<日時> 2026年7月30日(木)17:30 ~ 19:30
<場所> 大阪大学吹田キャンパス 銀杏会館3階 大会議室
<参加者> 35名
<プログラム>
● 開会挨拶
木多道宏/大阪大学社会ソリューションイニシアティブ長
● 話題提供
木多道宏/大阪大学社会ソリューションイニシアティブ長
「SSIのこれまでの歩みと今後の方針について」
竹村景子/大阪大学理事・副学長、社会価値デザイン機構長
「社会価値デザイン機構(SoVaDe)の取り組みについて」
田和正裕/大阪大学
「SDGsからPost SDGsに向けた大阪大学の役割」
SSIメンバー
「SSIのさまざまな取り組みの紹介」
● ざっくばらんトーク
- 新たな時代を見据えた節目のサロンの開催

2026年7月30日に、第22回SSIサロン「SDGsからPost SDGsに向けて――2030年を見据え、大阪大学とSSIのアクションを対話する」を、大阪大学吹田キャンパス銀杏会館にて開催しました。
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)は、2018年の設立以来、SDGs達成と社会課題解決を軸に、学内外の多様なアクターとの共創を進めてきました。2025年大阪・関西万博での「いのち宣言」の発表、2026年4月の社会価値デザイン機構(SoVaDe)の発足、同年5月の一般社団法人いのち会議の設立を経て、SSIは新たな段階を迎えています。
今回は、木多道宏SSI長の就任後、2026年度最初のサロンであり、そして2018年から継続して開催されてきたSSIサロンの新たな節目のサロンとして開催されました。これまでSSIを支えてこられた先生方に加え、人社系を中心に新たに共創を志す学内の先生方をお招きし、2030年のSDGs達成期限とその先のPost SDGsを見据えながら、大阪大学とSSIが今後どのような役割を果たしていくのか、今後のどのような連携の可能性があるのか、自由に意見交換を行う場となりました。
- 話題提供:SSIとSoVaDeが目指すもの

最初の話題提供では、木多SSI長より「SSIのこれまでの歩みと今後の方針について」報告が行われました。SSIは「いのちを大切にし、一人一人が輝く社会」の実現を目指して設立され、社会課題解決に向けた基幹・協力プロジェクトを計33件実施し、SSIサロン、研究者フォーラム、車座の会、地域・街づくりフォーラム、学生プロジェクトなど、多様な「場」をつくってきたことが紹介されました。こうしたプロジェクトと場づくりを通じて、いのちの理念に共感する共創ネットワークを広げ、その成果の一つとして、いのち会議の立ち上げと「いのち宣言」の発出につながったことが説明されました。
今後の方針としては、2025年大阪・関西万博および「いのち宣言」を一つの節目とし、2030年のPost SDGs、さらに2050年の「すべてのいのちが輝く社会」を見据えた活動へ展開していくことが示されました。具体的には、いのち会議やいのち宣言の発展的継承、共創ネットワークの拡張、「いのちジャーナル」の創刊、Post SDGsへの貢献が重要な柱として挙げられました。SSIは、社会価値デザイン機構を支える組織として、いのち会議、関西SDGsプラットフォーム、JICA等とも連携しながら、大阪大学の全研究領域の知見を集約し、ウェルビーイング概念を再構築し、Post SDGsに向けた提案を行うことを目指すことが表明されました。
続いて、竹村景子社会価値デザイン機構機構長より、2026年4月に発足した社会価値デザイン機構(SoVaDe)の紹介が行われました。社会価値デザイン機構は、人間性を尊重した社会構造変革に挑戦するため、大阪大学内の社学連携、社学共創、社学アウトリーチに関わる複数組織を束ねる組織として設立されました。通称の「SoVaDe(そばで)」には、多様なステークホルダーの「そばで」活動する組織でありたいという思いが込められています。また、機構の理念については、社会のあり方や人々の考え方が今後も変化し続けることを踏まえ、固定化された理念ではなく、社会の変化に寄り添いながら更新していく「暫定版の理念」として位置づけられていることが説明されました。
