている子どもたちは、我々が未来に対して抱えている問題の鏡になるのではないか」というコンセプトに基づくサロンのタイトルの通り、子どもの問題を掘り下げることで、未来社会を構想するために必要な「視点」がいくつも浮かび上がってきました。本稿では、そうした「視点」に関連する話題のうち、特に筆者にとって印象的だったものをいくつか紹介したいと思います。

問題をどう「見る」のかという問題

まず一つ目は、そもそも何が問題か見えていない、あるいは問題の表層部しか見えていないという「視点」の貧しさに関する指摘です。神経科学を専門とする片山氏は、錯視画像を何枚か見せながら、脳の処理が人によって異なることを参加者とともに確認しました。当たり前と思っていることは全て、その人の認識や感覚に依存しているため、人によって何が当たり前かは異なる、つまり、異なっている=間違っているではないのです。片山氏は、違いを客観的に理解して、お互い了解可能な、人にも自分にも優しい社会にするために、データを使った可視化に取り組んでいるとのことでした。また勝部氏は、豊中市の子ども食堂の取組のエピソードを紹介しながら、経済的貧困には人間関係の貧困や文化的貧困がつながっているがその一部しか問題として見えていないケースが多いこと、そして実際にその人と関わらないと見えてこないものがあることを指摘しました。

次に、問題が見えてきた時の認識のしかたに関する話題を紹介します。西野氏は、前任の西成区釜ヶ崎の保育園での活動から、違いを認め合うのはいいことだと誰もが思うけれど、それでは足りないと学んだそうです。それは、多くの場合、違いを隔たりとして認識してしまうからです。そこで止まってしまわずに、違いを人と人との対話や関わりのきっかけづくりにしなければいけないと、西野氏は主張しました。また西野氏は、日本において7人に1人の子どもが相対的貧困の状態にあると言われている状況に対し、「いつまでたっても1人の側の問題にしつづけているが、本当は6人の側の問題なのではないか」と語りました。西野氏の話題提供は、問題を捉える「視点」についての内容に加え、見えてきたものを受け止める「姿勢」や「立ち位置」のあり方について問いかけるものでした。

SSIと子どもの問題

子どもの問題は社会の問題を映す鏡、とはまさにその通りです。個人的には、今回のサロンで子どもの問題について少し理解を深めただけでも、社会構造に起因するその問題の深刻さに立ちすくんでしまうような心持になった瞬間が何度もありました。他方、共通する問題意識を持った研究者や実務者の方々が、強い思いを持ってそれぞれ解決に取り組んでおられることには勇気づけられ、まずは当事者としての意識を持ち、小さいことからでも行動に移すことの大切さを改めて感じました。高橋氏から紹介のあった、子どもの問題に先進的に取り組んでいる国・スウェーデンでも、子どもの虐待死事件をきっかけに草の根で生まれた運動が大きな社会的うねりとなり、各種法律・制度が整ってきたそうです。人々が問題を共有して行動する限り、希望はあるのだと思いました。

SSIは、「教育の効果測定研究」プロジェクトで子どもの教育効果を扱っていますが、より多様なアプローチで子どもの問題に取り組むことが必要だと考えています。実は今回のサロンは、子どもの問題を対象とした新しいプロジェクト立上げのきっかけにすることも期待して開催されました。実際にSSIとして子どもの問題にどう取り組んでいくかについては、別の機会にご紹介できればと思いますが、このサロンでの議論が重要な道しるべの一つとなるのは間違いないと思います。

(川人よし恵 社会ソリューションイニシアティブ企画調整室員)