サロン/シンポジウム

第5回SSIサロン開催報告
「SDGsとどう向き合うか 30年後の社会を見据えて」

<日時>  2019年1月15日(火)18時~21時30分
<場所>  大阪大学会館2F SSI豊中ラウンジ
<参加者> 31名
<プログラム>
・開会挨拶 堂目卓生  SSI長・経済学研究科教授
・話題提供 住田孝之  内閣府知的財産戦略推進事務局長
      「SDGsは価値デザインのヒント」
      土井健司  工学研究科教授
      「SDGsが導く都市像と共感形成」
      大久保規子 法学研究科教授
      「日本のガバナンスは何が問題なのかー目標16からの示唆ー」
      高山千弘  エーザイ株式会社 執行役員・知創部長
      「SDGsを目指した共感に基づく知識創造企業(活動)」
・ディスカッション(モデレーター: 栗本SSI副長・人間科学研究科教授)
・ダイアローグ(食事をとりながら)

「命を大切にし、一人一人が輝く社会」にいたるために、SDGsとどう向き合うか

2019年1月15日、大阪大学豊中キャンパスのSSI豊中ラウンジにて、第5回サロンが開かれました。参加者は31名でした。
今回のテーマは、「SDGsとどう向き合うか 30年後の社会を見据えて」です。SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略で、日本語では、持続可能な開発目標です。SDGsは、2001年策定のミレニアム開発目標(MDGs、Millennium Development Goals)の後継として2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。SDGs の基本理念は「誰一人取り残さない(No One will be left behind)」です。私たちSSIは、このSDGsを、「命を大切にし、一人一人が輝く社会」にいたるための重要な道標として位置づけ、SDGsに関連するプロジェクトを実施または支援します。SDGsが示す17のゴール、169のターゲットを、SSIの命を「まもる」、「はぐくむ」、「つなぐ」という視点に結びつけ、何のためのゴールやターゲットなのか、それらの達成の先にどのような社会を構築するのかを考えていきます。
今回のSSIサロンでは、SDGsとどう向き合うかについて対話を行う前提として、この分野に詳しく取組みを行われている4人の方から話題提供をいただきました。住田孝之氏(内閣府知的財産戦略推進事務局長)、土井健司氏(工学研究科教授)、大久保規子氏(法学研究科教授)、高山千弘氏(エーザイ株式会社 執行役員・知創部長)です。

 

価値デザインのヒントとしてのSDGs

まず、内閣府の住田孝之氏からは「SDGsは価値デザインのヒント」のお話がありました。
内閣府知的財産戦略推進事務局において、現在の環境変化や兆候をとらえたうえで予測される社会の将来像を検討された結果を示されました。それは、将来における価値とそれを生む仕組みとしての「価値デザイン社会」という姿であると述べられました。
価値デザイン社会は「夢×技術×デザイン=未来」で示され、それは3つの要素、すなわち①チャレンジする人・組織、②知的資産の柔軟な交流・共有による価値拡大、③世界に共有される価値・感性で支えられる。現代はオープンでデモクラティックなイノベーションが求められており、多様で包摂的な新しい価値をデザインして、共感を得て、社会に広げていく必要がある。このように新しい価値をつくるには「共感」が必要だが、共通言語としてのSDGsの達成を目指すことには共感が得られる。三方よしや自然との共生などは日本の文化であり、SDGsと親和性がある。SDGsと日本の強みをベースに新しい価値をつくり、そして共感を得る。これは日本にとって大チャンスである。このようなお話をいただきました。

