<日時> 2025年9月18日(木)17:00~19:30
<場所> 大阪大学豊中キャンパス 大阪大学会館 SSI豊中ラウンジ
<参加者> 30名
<プログラム>
● 開会挨拶 堂目卓生/大阪大学社会ソリューションイニシアティブ長
● 話題提供
Graham Budd/Faraday Institute for Science and Religion
Cara Parrett/Faraday Institute for Science and Religion
堂目卓生/大阪大学
Eckhard Hitzer/International Christian University
細井宏一/大阪大学社会ソリューションイニシアティブ招へい教授
● ディスカッション
2025年9月18日に第21回SSI サロン「真と善と『いのち』:社会課題解決における科学知識の役割」(Truth, Goodness, and Inochi: The Role of ScientificKnowledge in Solving Social Issues)をSSI豊中ラウンジとオンラインのハイブリッドで開催しました。今回のサロンはGraham Budd所長らケンブリッジ・ファラデー研究所のメンバーの来日に合わせて開催され、社会課題解決における科学知識の役割について、特に宗教や哲学など人文社会科的知識について検討する場として設定されました。今回のサロンは海外からの参加者も多く、英語で行われ、国や専門分野の壁を越えて豊かな議論が展開されました。
開会挨拶では堂目卓生SSI長がSSIといのち会議の活動について紹介され、ファラデー研究所のメンバーも含めて国内外の多数の協力者とともに「いのち宣言」を作成しており、大阪・関西万博で世界に向けて発表
する予定であり、本日のサロンもそのプロセスの重要な一部であることが説明されました。話題提供ではまず、ファラデー研究所所長のGraham Budd氏が、“いのち and Artificial Intelligence: How Can AI help to Support the Flourishing of Society?”というタイトルで報告されました。Budd 氏は「AI と人間の本
質的な違い」を理解することの重要性をテーマに、現在のAIの利用が済的利益や国家的競争に偏り、人間の尊厳や「いのち」の価値を脅かしていると警鐘を鳴らしました。AI は膨大なデータに基づく統計予測システ
ムであり、倫理や価値を理解出来ないことを指摘した上で、「人間に代わる知能」ではなく「人間を支える支援的知能(assistive intelligence)」として位置づけ、そのためには科学・哲学・神学を横断する研究に基づ
く「いのちの哲学」を構築することでAIの倫理的活用の道を模索していかなければならないと説明し報告を締めくくりました。2人目の報告者であるファラデー研究所のCara Parrett氏、“Interdisciplinary Education: Empowering Young People to Engage Holistically with Life, Big Questions and Global Challenge” のタイトルで、科学教育における「学際的思考」と「価値の教育」の重要性につ
いて報告されました。分野・科目ごとに分断された「Monodisciplinary」な教育を打破するためにも、こどもに環境問題の様に複合的な社会課題について総合的に考える機会を与える必要があるとし、ファラデー研究所で行っている対話的教育の実践が紹介されました。複数の分野横断的な科学知識を身につけるだけでなく、課題に関わる人びとの持つ価値観・信仰・文化的背景について学ぶことを通じて共感や批判的思考力を養うことが、複雑化する社会課題の解決には不可欠であると示されました。3人目の話題報告者の大阪大学の堂目卓生氏は、“Toward a Mutual–Support Society Rooted in Inochi: Vision, Methods, and Practice”のタイトルで共助社会の実現について報告されました。「支援する/される側」
が簡単に入れ替わる現代社会においては、「助ける/助けられる」の関係が一方向に固定化されず、両者がお互いに助け合う共助の理念を中心に据えることが重要だと説明されました。その上で、複雑な社会課題を解決するためには科学的手法だけでなく、哲学・芸術・宗教など「メタサイエンス(意味の科学)」的アプローチが重要であり、「美」と「感動」に基づく意志が行動の原動力であり、最終的に「聖性(sacredness)」の探究へといたることを理解する必要があると説明されました。そしてこうした考え方が「いのち会議」・「いのち宣言」を支えるものであり、国際的に広めていかなければならないとして報告を締めくくられました。4人目の報告者の国際基督教大学のEckhard Hitzer氏は、“The Hidden Beauty of Gold” のタイトルで数学・結晶学・美学の融合的視点から報告されました。Hitzer 氏はまず、金の結晶構造(面心立方格子)の対称性を例にして、物質の対称性がもたらす美や秩序を「科学と芸術の接点」として提示されました。その上で、結晶構造の理解を視覚的・動的に学ぶソフトウェアの開発事例に触れつつ、「自然界の構造美の背景には数学的調和がある」と自然・科学・美学を貫く視点を示されました。
最後の報告者であるSSI 招へい教授の細井宏一氏は、“Creating the circular economyvとしたタイトルで、材料科学の視点を切り口にして、循環型社会の構築について報告されました。細井氏は、資源循環を支える
基本原理として「Joining(接合)」と「Separating(分離)」の統合の考え方を提示し、これを物質レベルだけではなく、社会システムのスケールまで拡張して適用する必要性を論じられました。さらに、自然科学だけではなく、社会科学や人文科学とも相互連携させた総合知によって、循環型社会の構築が可能になることを説明されました。そして、人類が知解や理性による総合知を活用して、その社会を健全に発展させていくためには、
宗教や倫理といった絶対的な価値による判断が、その必要十分条件であるとして、論考を締めくくられました。ディスカッションではAI と人間の関係、教育における学際性、科学と価値などの論点について活発な議論が行われました。特にAIの社会的応用のあり方について議論が白熱し、AI を支援技術として活用しつつ、人
間の思考力や創造性を高める方法を模索することの重要性がBudd 氏やParrett 氏から示されました。また、学際的教育・研究の実現に向けては、学校制度改革にはどうしても時間がかかることから、制度改革と並行
して、教師改革を通じて学際的・価値志向的教育を普及していくことが不可欠という意見がでました。そして、人間の脆さや感動の尊さこそがAIと人間について考える上で重要であり、だからこそ「美や聖性といった普遍的価値」は専門分野や領域を超える「共通言語」になりうるのであり、科学・倫理・宗教・芸術を横断する「いのちの哲学」を構築・共有していくことが目指されるべきであるとして会が締めくくられました。今回のサロンではSSI やいのち会議の活動を通じて共有されてきた「いのちの理念」の土台を支える「いのちの哲学」のあり方について、国や分野を超えて議論出来たことに大きな意義がありました。こうした場を通じて、具体的なアクションプランに基づく「いのち宣言」と共に、「いのちの哲学」を世界中に広く共有していくことが重要だと再確認する場になったと思います。