三人目の話題提供者であるSSIの田和正裕教授からは、SDGsからPost SDGsに向けた国際的議論と、大阪大学の役割について話題提供が行われました。現行のSDGsは2030年に達成期限を迎え、2027年のSDGsサミット以降、次期国際目標に向けた議論が本格化すると見込まれています。SDGsの策定過程では、各国政府や国際機関が知的ヘゲモニーをめぐって議論を重ね、欧米では大学やシンクタンクが政府の主張を学術的に支えてきました。一方、日本では、政府やJICAの議論を体系的に支える研究拠点が十分に整備されていないという課題が指摘されました。その上で、大阪大学は、日本最大規模の総合大学として、知見、研究力、産学連携、国際ネットワークを総動員し、政府やJICAと連携しながら、Post SDGsに向けた理論形成、政策提言、国際発信、教育研究への還元を担う可能性があることが示されました。
- SSIのこれまでの活動:基幹・協力プロジェクトの紹介

その後、SSIの基幹・協力プロジェクトの紹介が行われました。防災・宗教施設・情報技術に関わるプロジェクトでは、寺社や学校など地域にある資源を再発見し、災害時の通信、避難所データベース、防災システムの社会実装を進めていることが紹介されました。アフリカの都市・スラムを対象とするプロジェクトでは、貧困地域を外部から排除するのではなく、住民自身が地域に関心と誇りを持ち、自律的に市街地を改善する社会空間システムの構築が目指されています。
また、超高齢社会をめぐるプロジェクトでは、認知症の問題から出発しつつ、一人ひとりの生活をどう支えるか、楽しく生きることや人と人とのつながりをどうデザインするかへと関心が広がってきたことが共有されました。子ども食堂・子どもの居場所に関わるプロジェクトででは、コロナ禍の一斉休校を契機に、家庭にいることが困難な子どもたちの状況を把握しようとしたことから活動が始まり、大阪の子ども食堂ネットワークの形成や、子どもの居場所が自己肯定感や共感に与える影響の実証研究へと展開していることが報告されました。
さらに、生物多様性保全のプロジェクトでは、豊中キャンパスに生息するヒメボタルや絶滅危惧植物の調査・保全、キャンパス内の池の外来種対策など、大学キャンパスを地域の生態系資源として捉える取り組みが紹介されました。ジェンダー公正のプロジェクトでは、大学と企業の女性研究者・管理職・起業家が相互に学び合うネットワークの必要性と、万博のレガシーを継続的なジェンダー平等推進へつなげる取り組みが示されました。
グローバル理解と情報アクセスに関わるプロジェクトでは、報道されにくい世界の課題を発信するGlobal News Viewの日本語版・英語版の展開や、国連安保理決議に関するデータベース構築の取り組みが紹介されました。教育プロジェクトでは、「借り物の言葉」ではなく、自らの経験に根ざした言葉を他者との対話を通じて公共の知へ育てる実践、さらに「わからなさ」を問いとして保持し、自分の言葉へ育てていく教育の可能性が示されました。
新たな防災プロジェクトでは、大災害に備える活動そのものが、人々のつながりを回復し、現代社会を豊かにする可能性を持つことが強調されました。福祉避難所の模擬開設や、要配慮者の受け入れを地域住民とともに考える社会実験を通じて、災害時の支援を単なる保護ではなく、互いに役割を持ち、尊厳を回復する場として捉える視点が提示されました。また、若者と2050年の未来を構想するプロジェクトでは、未来を予測するのではなく、自らシェイプするものとして捉え、若者がビジョンを設定し、課題を整理し、研究開発・社会実装・発信を通じて仲間を増やしていく取り組みが紹介されました。