持続可能な都市・国土づくりのための共感形成の重要性

次に、土井健司氏からは、交通を含めた都市デザインを主題に「SDGsと共感形成」というお話をいただきました。土井先生は、都市交通計画, 都市政策, 都市デザインのご専門です。この分野はSDGs では、目標9と目標11に関連しています。目標9は、「レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」で、目標 11は「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」となります。土井氏からは、以下のようなお話がありました。このようにSDGsの目標9、目標11でいう「持続可能な」(サステナブル)の前提はレジリエンス(回復する力)である。さらにその前提が安全であり、包摂、共感がそこで重要である。そういった考えを前提として「コンパクト+ネットワーク」という都市像・国土像を描いている。スマートシティの要素も踏まえ、いままでよりもコンパクトな都市という価値創造を、SDGsにより実現できないか。人を中心に社会像を考えたときに、交通を含む都市像は、サイバー空間を活用しながらインターモーダルにネットワークしていくスマートなものでありえる。
そういった移動を含めて創造的な都市像の実現方法として、土井氏は、共感的で共創的な活動を4Cの循環モデルを示されました。4CとはCompact、Connected、Compassionte、Creativeで、3つめは能動的な共感を意味するそうです。

SDGsと日本のガバナンスの課題

大久保規子氏からは、「日本のガバナンスは何が問題なのか-目標16からの示唆-」というお話をいただきました。SDGsの目標(Goal) 16に掲げられているのは、「持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」です。目標16の濃いブルーのロゴには、「平和と公正をすべての人に」と書かれています。
大久保氏は、SSIの基幹プロジェクト「SDGs指標の改善を通じた環境サステナビリティの促進」のリーダーをなさっています。「誰一人取り残さない」、このSDGs の基本理念を実現するために、「声なき声を反映させる」社会づくりに貢献することがプロジェクトの目的です。ここで中心的な課題となる目標16は、ガバナンスに関するもので、情報アクセス、参加型の意思決定、司法アクセスの保障等がターゲットとして掲げられています。
大久保氏は、「日本社会は持続可能なのか 問われるまちづくりのあり方」といったお話から始められ、持続的な発展(SD)とSDGs、SDと国内法、SDGsと日本の取組み、目標16と参加原則、リオ第10原則、オーフス条約、バリガイドライン、ラテン版オーフス条約、国連経済社会理事会統計委員会のSDGs指標、環境民主主義指標とその評価結果、さらには、大久保氏がかかわられた環境アセスに関するアジア7カ国の比較結果と日本の特徴・課題をご紹介なさいました。最後に、今後の展望として、「将来世代」や「自然」の権利利益をどのように政策決定に反映させるかという話をされました。

企業経営におけるSDGsと共感

エーザイの高山千弘氏からは、「SDGsを目指した共感に基づく知識創造企業(活動)」として、エーザイで取り組んでいる活動について紹介いただきました。エーザイでは、一橋大学名誉教授で世界的に著名な野中郁次郎先生が提唱された知識創造経営を何十年も実践して、すばらしい経営をつづけておられます。
この知識創造経営にはSECIモデルというものがあり、SECIは、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)の4つの言葉の英語の頭文字をとったものです。このうち共同化は、生業としていることの受益者やお客様、パートナーに共感することです。これをエーザイでは、もっとも重要な機会と考えているそうです。エーザイはアリセプトという認知症の症状を遅らせる薬などをつくられていますが、共同化、共感の場を社員に経験してもらうために、社員の方の1%の時間、年間で2、3日を、認知症の方々の施設やこどもの病棟などで、患者さまとともに過ごされています。この経験を通して、自分たちの仕事の意義を感じ、また患者さまご本人や家族、関わられる医療従事者の方々の立場にたった新しい気づきを得て、そこから新しい価値をつくっていく活動につなげておられます。

共感のある社会をデザインする

今回のサロンでは、共感というキーワードが話題提供者のみなさまから出され、質問・コメントは、「共感」キーワードでいっぱいでした。アダム・スミスは、著書『道徳感情論』で、人間の共感能力が道徳感情をつくっていることを述べました。今生きている私たち大人だけでなく、これから社会を担っていく子供たち、将来生まれる子供たち、森のたぬき、そして植物も含めた自然環境、地球に共感し、よりエシカル(道徳的)でサステナブル(持続可能)なすてきな社会をつくっていきたい、参加者の全員がそんな気持ちに包まれていたように感じます。まさに2050年のSSIの理念の実現に、光がさしこんだような場となりました。ご参加者のみなさま、ありがとうございました。これからともに進んでいきましょう。

(伊藤武志 社会ソリューションイニシアティブ企画調整室員)