企業、大学、自治体などでは、長期的かつサステナブルな組織の成長を実現し、人権尊重という社会的責任を果たすためにジェンダー公正、ダイバーシティ、インクルージョンが取り組まれています。企業活動が人権に与える影響に係る「国家の義務」や「企業の責任」を明確にした「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、2013年には、各国で行動計画が策定され、2020年10月には、日本でも「ビジネスと人権」に関する行画(2020-2025)が策定され、「女性活躍の推進」「女性活躍推進法の着実な推進」を企業に求めています。
<プロジェクト発足の背景>
日本政府が2020年に目標としていた「指導的地位の女性割合30%」は、未達のままで、2020年代の可能な限り早期に達成するよう先送りしました。また、世界経済フォーラムが公表した「The Global Gender Gap Report 2024」(World Economic Forum 2024)によれば、日本のジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index、以下GGI と表記)の順位は、調査対象である146 カ国中118 位で、政治、経済分野で低迷が続いています。大阪商工会議所等の2022年度の大阪市・大阪商工会議所の調査(企業における女性活躍推進に関する調査)では、大阪府内の企業の34.5%が「女性の管理職はいない」と回答するなど、ジェンダー平等には、ほど遠い現状があります。
1986年の男女雇用均等法や1991年の育児休業法の成立以前の1980 年代に比べると、結婚を機に退職する女性は減ったものの、出産・育児期に退職する女性は依然多い。女性のキャリアとジェンダー公正の壁があり、その結果、女性の管理職は少なく、上位の役職ほど女性の割合が低いのが現実です。リーダーシップ能力やスキルを獲得する上で勤続年数の低い女性に不利であること、リーダーシップ能力が男性に有利な資質として評価されている可能性があること、女性の比率が少ないことで情報を得にくいこと、女性の採用や昇進にアンコンシャスバイアスが負の影響を与えていることなどが課題になっています。
本研究代表者は、2022年に大阪商工会議所と大阪サクヤヒメSDGs研究会が行った「リーダーシップとジェンダー公正に関するアンケート調査」を分析し、論文「女性のキャリアジェンダー公正の壁―働く男女の意識にきるジェンダー・バイアスー」にまとめました。その中で、家庭内でも役割分担意識がいまだに根強く浸透し、仕事と家庭との葛藤の末に女性のワーク・ライフ・バランス崩壊により、女性の離職が起こることがわかりました。共働きの男性の方が専業主婦を持つ男性よりも、家庭と仕事の両立に対する葛藤が低減されており、男性の家庭の関与で時間葛藤が生じたとしても意欲や生活満足度に結びつくとされています。関西全域で地域の経済活動に意欲や能力の高い労働力の確保を考えるのであれば、特に大阪市近郊地域においては、子育てと女性就労を同じ枠組みでとらえ、男性の家庭への関与を高める支援政策を用意することが望まれることを結論づけました。
<主な共同研究機関の紹介>
今回の主な共同研究機関である「大阪サクヤヒメSDGs研究会」は、活躍する女性リーダーをたたえるために、2016年度から2020年度までに行われた大阪商工会議所主催の「大阪サクヤヒメ表彰」、2022年度より新たに開始しました「ブルーローズ表彰」受賞者有志を中心に、2018年から活動してきました。「万博共創チャレンジ」の目標として、次の3つを掲げて活動しています。第1に、男女平等のもと、公正な機会が与えられる社会を目指す。第2に、女性リーダー比率を2030年までに30%に引き上げます。第3に、女性リーダーの登用と産学官連携の促進により、多様な視点からイノベーションを創発します。
これまで、主に次の取り組みを行ってきました。一つが、国際女性会議で、2020年から開催しており、国際的な視点で、ジェンダー平等やリーダーシップ、AI・デジタルに関わるテーマで開催してきました。二つ目に「サクヤヒメと語るキラリ★カフェ」ですが、リーダーと一般参加の女性たちとが企業風土や働き方に関わる様々なテーマで語り合うもので、これまでに12回開催してきました。2021年からは、南近畿の大学の女性教員と連携し、女子学生を対象にした企画も開催してきました。また、サクヤヒメ受賞者などのロールモデルを、ホームページで紹介しており、現在までに38人のインタビューを掲載しております。一度紹介した方のその後を追ったインタビュー企画も始めています。最後に「まちづくり」では、まち歩きや見学などを通して、女性の視点でまちづくりについて語り合うカフェを開催してきました。今年3月の「国際女性デー」には、3月8日の「ブルーローズ表彰」表彰式に合わせて、大阪城天守閣や大阪市役所本庁舎をはじめ、8カ所で、ミモザカラーのライトアップを行いました。女性たちのエンパワメントとネットワーキングのために、社会における女性の役割の重要性とその貢献に光をあてることを目的としています。
<趣旨・内容>
