SSIサロン / シンポジウム

第8回SSIサロン開催報告
「センス・オブ・ワンダーと社会―研究はどこから生まれどこへ向かうのか」

<日時>  2019年9月26日(木)18時〜20時30分
<場所>  大阪大学会館2F SSI豊中ラウンジ
<参加者> 35名
<プログラム>
・開会挨拶  堂目卓生 SSI長・経済学研究科教授
・話題提供1 声を出すこと(音を立てること)によって、
       人間は何をしてきたか? 何をしているのか?
       伊東信宏 文学研究科教授/音楽学
・話題提供2 社会にとって現代数学の研究は必要か 
       和田昌昭 情報科学研究科教授/数学
・話題提供3 基礎研究から社会課題解決まで:単一分子科学における挑戦
       谷口正輝 産業科学研究科教授/バイオテクノロジー
・ディスカッション(モデレーター:木多道宏 SSI企画調整室長・工学研究科教授)
・食事をとりながらのダイアローグ

社会における「研究」の位置づけ

2019年9月26日、第8回目のSSIサロン「センス・オブ・ワンダーと社会―研究はどこから生まれどこへ向かうのか」が開催されました。参加者は35名でした。レイチェル・カーソンが著書の題名に用いた言葉である「センス・オブ・ワンダー」をタイトルに、今回は大阪大学から複数の分野の教授三名を招いて、社会における研究のあり方について議論しました。文学研究科から伊東信宏教授、情報科学研究科から和田昌昭教授、産業科学研究所から谷口正輝教授にお越しいただき、話題提供をいただきました。

研究の「役立ち」とは

サロンは、まず文学研究科の伊東信宏教授からの話題提供で始まりました。伊東教授は音楽学を専門にされ、今回のサロンでは「人間にとって音楽とは何か」をテーマにお話をいただきました。現代音楽の先端から、音楽の始原を探る研究までを紹介される中で、音楽学とは、「仕事/遊び」「役に立つ/無益」といった区分を揺さぶることでcriticalな想像力をもつことを目指すものであると強調されました。

次に、情報科学研究科の和田昌昭教授から話題提供をいただきました。数学を専門にされる和田教授からは、社会の中で数学が果たす役割をお話しいただき、我々が生きる現代社会のあらゆるところで数学がその基礎となっていることをご紹介いただきました。1936年に別の目的で作り出されたマシンが後に現代のコンピューターの原型になったことを例に、今後どのような科学技術が役に立つのかを現在の地点で把握することはできないとお話しされました。

最後に、産業科学研究所の谷口正輝教授より話題提供をいただきました。工学を専門にされる谷口教授は、ご自身の研究とその応用実績を例に、大学で研究することと企業で研究することが目指すものの違いをお話しいただきました。谷口教授が研究されてきた細菌、ウィルス、DNA等を「一つから測定する技術」のこれまでの応用例を紹介され、大学は技術の先端を追求する場、企業は技術の水準を保ったままいかに量産するかを考える場と分けて捉えていると述べられました。

社会にとっての研究、研究にとっての社会

昨今の大学においては、研究者たちが、いわゆる「象牙の塔」に籠るのではなく、研究成果を社会へとしっかり還元していくことが求められる風潮が高まっています。その中で、研究は「役に立つ」ことが求められ、それに沿う形での研究テーマの選別がなされる方向へと進み出しています。今回のサロンでは、研究が「役に立つ/立たない」という区分の不安定さ、またそれが「役に立つ」かを現在の地点で判別することの困難さが提起されました。和田教授は、社会にとって必要な知識を蓄積していくうえで、それが好きな人(研究者)に気の向くままやらせることが最も効率的であり、「役に立つ」分野を定めるのではなく、全体的に「ばら撒く」ことがベストな方法ではないかと述べられました。

しかし、一方で、研究者が現実的に直面している問題は、その研究が「役に立つ」かどうかを示すことではなく、社会の資源に限りがある中で、「どれぐらいその分野の研究者が必要なのか」という問いであると和田教授は続けます。一方で、「役立つ」ことの判別は難しく、それにこだわらず研究者が関心の向くままに研究へと打ち込むことが社会にとっても最も効率的な方法であること、他方で、資源に限りがある中で研究を事前に判別する必要があるという現実。そうした状況の中で、社会は研究者にどのような研究を求めていけばよいのか、また、研究者はどのように社会と向き合っていけばよいのか。今回のサロンを通して一つの最終的な「答え」のようなものへとたどり着いたわけではありませんが、社会全体が変革へと向かい、研究のあり方、大学のあり方がその問い直しを迫られている中で、それを考える一つの重要な機会になったかと思います。