車座の会

【開催報告】第26回SSI車座の会(いのち会議AP平和・人権)(2025年2月13日(木))
「『ビジネスと人権』から問い直す、一人ひとりの尊厳といのちの平和 —国連指導原則(UNGPs)の理解と、幸福のための共通言語化へ—」

<日時>  2025年2月13日(木)18:00〜20:30
<場所>  大阪大学中之島センター+Zoom
<参加者> 52名
<プログラム>
● 開会挨拶 堂目卓生/大阪大学社会ソリューションイニシアティブ長
● 話題提供 若林秀樹/特定非営利活動法人国際協力NGOセンターJANIC事務局長
● ディスカッション

 

 2025年2月13日に大阪大学中之島センター5階いのち共感ひろばにおいて、いのち会議市民部門の平和・人権アクションパネル、および大阪大学SSI 車座の会「『ビジネスと人権』から問い直す、一人ひとりの尊厳といのちの平和—国連指導原則(UNGPs)の理解と、幸福のための共通言語化へ—」が開催されました。ハイブリッド形式で開催された本会には対面で20名、オンラインで32名の計52名が参加されました。
 最初に堂目SSI 長が挨拶を行い、SSI が掲げる「助けを必要とするいのち(vulnerable)を中心に据えた共助社会」において、人権は単なる法的概念ではなく、全てのいのちが輝くための不可欠な基盤だと説明されました。2025年の大阪・関西万博に向けたソフトレガシー「いのち宣言」を世界へ発信していく中で、現代社会が直面する平和と人権の課題、特に企業活動との深い関わりを多角的に考える場となることに期待すると挨拶を締めくくられました。

 続いて、若林秀樹氏から話題提供が行われました。若林氏は企業、外交官、国会議員、シンクタンク、そしてNGO という極めて多彩な経歴を持つ専門家です。
 若林氏は冒頭、参加者に対し、「人権とは何かを自分の言葉で説明できるか」という根源的な問いを投げかけました。現代では、資源開発から衣服、スマートフォンといった身近な製品に至るまで、グローバルな供給網の背後には深刻な人権侵害のリスクが潜んでいます。若林氏は、人権を単なる抽象的な理念ではなく、「自己実現・幸福のために必要な権利・条件・環境」と再定義しました。この視点に立つことで、人権はビジネスを含む全てのセクターにとっての「共通言語」へと変わります。
 その上で、若林氏は2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」について説明しました。UNGPs では国家の「人権保護義務」に加え、企業の「人権尊重責任」が明確化されました。この流れを受け、日本でも人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の導入が進んでいますが、若林氏はその「進め方」に警鐘を鳴らしました。
 具体的には「閉鎖的・秘密裏のサイクル」に問題があり、日本では完璧な方針ができるまで動かず、内部だけで完結させようとする姿勢が強く、それがかえって社会的な批判(炎上)を招く原因となっていると説明されました。この課題を解決するためにはオープンなサイクルへ転換し、ステークホルダーを巻き込み、行動しながら改善を積み重ねていく姿勢こそが、今の日本企業に求められていると主張されました。
 また、2022年の国連総会で「持続可能な環境と人権」の結びつきが強化されたように、気候変動への対応もまた、人権の延長線上にある喫緊の課題であることが示されました。平和を単に「戦争がない状態」と捉えるのではなく、多国間主義が機能不全に陥っている現状や、自由な言論空間(市民社会スペース)の後退と結びつけて考える必要があります。若林氏が所長を務める「THINK Lobby」では、政策を通じて社会を変える「ロビーイング」の文化を日本に確立しようとしています。

 話題提供後に行われたディスカッションでは、参加者から、企業活動と人権侵害の線引き、消費者としての行動がどこまで社会を変え得るのか、移民・難民をめぐる人権課題、日本社会における労働環境や差別の問題など、具体的で実践的な質問が数多く寄せられました。若林氏は、ボイコットや投資判断といった消費者行動が一定の影響力を持ち得ることを認めつつも、即効性を過度に期待するのではなく、対話と改善を積み重ねていくプロセスが重要であると述べました。また、外部からの批判だけではなく、自ら学び、問い続ける姿勢が社会の変化につながるとの見解が示されました。
 こうした議論を通じて、「ビジネスと人権」は特定の専門家や活動家のみが扱うテーマではなく、市民一人ひとりの選択や関与と深く結びついた課題であることが改めて確認されました。若林氏は「いのち宣言」においても、市民社会の活動空間を守ることの重要性など、人権を基盤とした行動の方向性をアクションプラン※1の形で示しており、今回の会での議論とも重なる視点が見られます。
 人権を「幸福のための条件」として捉え直し、政府、企業、そして市民一人ひとりが対話を通じて自律的な文化を醸成していくことが重要です。今回の会は、平和で持続可能な社会の実現に向け、私たちが自分の言葉で人権を語り始めるための大きな一歩となったといえるでしょう。


※1 いのち宣言アクションプラン2–2–1:「オープンで民主的な社会の基盤である、市民社会の自由な言論・活動のための社会空間を守ろう」https://inochi-forum.org/declarationarticles/2-2-1/