同研究会は、これまでの企業・大学、自治体、海外政府機関との連携の強みを生かして、SDGsの3つの課題、「ジェンダー」、「働き方・経済成長」、「まちづくり」の解決に向けた共創を行っています。大阪・関西万博をきっかけに、街なかで生まれるイベントやプロジェクトを発信する大阪・関西「まちごと万博」Webサイトにも登録し、情報発信を始めております。
今回、万博のウィメンズパビリオン「WA」イベントに申請中で、これまでの6回の国際女性会議の集大成として、世界の企業・大学の女性リーダーたちとネットワークをしながら、講演や座談会、提言に向けたディスカッションなどを行う予定です。また、これまでの国際女性会議等での議論のキーワードをジェンダー公正に向けて、①職場環境、②人的資本、③雇用、④制度・コンプライアンスの4つの側面に分類し、海外の女性リーダーと対話をしながら、提言としてまとめる予定です。
同研究会では、毎月定例会を開催しており、女性起業リーダーと研究者が共に講演を企画・運営することで、知識、情報、経験を共有し、スキルアップを図り、共同で目標の達成プロセスを実践することを通して、ビジネスや研究のヒントを得てきました。ロールモデルの体験や事業紹介、スタートアップ企業や研究者による講演など、内容は様々です。業種や役職、年齢が異なる女性が交流することにより、様々なアイデアやスキルアップにもつながってきました。2回のアンケート調査を実施し、提言に向けたエビデンスも得てきました。
参加者のキャリア育成に効果的な方法として、「マスターマインド・グループ」という概念があります。ナポレオン・ヒルが1937年に出版したベストセラー「Think and Grow Rich」の中で初めて紹介したもので、同じ目標に向かう2人以上の人が「調和の精神をもって知識と努力を調整すること」と定義されています。グループの集合的な知識と経験が、個人が単独で働くよりも効率的かつ効果的に成功を収めるのに役立つと考えられており、起業家、ビジネスオーナー、専門家が目標を達成するためのツールとして世界的に人気を博しています。メンターシップのための女性企業リーダーと大学研究者の協働的なネットワークである「大阪サクヤヒメSDGs研究会」は、実践モデルともいえます。大阪商工会議所は、「活躍する女性リーダー表彰」を継続開催し、女性のリ-ダー人材を輩出しております。その有志が同研究会に参加することで、持続可能なネットワークの構築が可能となっており、大学の研究者(女子学生を含む)がそれに参加することで、さらに好循環が生まれます。
さらに、企業の女性リーダーが、アカデミアの研究者・技術者等(女子学生を含む)と連携することで、理論やエビデンスに基づく、最新の知識やアイデアが得られ、新たな事業を提案・開拓することができます。また、アカデミアの研究者・技術者等(女子学生を含む)にとっても、企業の女性リーダーと連携することで、多様な視点が育まれ、研究領域が広がり、実践的な研究が可能となります。さらに、女性を代表とした新たな共同研究の促進にもつながります。
提言の策定では、協働で実施することにより、DEIに基づく価値を共有することができ、イノベーションや持続可能で公正な社会づくりへの変革に向けて、より包括的・統合的な提言が可能になります。
「多様性」は、イノベーションを生む力になると言われています。今回構築する「産学官共創ネットワーク」は、様々なバックグランド、業種や専門分野を持つ同研究会メンバー等から構成されます。それぞれの専門的な力や独自の洞察力が加わることで、イノベーションを生み出す原動力となります。独自の視点や画期的なアイデアを生み出すだけでなく、その親密な「関係性」の継続は、集団だけでなく、個々の精神面を含めた成長を促します。さらに、同ネットワークでは、教育・研究における「ジェンダードイノベーション」も探求します。この概念は、性別分析や性の多様性を取り入れ、イノベーションを創り出すことで、社会やビジネスに貢献するものとして注目されており、新たな研究開発を促進します。
研究協力者(学内)
島岡 まな(法学研究科教授、ダイバーシティ&インクルージョンセンター長)
伊藤 武志(社会ソリューションイニシアティブ教授)
田和 正裕(社会ソリューションイニシアティブ教授)
木本 麻希子(ダイバーシティ&インクルージョンセンター特任助教)
研究協力者(学外)
小谷 美樹(積水ハウス株式会社技術管理本部エグゼクティブ・スペシャリスト)
貴島 清美(株式会社ディプロム・グローバルソリューション代表取締役)
藤江 洋子(株式会社フジプラス営業本部デジタルサポートグループ部長兼ブランドコミュニケーション部長)
渕上 千夏(株式会社関電システムズ人財部エクゼクティブ)
貞岡 洋子(カナデビア株式会社 安全部 担当部長)
清水 朋子(大阪サクヤヒメSDGs研究会) ほか
共同研究機関(自治体等を含む)・連携機関
大阪サクヤヒメSDGs研究会
大阪大学 ダイバーシティ&インクルージョンセンター
大阪商工会議所
大阪商工会議所中央支部女性交流会(LIC)ほか
- 研究キーワード
- ジェンダー公正、ジェンダー・ギャップ、ダイバーシティ、インクルージョン、 リーダーシップ、アンコンシャス・バイアス、イノベーション、Well-being
- 社会課題
- ジェンダー、働き方・経済成長、まちづくり、Well-being