車座の会

【開催報告】第34回 SSI車座の会/いのち会議AP食農業(2025年10月16日(木))
「マネーバイアスが分断する命のつながりを取り戻すには —日本企業とイギリス・ブライトン市での「循環畑」の取り組みと共に—」

<日時>  2025年10月16日(木)18:00~20:30
<場所>  大阪大学中之島センター+Zoom
<参加者> 20名
<プログラム>
● 開会挨拶 堂目卓生/大阪大学社会ソリューションイニシアティブ長
● 話題提供 吉原史郎、吉原優子/NOL共同創業者
● ディスカッション

 

 2025年10月16日に大阪大学中之島センター5階いのち共感広場において、いのち会議市民部門の食・農業アクションパネル、および大阪大学SSI 車座の会「マネーバイアスが分断する命のつながりを取り戻すには—日本企業とイギリス・ブライトン市での「循環畑」の取り組みと共に—」が開催されました。ハイブリッド形式で開催された本会には対面で14名、オンラインで6名の計20名が参加されました。
 冒頭の挨拶で堂目SSI 長は、SSI、いのち会議の理念である「助けを必要とするいのちを真ん中に置く社会」について説明されたました。経済学の概念である「マネタリー・イリュージョン(貨幣愛)」について紹介し、お金を富そのものと錯覚することで、私たちが本来大切にすべき命のつながりや社会的関係が見えにくくなっている現状について指摘されました。
 さらに、今回のテーマであるマネーバイアスについて触れられ、その影響が、単に経済的格差や効率性の問題にとどまらず、人が他者や自然をどのように「見るか」という認識の枠組みにまで及んでいると述べました。お金によって価値が可視化されやすい社会では、数値化しにくい関係性や時間、ケア、信頼といった要素が周縁化されがちになります。その結果、助け合いや共生といった営みが「非効率」なものとして扱われ、社会の中で評価されにくくなる構造が生まれていると指摘しました。こうした問題意識は、今回の回の全体を貫く理論的な軸となりました。
 続いて話題提供者である吉原史郎氏と吉原優子氏から、「循環畑」の取組について紹介されました。まずは吉原史郎氏が、自身のリゾートホテル経営や金融分野での経験から、「問題は金、解決策も金」という強力な思い込み(マネーバイアス)が、人生の熱量やいのちのつながりを気づかぬうちに分断していると指摘しました。例えば、災害復興や企業の再建において、巨額の資金を投入しても再生が進まないケースがあります。それは「お金が人をつなぐのではなく、人が人をつなぐ」という本質が忘れられているからだと説明されました。
 吉原史郎氏は、経済的な「お金持ち」という軸に加え、自然や友人との豊かな関係性を指す「おつながり持ち」という視点の重要性を提唱しました。このマネーバイアスを超え、失われた繋がりを暮らしの中で取り戻す実践として紹介されたのが「循環畑」で、吉原優子氏に話題提供のバトンを渡されました。

 循環畑の生みの親である吉原優子氏は、「なぜ山の植物は肥料も農薬も水やりもないのに元気なのか」という問いから活動を始めました。その答えは、①深く張った根、②落葉が微生物に分解される循環、③多様な植物の共生にありました。
 循環畑では、雨水と朝露だけで野菜を育て、収穫の半分は人間がいただき、残りの半分は虫や土に還します。この活動は単なる家庭菜園ではなく、「肩書きのないいのち」として他のいのちと触れ合い、自分が生き物であることを取り戻すプロセスです。
 続いて、吉原優子氏は以下の3つの事例を紹介されました。まず、神奈川県藤沢市では、砂質の土壌にトマトやイチゴを植え、3年かけてリビングの延長のような豊かな空間へと再生させた事例が紹介されました。次に、岡山県・鳥取県で、耕作放棄地を活用し、イノシシやシカと「食べ分け」をしながら共生する「循環水玉村」や、井戸水だけで暮らす拠点を構築していると説明されました。最後にイギリス・ブライトンでは、市民農園(アロットメント)で、自分の体温でトマトの種を発芽させる試みなどを通じ、現地の仲間と「命のエネルギーを取り戻す」活動を広げている事例が示されました。
 こうした事例をふまえた提案として、排泄物を資源として土に還す取り組みが紹介されました。自分たちの排泄物を「パワーウォーター(尿)」や「パワーソイル(便)」と呼び、適切な処理を経て大地に戻すことで、「お野菜は私、私はお野菜」という分離できない循環を体感できると主張されました。これは「近代化の中で抜け落ちた部分を取り戻す」行為であり、宇宙空間での資源循環にも通ずる、未来のインフラのあり方への示唆し、話題提供を締めくくられました。

 話題提供後に行われたディスカッションでは、教職員、学生、企業関係者が交わり、多角的な議論が交わされました。例えば、循環プランターを通じて、植物は人が「育てる」のではなく、環境が整えば自ら「育つ」存在であることを実感したという声や、学校現場で子どもたちが土や虫に触れる体験が減っていることへの危機感などが共有されました。成果や効率を重視する社会の中で、過剰とも思える自然のエネルギーや人の情熱を、どのように受け止め、価値として認めていくのかという問いが浮かび上がりました。
 最後に堂目SSI 長が議論を総括し、経済成長や効率性を最優先してきた近代文明に対し、「美を味わい、愛を実践すること」としての文明の可能性に言及しました。循環畑の実践は、自然環境の再生にとどまらず、人と人との関係性を回復し、命を慈しむ感覚を取り戻す社会的な営みであると述べました。
 今回の会は、「マネーバイアス」という視点を手がかりに、私たちが当たり前だと思ってきた価値観や生活の前提を足元から問い直す機会となりました。お金を中心に据えた思考から一歩距離を取り、命の循環やつながりに目を向けることが、分断が深まる時代において新たな社会の可能性を開くことが、参加者の間で共有されたといえるでしょう。