基幹プロジェクト

人獣共通感染症の社会的要因
ー近代における生命といのちのつながり

Societal Factors of Zoonotic Infections: Chains between Lives of Human Beings and Creatures in Modernity

【 研究代表者 】住村欣範 グローバルイニシアティブ機構准教授

20世紀の終わりから増え続けている新興・再興感染症のほとんどが人獣共通感染症です。人獣共通感染症の病原体には、ウイルス、細菌、真菌類、寄生虫、プリオンのようなタンパク質などがあります。これらの感染症が、急速に新興・再興している根底には、近代以降における資本と科学技術を結び付けた産業社会の形成、人間社会の変化、人間と自然の関係の変化、そして、同時に生み出された温暖化をはじめとする現象が複合的に関与していると考えられます。

人獣共通感染症が引き起こすさまざまな社会課題には、ウイルス感染拡大とヒトへの感染を防ぐための家畜の「大量殺処分」、そのことによるフードロスや動物に対する倫理の問題だけでなく、いのちといのちのつながりを非対称な形で切断することによって引き起こされる、より根本的な問題を内包しています。また、動物に治療以外の目的で抗生物質を使用することで生じる多剤性菌の問題が、ブーメラン効果として、人間の感染症の治療を難しくし、近い将来多くの人が死亡することが予測・警告されるなど、極めて重要なグローバル課題でもあります。人間とその他の生物の間におけるいのちの非対称性は増大する一方で、いのちの連鎖と生物の多様性を尊重するための有効な認識は確立されていません。

本プロジェクトでは、人類にとって最重要な課題の一つとなっている人獣共通感染症について、ウイルスについては鳥インフルエンザを、細菌については薬剤耐性菌を主な対象とします。そして、その出現と拡散の重要な要因である食肉、特に近代的な家畜の生産と消費の分野について、生物がもつ環世界(ユクスキュル)的な視点から考察し、人間の命とそれ以外のいのちとの非対称な関係性を問い直すことをめざします。

具体的には以下のことを行います。

1.2つの感染症の例から、日本とベトナムの発生と蔓延に関わる社会的要因を、地域間と病原体間、媒介する動物間で比較検討します。
2.感染症を、それぞれの生物種が構築する独自の世界である環世界からとらえ直します。
3.人間の視覚依存的な「環境」を相対化し、他の生物の環世界に対する理解に基づいた、家畜伝染病の予防システムを、人工知能を用いて構築します。
4.近代的な畜肉の生産を中心的な題材として、人間の生命と他の生物のいのちの関係性を問い直し、いのちの連鎖とその持続性に関する有効な認識に基づいた政策提言を行います。

 

研究協力者

(学内)
住村欣範(グローバルイニシアティブ機構准教授)
三宅淳(工学研究科応用生物専攻特任教授)
藤山和仁(生物工学国際交流センター教授)
ス・チンフ(グローバルイニシアティブ・センター招へい教授)
今村都(経済学研究科博士後期課程)

(学外)
平田收正(和歌山県立医科大学薬学部教授)
山崎伸二(大阪府立大学生命環境科学研究科獣医学専攻教授)
中山達哉(広島大学生物生産学部准教授)
チャン・ダイ・ラム(ベトナム科学技術アカデミー熱帯技術研究所所長・教授)
グエン・スアン、チャッキ(ベトナム農業学院副学長・教授)

 
共同研究機関
一般社団法人「北の風・南の雲」

研究キーワード
人間生物人獣共通感染症新興・再興感染症ウイルス薬剤耐性菌環世界いのちの連鎖
社会課題
家畜伝染病の拡大とそれに伴う大量の殺処分(家畜、いのちの断絶)家畜伝染病から人獣共通感染症に展開するリスク(公衆衛生)多剤耐性菌の蔓延(公衆衛生、創薬)モノとしての動物(世代間の連続性なき飼育、生命の非対称)いのちの連鎖に関する有効な認識の確立(生物多様性の減衰)