- ざっくばらんトーク:SSIへの期待と今後の可能性について

「ざっくばらんトーク」では、参加者からSSIや社会価値デザイン機構への期待が語られました。まず、多くの人を惹きつけ、巻き込み、ハブとなる力がSSIの重要な価値であるとの指摘がありました。社会課題解決型の活動では、一人の研究者だけではできないことが多く、学内外の多様な人や組織をどう惹きつけるか、そのノウハウや場づくりの力そのものが、SSIの重要な実績であるとされました。
また、ミュージアム・リンクスや中之島芸術センターの立場からは、社会課題への取り組みを「大変な課題」としてだけでなく、楽しさ、感性、芸術、展示、市民との対話を通じて自然に広げることの重要性が指摘されました。社会課題は芸術を生み出す源泉にもなり得るという視点は、SSIの活動を展示や表現へ広げる可能性を示すものでした。
ELSIや公衆衛生の立場からは、福島事故やコロナ禍の経験を踏まえ、社会課題が複雑に重なり合う状況の中で、どの課題を優先するのか、そもそもどのような社会を目指すのかという価値判断の方法論が必要であるとの問題提起がありました。単に人々の声を聞く、アンケートやインタビューを行うだけでは、目指すべき社会像が自動的に導かれるわけではありません。達成すべき価値とは何かを、SSIや社会価値デザイン機構の中で議論していくことの重要性が示されました。
さらに、人文社会科学系の研究科・部局からは、SSIの活動をまとまって聞くことで、工学、医学、人間科学、経済学などの研究者が、想像以上に社会課題に深く関わっていることへの驚きと期待が語られました。多言語・多文化共生、外国につながる子どもの教育保障、出自言語の保障、国際日本学との連携、AI時代の大学教育、人間中心の社会設計など、今後SSIや社会価値デザイン機構と接続し得る新たなテーマも示されました。
また、学際研究や社会共創研究の評価も重要な論点となりました。社会課題解決型・学際型の研究は、既存の専門分野の評価基準やジャーナルランキングでは十分に評価されにくい面があります。そのため、研究者の内発的動機だけに依存するのではなく、学際的・社会共創的な取り組みを適切に評価し、支える制度やインセンティブを整える必要性が指摘されました。
こうした参加者の声を受けて、堂目卓生前SSI長から、いのち宣言は単なる理念や願望ではなく、企業、NPO、行政、研究者等が執筆したアクションプランに根ざして生まれたものであり、実行主体と実践の裏付けを持つ宣言であることが改めて説明されました。2025年大阪・関西万博をもって終わるのではなく、一般社団法人いのち会議を立ち上げ、2030年までの計画を立て、大学内外と連携しながら活動を継続していく方針が示されました。
- まとめと展望
サロンの締めくくりとして、木多SSI長から、今後のSSIは「大学の組織の中をつなぐ組織」としての役割に徹していくとの決意が述べられました。社会価値デザイン機構の中の各組織、部局、センター、研究グループ、個々の研究者の間をつなぎ、そこから新しいものを生み出していくことがSSIのミッションであるとされました。また、人を惹きつけるものは何かという問いに対して、「いのちとは何か」「社会価値とは何か」といった、簡単には解けない大きな問いを共に問い続けることこそが、人を惹きつけるのではないかという考えが示されました。
今回のサロンは、SSIがこれまで蓄積してきたプロジェクト、場づくり、共創ネットワーク、いのち宣言を踏まえつつ、社会価値デザイン機構のもとで、Post SDGs、ウェルビーイング、いのちジャーナル、学際研究評価、若者・学生参画、多文化共生、AI時代の教育、芸術・展示との接続などへ展開していくための出発点となる場でした。今後のSSIには、個別プロジェクトを支えるだけでなく、現場から生まれる問いや経験を束ね、学術知として磨き、社会へ還流する「つなぎ手」「編集者」「場のデザイナー」としての役割が期待されていることを改めて感じられました。

