SSIサロン / シンポジウム

第12回SSIサロン開催報告
「福祉の空間化ー命をまもり、はぐくみ、つなぐ『まちづくり』」

<日時>  2020年10月29日(木)17:00 – 19:30

<場所>  オンライン開催
<参加者> 37名
<プログラム>
・開会挨拶  堂目卓生/大阪大学SSI長・同大学院経済学研究科教授

・話題提供1 広井良典/京都大学こころの未来研究センター教授

      「福祉の哲学とその空間化について」

・話題提供2 三崎信顕/大阪府 住宅まちづくり部 副理事
      「大阪府の福祉の視点からの住まい・まちづくりとその展望」

・話題提供3 遠藤剛生/遠藤剛生建築設計事務所代表取締役

      「集合住宅計画における個と全体の関係について」

・話題提供4 木多道宏/工学研究科教授・SSI副長

      「地域レベルからみた都市空間の形成原理の系譜と展望」

・ディスカッション(モデレーター:木多道宏)

社会と空間の分断を克服する「福祉の空間化」

科学技術の急激な進歩により、多くの制約条件が無くなった今、私たちは道徳的な都市の社会空間の形成原理を再構築するべき岐路に立っています。今回のサロンでは、社会と空間の分断を克服する方策の一つとして、「福祉の空間化」という概念を取り上げ、様々なアプローチから展開や拡張の可能性について議論したいと思い、この課題に対して取り組まれている、研究者、行政担当者、実務家の先生方を話題提供者として迎え、議論を行いました。話題提供者は、京都大学こころの未来研究センター 広井良典教授、大阪府 住宅まちづくり部 副理事 三崎信顕氏、遠藤剛生建築設計事務所代表取締役 遠藤剛生氏、木多道宏 SSI副長の4名です。

話題提供者のお話

サロンではまず、福祉政策と都市政策の統合という観点から広井良典京都大学こころの未来研究センター教授にお話しいただきました。広井教授は、福祉分野での活動を行っていく中で、次第に都市計画分野に触れていくことになったそうです。現代の日本社会は、古い農村型の共同体が崩れていく一方で、都市における新たなコミュニティの形成には至っておらず、「社会的孤立」が社会的課題となっています。その解決策として、高齢者がゆっくりとカフェや市場で過ごすヨーロッパの街を例に、そのような場所が街の中にあることは、福祉施設や医療施設を作ること以上に重要な意味を持つのではないか、と都市におけるハード面の福祉的側面からの重要性を説かれました。ここでは、ハード中心の都市政策とソフト中心の福祉政策が相補的に接する、福祉政策と都市政策の統合が目指されるべきであると示されました。

次に、大阪府住宅まちづくり部副理事の三崎信顕氏に話題提供いただきました。三崎氏は、大阪府の住宅・まちづくり事業に長年関わられており、これまでの活動紹介を通じて、「福祉の空間化」についてお話しされました。公営住宅はセーフティネットとして福祉的役割を有しており、近年はハードだけでなく、居住を支えるサービスの重要性にも注目が集まっています。その中で、大阪府の取り組みとして、公営賃貸住宅の空室を地域の福祉拠点として活用する取り組みについて紹介いただきました。泉北ニュータウンにて取り組まれた、『泉北ほっとけないネットワーク』では、従来の制度では取り残されていた、見守りが必要な在宅の独居高齢者や障がい者などの「在宅要援助者」の支援を目的として、高齢者による配食サービスや障がい者によるレストラン運営など、多様な住民が主体的に参加し、生きがいが感じられる体制が整えられています。

遠藤剛生建築設計事務所代表取締役の遠藤剛生氏からは、集合住宅を計画する際の、敷地の条件としての周辺環境や地域コミュニティをどのように捉え、計画の中に盛り込んでいくのかについて、ご自身の実作を参照しつつ紹介いただきました。集合住宅のデザインでは、集合住宅の「全体」とそれぞれのユニットとしての「個」の両側面と、その関係性が重要になってきます。初期の作品においては、「全体の統一と部分の多様性」を目指して、敷地条件に影響されないプランとして計画がなされましたが、その後、敷地の条件が加味され、場所ごとの個性が取り込まれた設計手法によって、有機的な空間が誕生しました。ここでは、「組織化された混沌」をキーワードとし、計画地における時間的・空間的な数々の要素を読み解きレイヤーとして重ねていくことで、個別的な空間が各所にうまれ、多様さに満ちた空間が誕生します。

木多SSI副長からは、より良い都市空間の実現に向けて、手がかりとなる理論と新たな文脈論について紹介いただきました。⼤災害や⼈⼝減少の時代においては、それに対応する新たな地域文脈論が必要となります。地域の文脈には、社会組織や生活様式のあり方を含めた空間の形成原理である組織的文脈(背景の文脈)と、地域に関わる⼈々が「普遍のテーマ」を解決するために、活動を「発展的に」持続させていく連鎖の質や価値である連鎖的文脈(前後関係の文脈)があり、その両方が重要です。また、SSIでのガーナでのまちづくり活動を事例に、路地・地区・町単位の各スケールの社会組織が連動し地域を運営する、「生きたコミュニティ」を目指していくべきだとお話しされました。近現代は、組織的文脈の弱体化された時代であり、今後は福祉分野と連動させた、都市福祉政策として再構築し、また、地域文脈も踏まえた計画を行なっていくべきだと述べられました。

住みやすい街とは

後半のディスカッションでは、居心地の良い空間をいかに「計画」していくのか、誰がその計画を担い、活動していくのかという議論がなされました。その中で、計画することについて、遠藤氏からは、岡山中庄団地を事例に、計画していない部分とどのように調和していくのかは大きな課題であるが、敷地の条件を読み込んでいくと自然と多様化していく、という説明がありました。担い手については、広井教授からは、今後、地域密着人口(子どもと高齢者、地域に関心の高い層)が増えていくことで、地域づくりに関心を持つ層が増えていくことに、担い手の増加を期待していると述べられました。また、三崎氏は、まちづくりにおけるキーパーソンの重要性に触れつつ、行政が、人さがしとその支援を地道にやっていく必要があると述べられました。
最後に木多SSI副長は、現代社会においては、自己組織的な状況をいかに社会に作り出していくか、構想力が重要になってくると、ソフト・ハードに渡る計画の必要性について述べられました。
議論は多岐にわたりましたが、全ての人にとっての居心地のいい居住空間を作り上げて行こうという思いが感じられる会でした。