ご挨拶

命を大切にし、
一人一人が輝く社会を
目指して

社会ソリューションイニシアティブ長 
堂目卓生


社会ソリューションイニシアティブ長 堂目卓生

人類は命をまもり、はぐくみ、つなぐために、道具や技術、言葉や知識など、文明を発展させてきました。特に18世紀の産業革命以降、科学の進歩と技術の革新によって、富の種類と量を著しく増大させました。富の増大という点に限ってみれば、近代は人類史上最大の成功をおさめたと言ってよいでしょう。しかしながら、富の増大は、人口の増大を伴い、地球温暖化や環境破壊、天然資源の枯渇、食糧不足など、地球規模の問題を引き起こしています。問題を放置すれば、貧困、飢餓、伝染病、内乱、テロ、戦争、犯罪などによって不本意な死を迎える命が世界で増大するでしょう。命をまもり、はぐくみ、つなぐための文明が、命を脅威にさらしているのは皮肉なことです。人類は文明の原点に立ち返って、命を大切にし、一人ひとりが輝く社会を構築しなくてはなりません。

日本は、高い教育水準と勤労意識によってアジアで最初に産業の近代化を図ることができた国です。第二次大戦後は、平和主義のもと国民が一体となって復興のために努力し、高い技術と優秀な労働力によって経済大国になりました。しかし近年は少子高齢化や人口減少によって財政難や地方の衰退など、様々な問題に悩まされています。今後、過去から学んだ命の大切さを忘れず、高い技術と誠実で勤勉な人材を活かし、国内の問題を解決するのみならず、世界の人びとと協働して人類の発展と安寧に貢献することが求められています。

世界や日本が深刻な状況に陥っているにもかかわらず、学問の分野では細分化と専門化が進み、社会とのつながりが希薄になっているように思います。今こそ、分野の壁を越えて知を結集し、社会の現場における経験知を取り入れながら、人類が直面する諸課題に挑まなくてはなりません。そして、2030年、2050年、さらには2100年に向けて、持続可能な共生社会を構想しなくてはなりません。

このような問題意識のもと、大阪大学は、未来社会を構想するシンクタンクとして、2018年1月1日に「社会ソリューションイニシアティブ」(SSI)を立ち上げました。SSIは持続可能な共生社会を「命を大切にし、一人一人が輝く社会」として捉え、命を「まもる」、「はぐくむ」、「つなぐ」という視点から、社会の現場の人々と協働して諸課題に取り組み、あるべき社会を構想します。